特集

2010.2・3/vol.12-No.11・12

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社会的課題と広告コミュニケーション

国産農産物消費拡大に向けた次のアクション

 現在、日本の食料自給率は41%と主要先進国の中で最低水準にある。2008年10月、その向上に向けた国民運動「FOOD ACTION NIPPON(フード・アクション・ニッポン)」がスタートした。生産、流通、消費が密接に結びついた食料自給率向上に農林水産省はどう取り組んでいるのだろうか。立ち上げから1年余りたった現状を聞いた。

──フード・アクション・ニッポンをスタートさせたきっかけは何だったのでしょう。

 2008年度に有識者で構成される「食料の未来を描く戦略会議」が取りまとめた国民へのメッセージを受けて、政府では食料をめぐる諸事情に対する国民の共通認識の醸成を図り、食料自給率向上を目指して、消費者、生産者、事業者、行政機関といった各主体による取り組みを促進していくことになりました。フード・アクション・ニッポンの立ち上げは、その一環です。折しも2006年度の食料自給率は、冷害で米が大不作だった1993年度を除き通常年では初めて40%を切り、危機感も感じていました。
 食料自給率を上げること自体は、過去から政府の方針としてあったのですが、それまでの農水省は食料自給率の向上に関してどちらかというと生産対策を中心にやってきました。しかし、生産物ができても、それを食べてくれる人がいなければ最終的には食料自給率も上がっていきません。それで、消費面の対策を強化するためにフード・アクション・ニッポンを立ち上げたということです。

──消費面の対策とは?

フード・アクション・ニッポンの公式サイトより
http://syokuryo.jp/

 目指すところはシンプルで、「国産農産物を、みなさん食べてください」ということです。日ごろスーパーで買いものが多い人は国産農産物を選んでいただければいいし、コンビニの利用が多い人は国産の原材料を使った商品を選んでいただければいい。当然、お店に売っていなければ買いようがありませんから、メーカーや流通の方々にも協力をお願いする。食料自給率の向上は、生産・流通・消費が密接に結びついている。そのさまざまな取り組みが、フード・アクション・ニッポンということです。

いかに行動を起こしてもらうか

──具体的にどのような取り組みをしてきたのでしょうか。

 政府が取り組んでいることをいかに伝え、理解を促進するかが通常の政府広報の役割だと思うのですが、ただ知ってもらうだけでは食料自給率は上がりません。スタート1年目は、フード・アクション・ニッポンの認知を高めることにも配慮しながら、それをいかに自分のこととしてとらえて、行動に移してもらうかに重点を置いてきました。
 今年度、食料自給率を身近なこととして考えてもらうためにイメージキャラクターになっていただいたのが、プロゴルファーの石川遼選手と女優の黒木メイサさんです。ふたりを起用した広告では、「日本の食料自給率向上に向けて、自分の食料自給率を知ることから始めましょう」と呼びかけ、公式サイトの「食料自給率チェッカー“けいさん!こくさん”」への誘導も図りました。

2009年3月19日 朝刊 2009年3月19日 朝刊
──「フード・アクション・ニッポン応援団」も組織されていますね。

 趣旨に賛同する芸能人やアスリートなどの著名人に応援団になってもらっています。石川遼選手、黒木メイサさんも応援団ですが、彼らを通してファンの人たちに、食料自給率向上の重要性が浸透していくことを期待しています。応援団の方々からの応援メッセージは、YouTubeで配信しています。
 それから、業種・業態を問わず多くの企業・団体の参加をお願いしているのが「推進パートナー」です。今、パートナーは2500を超えています。流通、食品メーカー、旅館・ホテル、大学、自治体などさまざまなところがあるのですが、業態が直接食料に関係なくても、社内食堂で「きょうのランチの自給率何%」というような掲示を出していただいているところもあります。

──昨年末の「わたしのアクション」募集というのは?

