特集

2010.2・3/vol.12-No.11・12

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社会的課題と広告コミュニケーション

ソーシャルコミュニケーションはどうあるべきか

 2009年4月、電通内にソーシャルコミュニケーションを専門とするプランニングユニット「ソーシャル・デザイン・エンジン」が立ち上げられた。このユニットを率いるのが本田亮氏だ。20年前から環境問題に取り組み、「エコノザウルス」の環境漫画家としても知られている本田氏に、広告会社とソーシャルコミュニケーションのあり方について聞いた。

──ソーシャル・デザイン・エンジンを立ち上げた理由は?

 昨年の正月頃から準備はしていたのですが、メンバーをある程度そろえて設立を宣言したのは4月1日です。
 リーマンショック後の不況でソーシャルな話題が多く出ていた時期ですが、そういった社会の動向とは関係なく、以前からソーシャルなテーマに関心を持って活動していたメンバーが自然発生的に集まって生まれたものです。
 メンバーの福井崇人や籠島康治も、2025プロジェクトという活動を通して環境・社会問題に関心がある著名人とNPOなどとの橋渡しをしていましたし、僕も20年前から環境問題をテーマにした漫画を描いたり、5年前からWFP(国連世界食糧計画)の広告を作ったりしてきました。そういう人間が電通のあっちこっちにいたのですが、これまでバラバラに活動していて大きなパワーにならなかったのです。
 ソーシャル・デザイン・エンジンを立ち上げるきっかけとして、2008年に社内にソーシャル・プランニング局ができ、僕がそこのメンバーになったというタイミングがあります。その時に、ソーシャルを中心に活動してきたプランナーたちを集めて、積極的に汗を流すチームを作るいい機会だと思ったんですね。

──ソーシャル・デザイン・エンジンは、プロジェクトですか。

 会社の中にそういう部署があるわけではなくて、非常に柔軟なバーチャル組織、プロジェクトです。最初は僕を含め7人でスタートしたのですが、固定的ではなくて、案件に合わせて柔軟に増やしています。

──メンバーは本田さんが集めている?

 僕が引っ張ってきています。「こいつは意識が高くて、使える!」と思ったら、この案件、ちょっとヘッドになってやってみないかと声をかける。ただ、組織的にはきちんと兼務という形をとっていますから、単なるバーチャル組織ではなくて、半分はこちらに籍があります。

──ソーシャル・デザイン・エンジンが、やろうとしていることは何ですか。

 このままいったら人間と地球の未来はどうなるか、誰もが不安に思っていますよね。産業や生活のあり方を新しいシステムに移行しなければならない時期に来ていると、誰もが思い始めている。大きな意味でいえば、僕らが今まで培ってきたコミュニケーションの力を使って、新しい社会システムにできるだけ速やかに移行するために少しでも力添えしたいというのが、ソーシャル・デザイン・エンジンを立ち上げた理由です。また、そういう企画ができるメンバーを集めました。

広告会社のCSR

──これまでのモノを売るためのコミュニケーションと、ソーシャルコミュニケーションの違いは何でしょうか。

 モノを売るためのコミュニケーションは今後も重要だと思いますし、逆に、どれもこれもソーシャルの枠の中に納めようとすると、かえって失敗すると思います。
 ソーシャルコミュニケーションとは何か。一言で言うのはむずかしいのですが、企業にとってはCSRとかなり重なる部分の多いコミュニケーション活動だと思っています。モノを売るためのコミュニケーションは社会や地球の未来のことはそれほど考えて作られてはこなかった。そこで重要なことはモノが売れたかどうかという視点です。ところがソーシャルコミュニケーションはそういうわけにはいかない。モノと同時に僕らの未来もよくしていかなきゃいけない責任がある。そこは大きな違いだと思います。NPOと一緒に行う活動も多いので、広告会社としても彼らの活動に貢献するスタンスで参加していかないといけない場面も多くなります。

「TABLE FOR TWO」PRポスター1

「TABLE FOR TWO」PRポスター2

「TABLE FOR TWO」POP

「TABLE FOR TWO」PRのために作ったポスターとテーブル用のPOP

──CSR的なスタンスというのは?

