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コラム広告日和

(Fri Dec 05 10:00:00 JST 2014/2014年12月・2015年1月号 広告日和)

ラジオとイタズラ。
澤本嘉光 電通 CDC エグゼクティブ・クリエーティブディレクター/CMプランナー

  ラジオが好きだ。
  高校生の頃、学校帰りに友人の家に集まり、K君にイタズラ電話をかけた事がある。こんな犯罪の告白でコラムにしてしまうのも申し訳ないが、時効なので許してほしい。って時効なのかな?
  僕らはラジオ番組のパーソナリティー。「のりちゃんてるおのノリノリイブニング」とかいう架空の番組を名乗り、いきなりKに電話して「てるおで〜す! K君おハガキありがとう! このクイズに正解すると1万円差し上げます!」とたたみかける。「え、ハガキなんて出してません」というKを完全に無視して「さて第一問!」とクイズを進行。「のりちゃんの今日の体重はさて何キロでしょう?」「…わかりません」「1万円のチャンスです! 5、4、3、2、1」「うーん、63キロ」「すごい! 正解です!!」。もう適当以外の何物でもない。
  とにかくKは「え、僕今ラジオに出てるんですか! すごい! どこの放送局ですか?」などとラジオ出演自体に興奮。聞かれると嘘がバレるので「TBSラジオですが、受話器の近くにラジオがあるとハウリングを起こすので、ごめんなさい、このまま続けましょう!」なんて口からでまかせで逃げまくり、彼をラジオに近づけない。体重を答えるだけのクイズで1万円獲得したことになっている彼には、「のちほどスタッフから1万円の送り先をお伺いする電話が行きます」なんて細かいフォローまでして、もちろん電話もかける。
  翌日は学校で「聞いたよ! ラジオ出てたじゃん! すげえな1万円!」とさらにフォロー。Kは、なかなか1万円が来ないとしばらく不思議がっていた。
  しかし、思い返せば本当に申し訳ない事をしている。大学入試直前にこんな事してるから、受験失敗して当然だ。

  今、このイタズラ電話がたぶん成功しないのは、ナンバーディスプレイでかけて来た電話番号がバレる、という理由だけではないだろう。ラジオを若い人が聞いていないので、この突然のシチュエーションに共感がない。なにより、ラジオという機械が近くにないからハウリングも起こす心配すらないし。そもそも「ラジオ」という機械を見た事もない人もいるらしい。聞いたことがあれば、ラジオならではの「送り手と聞き手がダイレクトにパーソナルにつながっている感覚」を知っているから、この直で話し手と聞き手がつながったイタズラ電話にリアリティーも強く感じられると思うのだが。
  ただしものは考えようで、インストールするとスマホで簡単にラジオが聞けるradiko(ラジコ)がある今、6000万台以上のスマホはすべてラジオだと考える事が出来る。思い立ったらすぐラジオを聞ける人がその分だけいるということだ。つい最近までラジオの聞き方も知らない人だらけだったのに。
  「ラジオ」は受信機の名前ではなく、放送して音声を同時に不特定多数に送り届けるシステムの名前だと思えば、「ラジオ」を聞いてもらうにはいろいろな方法や努力がまだ残っている気がする。TOKYO FMの金曜20時から30分、「すぐに終わりますから。」という極めて自虐的な番組名の番組でしゃべる側にまわらせて頂いて、どうしたらたくさんの人に聞いてもらうかを考える機会が増え、まだすべき事がたくさん残っていると痛感している。
  まずは、radikoについてスマホ所持者のほとんどが知ってくれていないと、このポジティブな妄想は成立しない。意外と知りません、みんな。仮に、今までなかった「ラジオ」という音声同時伝達システムが今日急に開発された、とすると、今の若い人たちが考える「ラジオ」というものは、番組内容、放送の仕方含め、今の使い方と同じことになるんだろうか? 全く違うものになる気すらする。古くなっているのはシステムではなく固定概念なのかも知れない。

  広告をつくっている僕たちがすべき事は、ラジオCM自体にコンテンツとしての魅力を増させることだ。
  それで、最近、ACC全日本CMフェスティバルのラジオCM部門審査委員長ヅラして幾つかのラジオ番組に出させて頂いて、傑作CMを紹介してまわっている。聞いてくれた方は揃(そろ)って「面白い」「感動した」と言ってくれるのだが、それは、今までそういったラジオCMを聞いた事がないということでもある。残念だ。たくさんあるのに。
  CMの制作も、異業種の人の参加を活発にして活性化したい。例えば審査員をお願いした吉本興業のグランジ遠山さんとはお笑いの方がラジオCMの企画制作に参加すればまた新たなラジオの魅力が増えるのではと話している。コピーライター対吉本。学生の参加もアリアリである。そう、ラジオはもっとイタズラできる実験的でラジカルなメディアであるべきだ。近くで起きている面白い事に聞き耳を立てている感じ、本音を話してくれている感じは時代も年齢も関係なく楽しめるはずだ。
  僕はテレビで話すのは緊張するしカッコつけようとするので極力避けているが、ラジオは常にイタズラしてる感じで楽しんでいる。聞くだけでなく、出るのも。ラジオはこの数年どう頑張るかでいろいろ変わってくる、逆に言うと決まってしまうのではないかという気が強くしているので。僕はラジオでイタズラをしばらく続けたいなと思う。
  ただし、イタズラ電話はもうしません。K君ゴメン。1万円は来ません。

〔筆者プロフィル〕

1966年、長崎市生まれ。1990年、東京大学文学部国文科卒業、電通に入社。ソフトバンクモバイル「ホワイト家族」、東京ガス「ガス・パッ・チョ!」、中央酪農会議「牛乳に相談だ」、家庭教師のトライ「ハイジ」、トヨタ自動車「ドラえもん」、読売新聞など、次々と話題のテレビCMを制作している。著書に小説「おとうさんは同級生」、小説「犬と私の10の約束」(ペンネーム=サイトウアカリ)。前者は読売新聞会員制サービスyorimoの連載を単行本化。後者の映画脚本も執筆。2014年1月に公開された映画「ジャッジ!」の脚本も担当。クリエイター・オブ・ザ・イヤー(2000年、06年、08年)、カンヌ国際広告祭賞、ADFEST(アジア太平洋広告祭)グランプリ、クリオ賞、TCC賞グランプリ、ACCグランプリなど、受賞多数。数多くの海外の広告賞の審査員も歴任。