 実際の行動に一歩踏み出してもらうために始めたものです。自分の生活の中で、食料自給率アップにつなげるためのアイデアや宣言を、公式サイトに自由に応募してもらい、自給率向上のために自分に何ができるのか考えてもらう。それが行動につながると期待しています。

──広告で、赤松広隆農林水産大臣が「週に3個米粉パン」という宣言をされていますね。

 これは「わたしのアクション」のために、赤松大臣とフリーアナウンサーの永井美奈子さんに対談をお願いした時、書いてもらったものです。実は、自給率を1ポイント上げるためには、週3個ではなくて、みなさんが月に3個米粉パンを食べていただくだけでいいんです。

2009年12月16日 朝刊 2009年12月16日 朝刊

今後は米粉の普及に力を

──夏の広告では、野菜をテーマにしていました。

 今年度は、夏には旬の夏野菜をもっと食べてもらうために、広告では話題のお店を営んでいる料理人や女将さんといった「7人の食の達人衆」のレシピを紹介しています。
 次の展開として現在、力を入れているのが「米粉」なのです。それで、昨年10月にフード・アクション・ニッポンの一環として「米粉倶楽部」を立ち上げました。米粉の生産者、製パン業者、スーパー、コンビニなど流通業者、小売業のみなさんに協力してもらって、米粉の普及と消費拡大に取り組もうという活動です。

2009年8月24日 朝刊 2009年8月24日 朝刊
──なぜ、米粉に力を入れようとしているのでしょうか。
公式サイト内にある米粉倶楽部のページ 公式サイト内にある米粉倶楽部のページ

 煎餅の原料も米粉ですが、昔ながらの米粉は粒が大きく、用途が限られていました。それが、最近は製粉技術の向上で、微細粉で上質の米粉ができるようになり、パンやスイーツ、パスタなどに用途が広がってきたんですね。当然、米粉の消費が増えれば、食料自給率も向上します。それで、その普及に力を入れようということなんです。
 日本人が米を食べなくなったのは事実で、1965年度は1人、1日茶わん5杯食べていたのが、今は3杯しか食べていない。摂取量が6割まで落ちています。一方、日本で消費する小麦粉の8割は輸入で、年間に輸入される小麦粉は約500万トンに上ります。この1割を米粉に替えるだけで、食料自給率は1ポイント以上、上がるんですね。
 それに日本は、長い歴史を通して米を作ってきました。米が供給過剰になりだして以降、田んぼで大豆をつくりましょう、麦をつくりましょうとやってきたのですが、水を使う稲作は連作障害も起こさないし、やはり田んぼは、米を作るのに適しているのです。それなら、米の別の使い道を見つけようということなんです。

家畜飼料の国産化も図る

──1月に「フード・アクション・ニッポン アワード2009」の結果が発表されましたが。

 アワードは食料自給率向上に寄与した事業者・団体などの取り組みを募集し、すぐれた取り組みを表彰する目的で始めたものです。われわれの予想をはるかに上回る1204件の応募があって、それらを審査委員の皆様に審査いただき、45件の受賞者が決定しました。
 第1回アワードの結果は、青森県藤崎町の常盤村養鶏農業協同組合が大賞と農林水産大臣賞をダブル受賞しました。同農協では、養鶏用飼料の自給率アップを目指し、地元の休耕地で飼料用米を生産し、それを給与して生産された卵を生産しています。トウモロコシと比べ、飼料用米にはほとんど色素がないため黄身がレモンイエローなところが特徴的で、味も栄養も遜色はないそうです。価格設定は高めだそうですが、販売は順調だと聞いています。
 主なニワトリの餌であるトウモロコシは、ほとんどが輸入です。それを米に替えることは自給率の向上に大きく寄与します。日本の家畜の飼料自給率はわずか26%に過ぎないため、国産の鶏肉や豚肉の消費が増え、さらに飼料自給率が上がることによって、食料自給率も大きくアップさせることができます。

──食料自給率を2015年に45%にするのが当面の目標ですね。

 政府の食料自給率の目標は、「食料・農業・農村基本計画」(注)の見直しに併せて5年ごとに見直され、この中で食料自給率の目標も定められています。現在の目標になっている45%は、2005年に掲げられた目標値です。この3月に新しい基本計画が策定され、食料自給率の新たな目標も定められることになると思います。
 食料自給率に関して様々な議論があることは承知していますが、国産農産物の消費が増えること自体は、決して悪いことではない。フード・アクション・ニッポンは、米粉を始めとしたすべての国産農産物を対象として、運動への理解と参加を得ながら、次の一歩を進めていきたいと考えています。

(注)「食料・農業・農村基本法」が2000年度に施行されたが、その法律に基づいて「食料・農業・農村基本計画」が5年ごとに見直され、10年後の食料自給率の目標も定められている。今年はその見直しの年に当たる。


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