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コラム数字を読む

(Wed Feb 05 12:36:00 JST 2014/2014年2・3月号 数字を読む)

Vol.1 神永正博 東北学院大学 工学部 教授

写真:インド・チェンナイ数学研究所にて

Masahiro Kaminaga

1967年東京生まれ。京都大学大学院理学研究科数学専攻博士課程中退。博士(理学/大阪大学)。2010年度は数理科学研究所(Institute of Mathematical Sciences)客員研究員としてインドに滞在。主な著書に『不透明な時代を見抜く「統計思考力」』(日経ビジネス人文庫)、『未来思考』(朝日新聞出版)、『ウソを見破る統計学』(講談社ブルーバックス)、『「超」入門微分積分』(同)など。

Masahiro Kaminaga

写真:インド・チェンナイ数学研究所にて写真:インド・チェンナイ数学研究所にて

婚約に踏み切る時期は、付き合い始めて8ヶ月まで?

  あなたはご結婚されていますか? 結婚されている方は、付き合ってからどのくらい経ってから結婚を決めましたか? まだの方は、どのくらいお付き合いをしてから結婚を決めると思いますか?
  出し抜けに質問攻めですみません。男女が付き合い始めてから婚約するまでの期間について、真面目に考えてみたいと思ったのです。
  結婚というのは一生に関わる重大な意思決定ですから、慎重にも慎重を期さなければならないでしょう。その観点から言えば、期間は長くなるのが自然、ということになるはず。しかし一方で、結婚には勢いが重要だ、と言う人もいます。
  一体どちらが正しいのでしょう。どの時点で婚約するか、その割合を瞬間婚姻率と言いますが、そのピークはどこにあるのか? 3年、それとも1年くらい?
  データを見てみると、瞬間婚姻率のピークは8ヶ月あたり。付き合い始めてから8ヶ月のカップルのうち、約40%の人が結婚を決めています。その後の1ヶ月で急落、後はじわじわ下がり続けます。結婚という重大な事柄を、みんな結構短期間で決めてしまっているようなのです。8ヶ月という期間は、相手がどんな人かを知るためには十分とは言い難いですが、逆に言えば、それを超えると夢から覚めてしまうのかもしれませんね。

  統計学的には、8ヶ月までとそれ以降では、結婚に踏み切るメカニズムが異なることが知られています。元々は故障の確率を計算するための「複合ワイブル分布」というもので表すことができるのです。8ヶ月以前は「摩耗故障モード」、それ以降は「初期故障モード」と言われています。モードの順序が逆ではないかと思われるかもしれませんが、学術的都合によるものです。
  電化製品の保証期間内に起きる故障を想像するとよいかもしれません。摩耗故障は、時間が経過すればするほど起きやすくなりますよね。結婚を故障と思えば、8ヶ月までは時間が経てば経つほど起きやすくなり、その後徐々に減っていきます。結婚を故障というのは少々不謹慎ですけれど、結婚に踏み切るには、ある種の気持ちの区切りがあり、それまでつながっていた糸(まだ結婚しなくてもいいと思う気持ち)が互いの魅力という力で引っ張られて切れてしまうと考えれば、あながちおかしな呼び方ではないかもしれません。
  これは結婚したい人にとっても応用可能な知識です。もし結婚したいと思っている方がいたら、付き合い始めてから半年くらいの間に勢いで結婚モードに入ってしまい、そこから数ヶ月で婚約してしまうことを、数学者としてはお勧めしたいと思います。ちなみに私も、付き合い始めてから8ヶ月で婚約しました。出来すぎた話ですが本当です。

飲酒運転による交通事故の減少 が意味するのは?