 ソーシャルコミュニケーションを考える場合、何でもかんでもお金の枠に入れて考えることはむずかしい。場合によってはCSR的な観点から、広告会社が取り組むべき課題だと思えば、その解決に積極的にかかわって、アイデアや仕掛けを提供して貢献していく。それを自分の会社のブランドづくりに生かしていくという方法も一つの理想形です。
 最近も「TABLE FOR TWO」という活動を行っているNPOをコミュニケーション面で支援するために、ソーシャル・デザイン・エンジンでアイデアを出したものがあります。
 「TABLE FOR TWO」というのは、企業の社員食堂を通して社会貢献するNPOです。先進国にはカロリー過多で成人病に悩んでいる人が多い。そこで、社食でカロリーの低い食事をオーダーすると、その減らしたカロリー分のお金がアフリカの子どもたちの給食費になるという活動です。1食20円程度ですが、これはアフリカの子どもたちの給食1食分の金額です。もう200社近くの企業で採用されているのですが、それぞれの企業では自分の会社でそういうシステムを採用していること自体、知らない社員も多いそうです。それで、電通の社食で「TABLE FOR TWO」を導入するにあたり、よその社食でも使えるポスターやPOPのアイデアを考えたのです。
 ポスターのモデルは弊社社長の高嶋です。おなかの出た高嶋とやせた高嶋の2種類のビジュアルを合成でつくり、やせた方にはアフリカの子供が一緒に写っているデザインにしました。日本人がカロリーを減らすと、アフリカでご飯を食べられる人が1人増えるというメッセージを、動くと変化する特殊なポスターで表現しました。その他にも、フラッグやテーブル上のシールなどユニークなPOPを考えて、NPOに提供しています。

※TABLE FOR TWOのサイトは http://jp.tablefor2.org/

NPOとコマーシャリズム

──そういうNPOに対する協力自体はお金を生まないわけですね。

 ただ、NPOの活動を支援することが、僕らの会社のブランドを強くすることはあり得る。最初から、いくらもうかるからという発想では、ソーシャルコミュニケーションはできないと思いますね。
 もちろん、こうした活動に国のお墨付きをもらって、企業を巻き込みさらに大きなキャンペーンとして展開させ収益を上げるという場合もあります。あるいはNPOの立場を理解して汗だけ提供する場合もあります。やはり、広告会社も食べていかなければいけないですから、すべてを社会貢献だけでやるわけにはいきませんが、ソーシャル・デザイン・エンジンのようなチームの根底には、社会貢献意識がなければダメだということだけは確かです。

──NPOの活動を企業も積極的に受け入れるようになってきている?

 そう思います。エクスチェンジというNPOがあるのですが、古着の自由交換会をやっているところです。みんなが自分の古着を持ち寄って、タダで交換し合っている。自分は何も持っていかないで、気に入った古着を持ち帰ってもいい。お金がそこに発生しないわけで、今の市場経済を完全に否定しているような活動とも言えます。
 一般的に考えれば、商業的に利用しようがないし、逆に商業主義によって膨らますのもよくない話に思える。でも、最近は企業の意識が変わってきて、このNPOの活動ですら自分たちのキャンペーンに取り入れたいというところがアパレルや流通業にも現れてきています。企業は、それをCSRの一環として使って、間接的な販促活動にも利用しようとしているんですね。

──NPOの活動が、それによってゆがんでいくことはないですか。

 そうならないために、逆に、僕らがNPOに対してできる支援というものもあります。彼らの活動の方向性を見ながら、それがぶれることなく成長するためのルール作りやコンセプトブック作りという面でも、僕らはNPOをサポートできると思っています。実際、エクスチェンジのブランド管理や会の育て方について、今、相談に乗っているところです。

ドネーションミュージックとは

「ドネーションミュージックプロジェクト」の第1弾として配信された「BEYOND THE BORDER」

「ドネーションミュージックプロジェクト」の第1弾として配信された「BEYOND THE BORDER」。このほか、このプロジェクトにはJAYWALK、ジャズシンガーの青木カレンなどが参加。収益は「国境なき医師団」に寄付される

