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広告リポートfrom Asia

(Mon Apr 06 10:00:00 JST 2015/2015年4・5月号 from Asia)

シンガポール国民が“シェア”するもの
有坂朋宏   前シンガポール駐在

  昨年のクリスマス、シンガポールに“雪”が降ったことを皆さんはご存じだろうか? もちろん、本物の雪ではない。様々な施策を通じて“Happinessのシェア”を目指すコカ・コーラが、雪とは無縁の南国で展開したアンビエント広告だ。常夏の国の人々は雪に対する憧れが強い。そこに目を付けた同社が“ホワイト・クリスマスをシェアするマシン”をフィンランドとシンガポールに設置。フィンランドに設置されたマシンの下部にある大きな受け入れ口に本物の雪を入れると、シンガポールのマシンから“雪”が噴き出るという仕掛けだ。最初は様子を窺(うかが)っていた子供たちも、次第にスクリーンを通して「疑似雪合戦」を開始。笑顔が溢(あふ)れる素敵な聖夜を楽しんだようだ。

  シェアといえば、シンガポールではルームシェアが一般的だ。アジアの金融センターになるまでに成長したシンガポールだが、国土が狭く、住宅費用が割高なため、シェアルームは家賃負担の軽減に一役買っている。シンガポール在住歴5年になる日本人の友人はこれまで6回引っ越したがすべてルームシェアを活用している。住まい探しの掲示板サイトには、賃貸物件情報やシェアメイト募集に関する最新の投稿が数多く掲載されている。エージェントを介さず簡単に物件検索が可能で、日常生活の中で手軽に異文化体験ができるのが魅力だ。

  シンガポールは人口の83%がHDB(Housing Development Board=住宅開発庁)という公共住宅団地に暮らす団地社会だ。コンドミニアム(民間による高層住宅)や土地付きの戸建て住宅に住まない限り、団地に住まなければならない。外国人はHDBを購入できないが、借りることは可能で、シンガポールで働く単身者の日本人の多くがHDBを借り、何人かでシェアしている。そしてこの団地社会こそが、多民族国家=シンガポールを実現可能にしている。政府は、EIP(Ethnic Integration Policy=エスニック統合政策)という民族別個数割り当て政策を実施しており、HDBは、特定の人種が個々の団地に集中することを防ぐだけでなく、政府が国民に基本政策を徹底する手段にもなっている。

  シンガポールにとって、2015年は建国50周年を迎える節目の年。地元紙ストレーツ・タイムズには連日、政府や政府系企業が国民の一体感を醸成し、自尊心をくすぐる広告を掲載している。中でも「The Pioneering Spirit. Since 1965.」というキャンペーン広告には、建国とともに歩んできた市井の人々がシリーズで登場し、特設サイトでは彼らの生き様や苦労話が語られている。85歳でも現役で働くホーカーの女性、瀟洒(しょうしゃ)なシャツに麦わら帽を被り、腕に入れ墨が光る船乗り、首にかかるいくつものメダルが輝かしい戦歴をしのばせる往年のサッカー選手……国の発展を担ったパイオニアたちの表情はどれも笑顔と自信に満ち溢れている。

  1965年にマレーシアから分離・独立の道を選んだ波乱の歴史は、わずか半世紀でアジア随一の活況を呈する経済国家へと変貌した。その陰には、多民族国家の隅々まで、自尊心と誇りを“シェア”している国民一人一人の姿があるのだ。

  今回で私の執筆は終了します。次号からはバンコクより最新情報をお届けします。1年間ありがとうございました。

有坂朋宏・前シンガポール駐在

シンガポールの国旗の赤は友好と平等を、白は美徳と純粋性を、5つの星はそれぞれ民主主義・平和・進歩・正義・平等の5つの理想を表します。今年の8月9日(ナショナル・デー)に建国50周年を迎えるシンガポール。これからも注目していきたいと思います。