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コラム広告日和

(Mon Oct 06 15:00:00 JST 2014/2014年10・11月号 広告日和)

僕の人生を変えた「ガンバの冒険」、影響を与える広告を
澤本嘉光 電通 CDC エグゼクティブ・クリエーティブディレクター/CMプランナー

  今回は読んでくださる人には極めてどうでもいい話を書きますので、どうでもいい事が嫌いな方はここで読むのやめちゃってください。あとで、「どうでもいいじゃねえかこんな事」と怒られても何もできません。
  「人生を変えた一冊ってなんですか?」という質問をされた事があります。すごく困りました。読んだ本がたくさんありすぎて選ぶのに困った、のではなく、あまりちゃんとした本を読んでいないんじゃないかと気がついたからです。それで何か自分が変わった書物を考えると、例えば星新一の短編はどの本ということなく好みに影響を与えているとは思うし(おかげでSFが好きになって企画に軽いSFのものが多くなってますね)、太宰治の小説群は落ち込んだときに全部一気読みして、「俺、この本の主人公よりマシな人生だ」、と立ち直ったとかそういうのはあるんですが、「この一冊」ってないなと。というか、小説自体あまり読んでないんじゃないかという気もしてきます。

  じゃあ、何がそういう一冊なんだろう? そう思って枠を漫画まで広げると、いや、すごく考えやすい。それも具体的に。ちばあきおの「キャプテン」の墨谷二中と青葉学院戦のイガラシの延長18回の裏のふらふらな姿とか、ちばてつやの「あしたのジョー」のホセ・メンドーサ戦の15ラウンドの朦朧(もうろう)とした姿とか。書いてるだけでも泣きそうですが。
  どちらもフラフラですが、あの姿がなければいま広告の仕事で企画をボコボコにされても立ち上がろうなんて思わないです。僕の頭のどこかにイガラシがいて、この打席にも立つのがやっとな状況からサヨナラホームラン打つんじゃないかと思ったり、ジョーが意識飛んでるような状況からトリプルクロスカウンター決めるんじゃないかと思ったりする訳です。くり出した企画をクロスカウンター気味にダメだしパンチで顔面に返されても、それをはねのけて相手の力を利用して数倍にしたパンチで殴り倒すというか。
  ただ問題は、両者ともこの試合で燃え尽きてしまうということで、イガラシはベース一周できなくて墨谷二中は全国大会を棄権。矢吹丈に至っては真っ白な灰になっちゃったって事ですけれど。とにかく、最後の最後まであがく、もしかしたらそこに何か起こるかもと期待してしまうのは、ちば兄弟のおかげです。
  「あしたのジョー」は、漫画はもちろん映像化されたものも素晴らしくて、出崎統さんの演出、とくにあのCMの前に来る色の抜けた止めカットの印象がとても強く残っています。この出崎さんの演出が、実は体に相当染み付いてるというのが解ったのは30歳を超えてからです。

  出崎統さんつながりでやっと今回の最もどうでもいい本題に到達するのですが、僕の人生を変えた一冊、いや、一本と言えるのは、同じく出崎さんが演出された「ガンバの冒険」なわけです。ガンバ最高。これはもう本当に素晴らし過ぎて迷惑なアニメで。歌は気がつくと歌ってますし。凶暴な殺戮(さつりく)者である白イタチのノロイの止めカットの絵が怖くて寝れなかったりしました。
  話作りとしても、キャラクターを作っていくというのがどれだけ大事なのかをこのネズミたちから学んだ気がします。ガンバ、ヨイショ、シジン、ガクシャ、イカサマ、ボーボ、忠太。名前を見るだけでほぼキャラクターが解るわかりやすさ。僕はガンバも好きなのですが、イカサマが大好きで、サイコロを毎回振りながら客観的に様子を見ている姿、気にしてないふりしてサイコロで未来の結果を占ったりする姿、そのくせ、意外と仲間思いで文句言いながらもリーダーを助ける姿を見て、将来こういう斜に構えた姿勢で純粋に生きたいななんて間違えた理想を持ってしまったおかげで、ガンバに成り切れずにずっとサイコロ2つ振って運を見ている気がします。斜に構える必要ないのに。
  そうか、書いていて気がついたけれど、運とか、縁とかをものすごく信じちゃうのもイカサマの影響なのかも知れないです。そして、最後、絶体絶命のピンチに、ふと耳にした歌から起死回生策を出して殺戮者であるノロイを倒す話とか、やっぱりあきらめちゃいけないな、とか純粋に思う訳です。どこにヒントが隠れてるかわからないと。それだからいま殺戮者、とまではひどくない相手と粘りながら戦っていけるんだろうなあと思います。
  でも、例に挙げた話が全部ボコボコにされてふらふらになる話ですね……。
  本当にどうでもいい話で申し訳なかったと思います、ここまで読んで頂いて申し訳ないです。ただ、せっかく広告を作っていけるなら、後々に、あのとき見たあの広告で人生少し変わった、とか、一人にでもいいので言ってもらえるようなモノを作っていきたいなと常に思っています。
  楽をしようとすると楽できちゃう仕事なので、きちんとあきらめないで戦うべきところは戦う、ということを今回改めて思い直しました。ガンバは弱気になりそうなとき、決断しないといけないとき、「尻尾を立てろ!」と言うのですが、これは、NIKEで言うところの「JUST DO IT.」です。やってやるぜ!みたいな。素晴らしいコピーだと思います。
  ってことで、尻尾を立てながら生きて行こうと。すみません、ただの個人的な話で。ソフトは確実に良くも悪くも人生に影響する、という例として見てくだされば。

〔筆者プロフィル〕

1966年、長崎市生まれ。1990年、東京大学文学部国文科卒業、電通に入社。ソフトバンクモバイル「ホワイト家族」、東京ガス「ガス・パッ・チョ!」、中央酪農会議「牛乳に相談だ」、家庭教師のトライ「ハイジ」、トヨタ自動車「ドラえもん」、読売新聞など、次々と話題のテレビCMを制作している。著書に小説「おとうさんは同級生」、小説「犬と私の10の約束」(ペンネーム=サイトウアカリ)。前者は読売新聞会員制サービスyorimoの連載を単行本化。後者の映画脚本も執筆。2014年1月に公開された映画「ジャッジ!」の脚本も担当。クリエイター・オブ・ザ・イヤー(2000年、06年、08年)、カンヌ国際広告祭賞、ADFEST(アジア太平洋広告祭)グランプリ、クリオ賞、TCC賞グランプリ、ACCグランプリなど、受賞多数。数多くの海外の広告賞の審査員も歴任。