──ドネーションミュージック(寄付音楽)にも取り組んでいるということですが。

 昨年、7月1日からACジャパン(旧公共広告機構)で難民地域や開発途上国に医師を派遣する活動を行っている「国境なき医師団」支援の広告キャンペーンを制作したのですが、キャンペーン期間中にもっと団体を支援する仕組みはできないかと考えたのがきっかけです。それで、キャンペーンで使われたCMテーマソング「BEYOND THE BORDER」をPCサイトや携帯サイトからダウンロードして購入すると、流通経費を除く収益がすべて医師団に寄付されるという仕組みを考えたのです。
 僕らは、これを「BEYOND THE BORDER PROJECT」と呼んでいるのですが、音楽の配信は昨年9月1日からスタートし、今年6月末まで行われています。1件につき約100円の寄付、1万件ダウンロードを目指して進行中のプロジェクトです。

──ほかのキャンペーンにも、使えそうな仕掛けですね。

 実は、狙いもそこにあって、これを一つの例として、新たな音楽による寄付の仕組みができれば「ドネーションミュージック」という音楽のジャンルができるのではないかと期待しています。
 動物や自然環境などアーティスト自身が支援したいことのために「ドネーションミュージックを作りたい」と言ってくれるようになればと思っています。これをアーティストのCSRという意味で、僕らは「ASR」と呼んでいます。ASRしたいアーティストは世の中にたくさんいるんじゃないかと思います。

「BEYOND THE BORDER PROJECT」のサイト

「BEYOND THE BORDER PROJECT」のサイト

「BEYOND THE BORDER PROJECT」のサイト
http://www.beyondtheborder.info/

──広告キャンペーンのCMソングは、まさにドネーションミュージック向きかもしれませんね。

 広告会社ができることの一つは、そこだと思います。CMソングも、ただキャンペーンを盛り上げるための音楽ではなくて、社会に貢献できる音楽のほうがいいというクライアントもいると思うし、逆に、ドネーションミュージックの中からCMソングを選ぶという発想も出てくると思います。そうすると、ASRしたいアーティストとCSRしたい企業をつないでいくこともできる。それから、番組のテーマソングやウェブサイトの音楽をドネーションミュージックにするとか、そういう発想もどんどん生まれてくると思うんです。
 CMソングにドネーションミュージックが選ばれたときには、『インテル、はいってる』じゃないですけど、ドネーションミュージックロゴが必ず画面に出るような仕組みになるといいと思います。実は、そのロゴもすでに作ってあります(笑)。

最初の波紋を作るマス広告

──ソーシャルコミュニケーションにマス広告は、どんな役割を果たすと思いますか。

 ネットだけだと、小さなところにヒットさせることはできても、スケールとスピードのある広げ方がむずかしいと思うんですね。静かな水面に波紋を起こすためには、世の中の真ん中に投げるマスという石の強い力が必要だと思います。今後もマスの役割は非常に大きい。これまではマスだけで勝負することができたのですが、最近はマスを出しただけではダメで、その後の仕掛けがしっかりしていないと消費者は動かない。そこでネットに注目が集まっているわけですが、少し注目が集まり過ぎてマス広告の価値が過小評価されているようにも思います。
 マス広告の効果が疑われている要因は、それが今まであまりに有効だったために使い方がパターン化してしまったこともあるのではないでしょうか。 話題になる広告を作りさえすればそれでいいんだという作り手の安易な考え方も、消費者感覚から遠ざかっていると思います。