  人間のずる賢さを感じさせるデータもあります。
  「交通安全白書」の飲酒運転による交通事故発生件数のデータを見てみると、平成12年に26280件(死亡事故は1276件)でピークを付けてから減り続けています。
  平成13年からモラルが向上したのでしょうか? 事故そのものは減っていなくても、この年から警察による取り締まりが緩くなった、ということも考えられますね。スピード違反などは、取り締まり月間の際に検挙件数が急増することはよく知られています。何か他に重大な事件があった場合にも、犯罪件数が減って見えることがあります。例えば、学生運動が盛んだった時代に、自転車泥棒の件数が激減したことがあります。残念ながら、実際に自転車泥棒の件数が減ったわけではなく、学生運動の制圧のために警察のリソースが割かれてしまい、自転車泥棒のような軽犯罪まで構っていられなかった、ということです。このように、犯罪統計というのは警察の取り締まり方針にも左右されますから、それらの原因も疑ってみる必要があります。

  しかし、本当の原因は、法律の改正にあったようです。平成13年から道路交通法が改正され、酒酔い運転では、それまで2年以下の懲役または10万円以下の罰金だったものが、3年以下の懲役または50万円以下の罰金となりました。酒気帯び運転でさえ、3ヶ月以下の懲役または5万円以下の罰金だったのが、1年以下の懲役または30万円以下の罰金に厳罰化されたのです。
  データを見ると、平成18年から19年にも事故件数が急減しているのですが、これも罰金が引き上げられるなど、さらなる厳罰化の影響です。特に、平成19年に自動車運転過失致死傷罪が新設され、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金、という重いペナルティーが科されたことなども功を奏しました。
  このデータを見るに、「リスクをある程度計算して、危険を冒す人たちがいる」と言わざるを得ません。頭の中で、この程度ならやってもいいだろう、無理をしてもいいだろう、と思っていることそのものが、実際の数字として表れているようなのです。厳罰化されたので飲酒運転をしないようにしたドライバーがいる一方で、何も気にせず飲酒運転を続けるドライバーもいた、と考えられます。人間は案外、計算高い生き物なのですね。

前期試験落ちたら、後期再履修 のチャンス。その結果は?

  本当にそうかなぁ、と思われる方がいらっしゃるかもしれませんね。こんな話もあります。私は大学の工学部で、数学を教えています。数学にもいろいろな科目がありますが、1年生の前期に開講している微分積分学は、とりわけ重要な科目です。工学部で教わる内容の多くは、微積分抜きには理解できないものばかりだからです。そのため、後期にこの科目の再履修クラスを設け、テストの点数が悪かった学生について、同じ年度内に再チャレンジの機会を与えることにしました。1年生のうちに、きちんと基礎固めして欲しかったのです。
  そんなある日のこと。2人組の学生から、こんな質問がありました。「微積は、再履修クラスで合格すればいいんですか?」もちろんそれは事実ですから、YESと返事するほかありません。しかし嫌な予感がしますね。
  その後、いざ再履修クラスを設け、学生の間に周知されるようになってから、何が起こったと思いますか? そう、前期の合格率が低下してしまったのです。要するに再履修クラスがあるのなら、何も前期で頑張る必要はない、というのでしょう。2回受験できるのだから、1回は手抜きで構わないと。これには参りました。
  「前期に一生懸命やって、不合格になってしまった学生へ再チャンスを!」とばかりに教師が発揮した、ささやかな親切心。それがサボる口実になることもあるのです。もっとも定期試験でサボる学生が増えた程度であれば、さほど深刻な問題ではありませんけれども。

  データを見ると、賢く、時に愚かな人間たちが浮かび上がってきます。
  結婚相手を決めるとき、私たちは冷静さを失っているのかもしれませんが、冷静であり続ければ結婚などできません。罰則によって一杯引っ掛けるのをやめたり、歩いて帰る人が増えれば悲惨な事故も減りますが、罰則を強化しても残る飲酒運転の背後には、アルコール依存症のような深刻な問題が隠れているのかもしれません。チャンスがあれば試験勉強をサボる学生が増えるのは、「何のために勉強するのか」という教育の本質に対する挑戦のようにも思えます。
  統計をうまく使って、人間の本音を浮き彫りにした例は無数にあります。そこには、意外なビジネスチャンスが埋まっているのではないでしょうか。