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コラム広告日和

(Thu Feb 05 10:00:00 JST 2015/2015年2・3月号 広告日和)

「背伸び」の企画。
澤本嘉光 電通 CDC エグゼクティブ・クリエーティブディレクター/CMプランナー

  年間にそこそこの数、講演や講義を依頼して頂くことがある。広告業界であったり、大学であったり、なんの関係があるんだろう?というところであったり。少しでも広告やアイデアについて興味をもってくれる人を増やそうと思って東京でも地方でもできるだけお受けしているので、そういうお話でよろしければぜひ。
  で、人前で話す時、毎回の終わりにこう言うことにしている。「何か質問はありますか、あれば遠慮せずどうぞ」
  でもこれで本当に遠慮しない人はなかなかいない。だいたい遠慮しないような人は嫌いだし。なのでほとんどの場合はすぐには質問が来ない。気まずい沈黙の時間が流れる。「皆シャイだから」と担当の人は言うけれど、自信を持って僕の方がシャイだ。そこから質問はあったとしてもとても表面的な事が多い。たぶん「この人に一個も質問が無いとかわいそうだからなにか無理に見つけてでも質問しないと」と思ってくれて無理にしてるんだろうなあ、という内容とか。なので「何か質問はありますか?」と聞いたあと、すぐにこう付け加えることにしている。「でも、まあ、そう言われても今いきなり手を挙げると、『あ、あいつ真っ先に手を挙げるようなヤツなんだ』と皆に思われちゃうから手なんか挙げられないですよね〜。大丈夫、そういうヤツだって思わないから挙げてみてください」
  そうすると、多少の笑いが起こったあと、ポツポツと手が挙がり出す。言い方って大事です。あと、多少の笑いと。

  毎回似たような質問。そのひとつに、「どうすればいい仕事ができるようになると思いますか?」という漠然としたものがある。これ、正解がある訳ではないのだが、質問された時に思い浮かぶ事をその日の気持ちに正直に答えることにしている。
  よく言うのは、「企画というのは天才でもない限りいきなりゼロからは出ないから、考える上では、ひらめくにしろなんとかしてアイデアにたどり着くにしろ、モトとなる材料、アーカイブの知識量が基礎になる。だからとにかく自分の中のアーカイブを増やすように努力する」という話だ。僕は入社1、2年目とかの時には会社にある過去のCM作品は暇ある限り全部見たし、映画も好き嫌い関わらず見ていざというときの引き出しの材料を増やしていった。ある業種の過去作品は、問題の解答例だ。同じ問題の解答方法を何通りも知っていれば、まったく手が出ない、ということはなくなる。
  実際努力できる事ってそれくらいで、あとはついた先輩たちに本当に恵まれた、運だ、と思っている。「運も、来た時に捕まえる準備が必要ですよね」なんて誰かが言ってただろうイイコト風な事を言っている。本音だけれど。

  ある時、同じ質問に、ついカッコつけて「イイコト風2割増で言ってみようかな」なんて邪念でふと答えた言葉に、自分で「そうかも」と納得してしまったことがある。それは、「背伸びをすればいい」という答えだ。
  言ってしまってから自分に当てはめてみたのだが、僕がして来た事はすべて背伸びなんじゃないか?と思える。自分の今の姿以上に人によく見せたい、大きく見せたい、という欲望のままの背伸び。いい案を出せるヤツと思わせて少し見栄を張るにはどうしようか、とか。いい先輩についた時に馬鹿だと思われないためにはどう準備すればいいのか、とか。知らない話題につい知ってる風の反応をしちゃった時に、本当に知ってるに変えないといけないとか。話題についていっていないと思われるのがシャクで、次に知ったかぶりをするために詳しくないジャンルについて調べるとか。すべて、背伸びして自分を大きく見せようとしていただけなのかも知れない。
  見栄っ張りとも、カッコつけとも言うと思う。確かにかなりの負けず嫌いではあるし。特に、優秀な先輩と一緒にいたり、他ジャンルのすごい人と話したりする時に、なんとかその話題にくらいついていこうとする努力は背を伸ばすコツだった気がする。そう、自分の仕事は、自分の実力以上のものになんとか混じろうとして必死で背伸びをしているうちに本当に背が伸びて来た歴史の繰り返しだ。プロ野球選手とかがまず大口たたいて、それを達成しようともがいて現実にするのと似ていなくもないかも知れない。
  実際の身長でも学校で前の方だったので友達と話す時は斜め上を見ていたが、常に背伸びをしていたいという気が生まれつき強かったのかも知れない。背伸びをすると視線が高くなる。見えなかったものがなんとなく見えてくる。そうすると、もっと背伸びがしたくなって、また視点が高くなる。の繰り返しなんだろうなと。
  尊敬する人や優秀な人のそばに物理的にいられる、話す機会があるということをただありがたいと喜んでるだけじゃなくて、背伸びしてでも着いていこうとか食い付こうと思うようにしないと。利用してやる!という気合いというか。その意識があるのとないのとでは将来の開きが天と地になる。それ、若い時は気がつかないんですね、なかなか。いまだに、自分でも背伸びしないといけないような場所や状況に自分を置こうとあえてするのが、自分が放っとけば退化しそうなものを食い止める唯一の対策だと思う。
  なので、見栄を張ったり、カッコつけたり、いいこと言おうと無理したり、ぜひしてほしいと思います。
  広告もジャンルが広がり、背伸びしないといけない所が多岐にわたっていて、いまだに僕も背伸びし続けている状況ですし。逆に背伸びしないと老化現象で縮んじゃうと思うんですよね。元々でかくないので、とにかく縮まないようにしないといけないな、と思って、すごいなと尊敬できる人を探して近づくようにしています。なので、いつもつま先立ちです。

〔筆者プロフィル〕

1966年、長崎市生まれ。1990年、東京大学文学部国文科卒業、電通に入社。ソフトバンクモバイル「ホワイト家族」、東京ガス「ガス・パッ・チョ!」、中央酪農会議「牛乳に相談だ」、家庭教師のトライ「ハイジ」、トヨタ自動車「ドラえもん」、読売新聞など、次々と話題のテレビCMを制作している。著書に小説「おとうさんは同級生」、小説「犬と私の10の約束」(ペンネーム=サイトウアカリ)。前者は読売新聞会員制サービスyorimoの連載を単行本化。後者の映画脚本も執筆。2014年1月に公開された映画「ジャッジ!」の脚本も担当。クリエイター・オブ・ザ・イヤー(2000年、06年、08年)、カンヌ国際広告祭賞、ADFEST(アジア太平洋広告祭)グランプリ、クリオ賞、TCC賞グランプリ、ACCグランプリなど、受賞多数。数多くの海外の広告賞の審査員も歴任。