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特集企業の“志”をどう伝えるか

(2011.8.2/2011年8・9月号 特集)

「マーケティング3.0」と広告コミュニケーション
早稲田大学   商学学術院長 兼 商学部長   恩藏 直人 氏

「コトラーのマーケティング3.0」がマーケティング関係者以外にも広く読まれ、今後の企業活動の大きな流れを作ろうとしている。「マーケティング3.0」とは何か。日本のマーケティング研究の第一人者で、本書の監訳者でもある早稲田大学 商学学術院長の恩藏直人氏に聞いた。

──「マーケティング3.0」とは、どのような考え方なのでしょうか。

  マーケティングのコンセプトはマクロ経済の状況に対応しています。経済環境が変われば、顧客の行動も変わり、マーケティングも変わる。過去60年間のマーケティングの考え方の変遷は製品中心から顧客中心という流れでした。
  製品中心の考え方が「1.0」で、製品マネジメントのためのプロダクト、プライス、プレイス、プロモーションの4Pをひたすら追求すれば良かった。次に顧客中心で考えるのが「2.0」で、そこで重視されていたのがSTPです。つまり、セグメンテーションを考え、ターゲットを明確にし、ポジショニングを定めることが求められるようになったわけです。
  そこに、企業の収益性と社会的責任を両立させるマーケティングも加わってきた。それがコトラーの言う「3.0」の考え方です。特に、グローバル市場で展開する企業や社会的影響力の強い企業は、収益だけを考えた今までのマーケティング発想だと、どうしても行き詰まってしまう。製品・サービスの社会的価値や企業ビジョンを提示する発想がマーケティングに求められるようになってきたということです。

マーケティング1.0、2.0、3.0の比較

マーケティングの新たなステージ

──その「マーケティング3.0」をどう評価していますか。

  これまでコトラーの著作の翻訳に10冊以上携わってきましたが、「違和感」と「斬新感」、両方を感じたというのが正直なところです。
  まず違和感は何かと言うと、スピリチュアルな要素が入っていることです。コトラーは近代マーケティングの創始者で、マネジリアル、つまり経営者視点に立ったマーケティングを体系化してきました。しかし、この本では、これまで取り上げられたことのない精神性や人間中心といった考え方が色濃く打ち出されています。
  一方、斬新さを感じたのは、マーケティングのステージが新たに塗り替えられたという印象を強く持ったからです。コトラーは1969年に“Broadening the Concept of Marketing(マーケティング・コンセプトの拡張)”という論文を発表し、その中で、病院、学校、教会、芸能界、政治、NPOから恋愛に至るまで、あらゆる分野にマーケティングは応用できると言っています。それは横への拡張でしたが、「3.0」は新たなステージへの展開、マーケティングの「進化」とも言えるものだと思います。

──実際、企業のマーケティングは「3.0」に向かっているのでしょうか。

  今回の震災で「3.0」への動きが加速したという話はよく聞きます。「3.0」は、人類・社会の「ハピネス」をゴールにマーケティングをアジャストしていく考え方ですので、震災への対応という非常事態の企業活動で理解が進んだのだと思います。
  もう一つ「3.0」を加速させている要因が、今回の震災でも活躍したツイッターなどソーシャルメディアの普及です。メディア環境の変化が、マーケティングの変化を促した面もあります。

──具体的な事例を紹介してください。

  大阪に天然ガストラックで運送業を営む「エコトラック」という会社があります。保有するトラック数が60、70台の小さな会社なんですが、パナソニックから「VIERA」を運ぶ運送会社として指定され、製品カタログにも同社の車両が掲載されています。配送トラックのCO2排出量削減方法を模索していたパナソニックと、同社の環境に対するビジョンが一致したわけです。そのおかげもあって、創業以来、同社の売り上げは右肩上がり、まさに「3.0」企業の典型だと思いますね。

──そういう会社が、今後は増えていくのでしょうか。

  そう思います。ただ、強調しておきたいのは、「1.0」「2.0」的なマーケティングも引き続き有効だということです。例えば、資生堂の「シーブリーズ」は一時期低迷していたのですが、数年前に、女子高生などハイティーンをターゲットとして、汗ばむ季節に街中で使う爽快グッズとしてポジションをチェンジしたことで、ブランドの再生に成功しました。つまり、「2.0」的なSTPの見直しで成功したわけです。

「3.0」の広告コミュニケーション

──広告コミュニケーションはどう変わるのでしょうか。

  これまでも経験価値や顧客満足など、さまざまなマーケティング・コンセプトが出てきましたが、広告コミュニケーションは、基本的なテキスト(教科書)を加筆修正すれば対応できました。
   ところが、モバイルやソーシャルメディアが普及する「3.0」時代のコミュニケーションに対応するには、テキストを全面改訂しなければならないほどの変化が生まれています。もちろん、広告認知率など基本的な指標は残ると思いますが、体系自体が変わってしまっていると思うんです。
  今までは企業と顧客の関係、「B to C」だけに注目していればよかったのですが、ソーシャルメディアによって顧客同士のコミュニケーション「C to C」、さらには顧客に影響力を持つブランドのサポーター的な人々とのコミュニケーションも意識しないといけない。サポーターと一緒にブランドを評価したり、製品開発から考えたりする「B with C」というコミュニケーションも生まれてくると思います。
  新聞広告について言えば、ソーシャルメディア上のクチコミの起点になることは確かめられていますが、今後もソーシャルメディアとの相性をさまざまな角度から深掘りする必要はあると思います。ただ、企業のマーケティングと同じように、従来型の新聞広告の使い方も必ず残る。今後は、「1.0」「2.0」「3.0」、それぞれのマーケティング手法に応じて使い分けることが必要になってくると思います。

Naoto Onzo

早稲田大学商学学術院長兼商学部長。1982年早稲田大学商学部卒業後、同大大学院商学研究科へ進学。早稲田大学商学部専任講師、同助教授を経て、96年早稲田大学商学部教授。2008年より現職。専攻はマーケティング戦略。主な著訳書に「競争優位のブランド戦略」(日本経済新聞出版社)、「コトラーのマーケティング・コンセプト」(監訳、東洋経済新報社)、「戦略的ブランド・マネジメント」(共訳、東急エージェンシー)、「コトラーのマーケティング3.0」(監訳、朝日新聞出版)などがある。