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コラムマーケボン

(Thu Feb 05 10:00:00 JST 2015/2015年2・3月号 マーケボン)

スマホゲームにハマって……
『板谷バカ三代』(ゲッツ板谷著/角川文庫) 平塚元明 マーケティングプランナー

  はじめは業務上のリサーチのつもりだった。ちょっと触っておくか、とスマホのゲームアプリをダウンロード、だいたいの様子が分かったところで切り上げようと思っていたのだが、だんだん面白くなってきて、あと少し、あと少し、とやっているうちに、気が付いたら1年が過ぎていた。

  見事にハマった。まだ当分抜けられそうな気がしない。まあ、こうなるんじゃないかとは薄々わかっていたのだが。高校時代、当時出始めだったコンピューターをいじってゲームプログラムを嬉々(きき)としてつくっていたら、いつのまにか青春が終わっていた香ばしい過去。数学研究部部長。オタクという言葉はまだ無かったけれど、そういう体質なのだ。間もなく家庭用ゲーム機が出てきて、これはマズイとそれらを遠ざけたが、しかしその後、広告会社で家庭用ゲーム機の市場導入を担当、業務上のリサーチということで手を出したら案の定。コントローラーを持つ腕を支えていた膝の具合に変調をきたすまでどうにもやめられなくなった。20年たった今も寒くなると膝が痛む。

  またやっちゃった……という感じではあるが、今回のスマホゲームがやめられないのは、そこに〈仲間〉がいるところ。いわゆるソーシャルゲームというやつで、複数人でチームを組んで、世界中のチームと対戦できる仕組みになっている。全く面識のない人がたまたま集まったチーム。作戦を練るための簡易なチャット欄があって、そこでことさら立ち入った話を交わすわけではないのだけれど、会話の端々から察するに、普段なら互いにほとんど全く交わることのないであろう社会属性が交錯していることがうかがえて、これが何とも不思議で面白いのである。

  現場があるから早起きしなきゃ、雨が降らないといいな、といつも夜の10時頃には画面から消える土木作業員の彼がチームのリーダー。長距離の途中だからその時間までに攻撃に参加できるかどうか……これはトラック運転手。今日は同乗研修でずっとログインできなかった……同乗研修という言葉を調べてみるとどうやらタクシーの新米運転手らしい。年末年始も仕事という家電量販店の店員や、決まって明け方近くの時間にログインして一息ついていく気のいい姐(ねえ)さん……等々。中には、四六時中ログインしていてどうにも属性の見当がつかない人もいる。あ、それは私もか……まさか48歳のオッサンだとは思うまい(笑)。

  なんかね、こういうの懐かしいんだな。今は東京にいて、たくさんの人たちと日々仕事をしている。いろんな個性の人がいて、いろんな刺激をもらう。でも、どうもそれは一定の社会属性の幅の中に限定されてしまっているような違和感が私にはある。田舎で育ったせいかしら。地域に一つしか学校がなくて、みんなそこにつっこまれる。そこで起こったあれこれを思い出してみるに、今の生活は極めて帯域が狭いというか。スマホゲームに参加する人にもある種の傾向のようなものはあるにはあるのだろうが、それは例えばフェイスブックがつないでくれる関係よりも、格段に混沌(こんとん)としていて属性横断的だ。

  最近、若いマーケターと話すと、帯域が狭いな……と感じることが多くなってきた。聞けばだいたい都市育ち。これも時勢か。今回の推薦本は『板谷バカ三代』(ゲッツ板谷著)にする。著者が自分の家族について書いた月刊誌の連載コラムを集成したもの。抱腹絶倒、はちゃめちゃなエピソードが連続するから、全くの荒唐無稽に見えるかもしれないが、そう感じたら自分の帯域の狭さを疑ったほうがいい。その帯域外の世界を知っている人が読むと、この本の世界はものすごく強烈なリアリティーがあるのである。そう言われてみると自分は子供時分から細分化された属性の幅の中で育ってきたのかもなぁ……と思い当たった人はぜひ。

イメージフォト

スマホのゲームで私はチームのサブリーダー。メンバー募集のWEBページをつくったり、対戦名場面をムービーにして動画共有サイトにアップしたり……と結構労力を割いている。「よくできてますね」とメンバーからは好評。まさかプロがやってるとは思うまい(笑)。

本誌デザイン/阿部雪絵デザイン室

〔筆者プロフィル〕

1967年生まれ。1989年博報堂入社。マーケティング局〜博報堂電脳体〜インタラクティブ局を経て03年に退社、現在はフリーで活動中。(株)博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所客員研究員、(株)博報堂プラニングハウスフェロー、(株)パズル社外取締役、(株)ants相談役、「宣伝会議」レギュラー講師。著書に「ポスト3.11のマーケティング」(共著)など。 http://blog.goo.ne.jp/omiyage22