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広告リポートfrom Europe

(Fri Jun 05 10:00:00 JST 2015/2015年5・6月号 from Europe)

心から喜ばれる仕掛けで、ファンを作る
国友 俊   パリ駐在

  欧州でチケット入手が困難なスポーツイベントの一つが、サッカークラブ王者を決するUEFAチャンピオンズリーグである。その貴重なチケットを販売する窓口の前に設けられた特設ステージで、多くの人々が見守る中、挑戦者は本大会のアンセム(応援歌)を歌い上げる。大きな声で堂々と歌う人もいれば、自信がなさそうに声を震わせて歌う人もいる。歌唱力をシステムが判定し、高得点者にはなんと観戦VIP席がその場で無料プレゼントされるという仕掛けで、当選した人はもろ手を挙げて大喜びだ。

  この「The Last Tickets(最後のチケット)」 企画を行ったオランダのハイネケンは、エクスプリエンシャル(体験)・マーケティングを早くから取り入れた先駆者で、近年はグローバルキャンペーン「Open Your World(自分の世界を切り開こう)」と称し、多種多様な体験型キャンペーンを各国で行っている。デジタル化によって、消費者個人とブランド・商品が接点を持つ機会は増えているが、体験マーケティングはそれ以上に消費者を楽しませ、時には教育し、特別な感情を抱かせることで感情移入を誘い、ブランドのファンを作る。感動がソーシャルメディアや動画サイトなどでシェアされることで、さらに広がりを生む。

  スウェーデンの世界最大の家具メーカー・イケアは、英国の店舗内で一晩を過ごす体験型イベントを企画しフェイスブックのファングループから募集をかけたところ、10万人近い人々から応募が寄せられた。その中から選ばれた100人が実際に宿泊したことに加えて、有名人がベッドの上で本の読み聞かせを行ったり、睡眠エキスパートがマットレス選びのアドバイスを行うなど、工夫溢(ある)れる仕掛けを行った。誰もが一度は「やってみたい」と思うことを実現したという点で、単なるリアル体験以上のプロモーションであると言える。

  さて、欧州でオリンピック、サッカーW杯に次ぐ三大スポーツイベントと言われるほど絶大な人気を誇るのが自転車競技のツール・ド・フランスである。沿道に集まる観客は1200万人を超えると言われ、観光大国フランスを巡回する経済効果は計り知れない。この大会は100年以上前、スポーツ紙L'Auto(ロト)の部数拡大キャンペーンとして誕生。大会の成功により同紙は一躍有名となり、一時は100万部を上回っていたそうだ。その後紆余(うよ)曲折を経てL'Équipe(レキップ)と名称を変えて現在に至っている。

  同大会で特徴的なのが「広告キャラバン隊」で、スポンサーメリットの一つにもなっている。実は観客の半数がこれを目当てにしているというから面白い。レースを走る選手たちが訪れる1時間ほど前に、宣伝カーが200台以上、30以上のブランド、総勢1000人近いスタッフが沿道で販促グッズを配布するのだ。1930年代のスタート当初はわずか10台程度であったが、今では全長約20kmにも及ぶパレードとなっている。

  平均速度40kmを超える白熱したレースを楽しむと同時に、地場の料理、ワインを嗜(たしな)みながら、販促グッズをもらえると聞いただけでワクワクする。各スポンサーの投資額は数千万円だそうだが、消費者と絶好なタイミングに「手渡し」というリアル体験を通じて、エンゲージできるのは大きなメリットだ。

  心から喜ばれる仕掛けで、人生の思い出の1ページに残るリアル体験を提供する。これが本当に強いマーケティング手法であると改めて感じる。

国友 俊・パリ駐在

パリから180kmほど南下したオルレアンの街で、580年前から続く歴史的なジャンヌ・ダルク祭りを訪れてみました。市民から選ばれたジャンヌ・ダルク役の少女が、中世の鎧を纏い、兵隊を引き連れて行進する姿は、勇ましく印象深いものでした。