──そのパターン化をどうしたら抜け出せるかということですが。

 ソーシャルコミュニケーションに本格的に取り組み始めてわかったことですが、キャッチコピーやビジュアルをどうするかは最終段階でやればいいことであって、その活動を世の中に有効に広めていくためにどんな手法があるか、どんな仕掛けがあるかを考えていくことの方が、より重要だということです。そうすると、この一枚の広告ではなくて、その紙の向こう側にある、全く思いもしなかったメディアの使い方も見えてくる。
 僕自身、ソーシャル・プランニング局に本籍はありますが、今もクリエーティブ局を兼務しています。今まで商品広告を30年間も作ってきていますから、広告に携わってきた人たちが感じるソーシャルコミュニケーションに対する違和感や戸惑いも、ものすごくわかるんです。最初のうちは僕自身も発想の転換がむずかしかった。でも、その一方で、これまでの広告の作り方だけだったら、広告の未来も、進歩もない気がするんですね。
 例えば、企業の周年広告ですが、どうしても企業の自画自賛になってしまいがちです。しかし、そういうときこそ、社会に認められる企業としてソーシャルコミュニケーションをやるいい機会だと思うのです。パターン化した周年広告が姿を変えてCSR的な役割を担う。企業の言いたいことや実績を胸を張って伝えると同時に、正しく見える仕組みも加えて周年広告を作れば、消費者にとって企業の記念すべき年が他人事じゃなくなると思います。それはまさにソーシャル・デザイン・エンジンの仕事にもなります。

──正しく見えるというのは、どういうことですか。

 突き詰めれば、「サスティナブル」という言葉になると思います。大量生産・大量消費の20世紀の社会から、サスティナブルな方向に21世紀の社会が動いていかなければいけないのは目に見えています。企業の活動自体もサスティナブルに変わらなくちゃいけない。それを実現する仕組みを加えてコミュニケーションを設計するということです。ただ単に話題になるだけでは、ソーシャルコミュニケーションにはならない。少しくらいインパクトが小さくても、正しい方向を選択するというのが、ソーシャルコミュニケーションのあり方だと思うのです。

広告の力を社会に生かす

──本田さん自身が環境問題に興味を持ったきっかけは何だったのですか。
『エコノザウルス カウントダウン』 本田 亮 /椎名 誠 著 小学館刊

『エコノザウルス カウントダウン』
本田 亮 /椎名 誠 著 小学館刊

 1989年にパリダカールラリーを見てみようと思って、サハラ砂漠を横断したのですが、サハラ砂漠というのは、真っ赤な砂漠がずうっと続いているんですね。ところが、その中に真っ白な砂漠があった。珍しいと思って、車を降りて写真を撮ろうとしたのです。そうしたら、それが全部、貝の山だったんです。 近くの寂れた村で聞いたら、そこは以前、豊かな湖だった所で、それがあっという間に干上がってしまって、住んでいた漁師も生活ができなくなったということです。
 砂漠化という話は新聞では知っていましたが、こんなふうに進んでいくのかと実感したんです。『猿の惑星』という映画に自由の女神が砂に埋もれて発見されるシーンがありますが、あれと同じような衝撃を受けたんです。それから、いろいろな環境関係の本を読み始めました。
 ところが、環境関係の本にはみんなが知らなくちゃいけないことがたくさん書いてあるのですが、むずかしくて、硬くて、暗いものばかりで、全然実感が伝わってこない。みんなが読みたくなる本ではなかったんです。一方、自分がやっている広告という仕事は、むずかしい商品をできるだけわかりやすく、楽しく、インパクトを強く伝える仕事なわけです。それで、広告の考え方で環境問題をやってみよう、漫画を描いてみようということから始まったんですね。北極圏の氷がなくなることも20年前に描いたけれど、当時は誰もリアリティーを持って受け止めてくれなかったし、仕事でソーシャルと言っても、誰も相手にしてくれなかったんです。
 ソーシャル・デザイン・エンジンを作ってからは忙しくて、今のメンバーだけではこなせない状況になっています。自分からやらせてくれというクリエイターもどんどん増えてきています。もちろん、ソーシャルコミュニケーションだけで会社が成り立つかと言ったら、それだけでは成り立たない。しかし、これはどの企業にも言えることだと思うのですが、「うちの会社も、世の中をいい方向に持っていくために汗をかいて、ちゃんとやっているよ」という社員の自負と両立させないと、これからの会社は成り立たないと思うんですね。


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