特集

2009.10・11/vol.12-No.7・8

  • この記事をクリップ!
  • newsing it!
  • Buzzurlにブックマーク
  • このエントリーを含むはてなブックマーク

企業にとっての生物多様性

生物多様性と社内コミュニケーション

 リコーは、「先進国は2050年に環境負荷を2000年比8分の1に低減する必要がある」と表明し、自ら環境負荷削減のための具体的な取り組みをはじめている。環境経営のリコーは、生物多様性をどうとらえ、その保全にどう取り組もうとしているのだろうか。

――リコーが環境活動に積極的に取り組んできた理由は何でしょうか。

 益子 現会長の桜井正光が社長に就任した96年当初から、環境に積極的だったことが大きいですね。「企業の成長と環境保全は両立する」という信念で環境経営に取り組んできました。環境と経営を高度にバランスさせないと高いレベルの環境保全活動は実現できない、そのための環境技術開発がこれからの企業の競争力になるというのが桜井の考えで、私たちの環境への取り組みのベースになっています。

――生物多様性を、どのようにとらえていますか。

 益子 環境負荷と地球の再生能力、という観点から説明するとわかりやすいと思います。
 企業は、これまで省エネ、省資源、汚染防止といったことに努力してきましたが、これらは環境負荷を下げるための活動です。しかし、CO2の排出量に代表されるように、世界全体で見ると環境負荷は高まる一方です。WWF(世界自然保護基金)のウェブサイトに、人類の生活をまかなうために地球がいくつ必要かを示したエコロジカルフットプリントという指標があるのですが、これが80年代後半に1を超えてしまって、今は地球が1.3個必要になっています。
 一方、地球の再生能力、別の言葉で言えば、自然の恵みをもたらす生態系はどんどん劣化しています。同じWWFの世界の生物の種類と個体数を指数化した「生きている地球指数」では、70年を1とした時に、今は0.7にまで下がっています。この生態系、地球の恵みが、「生物多様性」と呼ばれるものです。
 シーソーに例えると、今は人間社会の環境負荷のほうが大きく、地球の再生能力の方が小さい状態です。つまり、地球の原資を食いつぶして生活しているということです。企業が持続可能な発展をするためには、環境負荷を地球1個分以下にして、同時に地球の再生能力を高め、利息で生活していくようにしないといけないということです。

リコーの地球環境保全の考え方
企業の持続的発展のためには環境負荷を地球の再生能力の範囲内に抑える必要がある
――リコーは、それにどう取り組もうとしているのですか。

 益子 では、どのくらい私たちは努力しなければいけないかですが、環境負荷の削減については、今後の人口増加や化石燃料・鉱物資源の枯渇など様々な要因を考慮すると、先進国は2050年に今の8分の1まで環境負荷を削減する必要があるというのが私たちの結論です。これを基にリコーは2020年、2050年を照準とした中長期目標を設定し、具体的な取り組みを始めています。
 しかし、これだけで未来は安心かというと、そうとも言えません。なぜなら、生物多様性が失われつつあるからです。だから、この努力もしなければいけないということなんです。

取り組みは99年から

――生物多様性保全にリコーが取り組み始めたのは、いつ頃からでしょうか。

 益子 自覚的に取り組み始めたのは99年からです。環境社会貢献という位置付けで、まず「森林生態系保全プロジェクト」があります。これは本社が進めているプロジェクトで、NGOと一緒になって世界各地の重要な森林を守る活動です。現在、日本が2か所、ロシア、中国、フィリピン、マレーシア、ガーナ、そしてブラジルです。例えば、ブラジルの場合は、大西洋岸のバイア州ボアノバ地区に広がる低地熱帯林ですが、違法伐採や焼き畑で97%が消失していました。地域の行政や住民と協働して、その森の復元を行っています。
 また、日本をはじめ、世界各地の工場や販売会社などのリコーグループでも生物多様性を守る活動を行っていて、01年から環境行動計画に組み込んでいます。特に、タイではお客様と一緒に保全活動を行う先駆的な取り組みを行っています。
 それから、社員が土日を使って自主的に地域で生物多様性保全のために活動することを目的とする「環境ボランティアリーダー養成プログラム」、生物多様性保全の輪を広げるために、ウェブサイトの開設やシンポジウムも実施しています。
 こうした活動は、失われた自然環境の回復に自分たちが手を差しのべて貢献したいということで始めたものです。

――本業で取り組まれていることとしては?

 益子 リコーは、複写機、プリンターのメーカーですから、紙の調達と販売も本業の中に入ってきます。その調達基準に、紙の原料が原生林やオールドグロス林(注1)でないものという基準を設けています。それから、CDM(注2)プロジェクトの中で、環境植林を行っています。エクアドルで行っているのですが、以前、牧場として使われて放置されていた地域を原生林にかえす取り組みも行っています。

(注1)オールドグロス林は、樹齢200年以上の樹木が大部分を占める成熟した森林のこと。日本で使われている「原生林」という言葉は、天然のままで人手の加えられていない森林を指すが、オールドグロス林とほぼ同義と考えていい。

(注2)CDM(クリーン開発メカニズム)は、先進国が開発途上国に技術・資金等の支援を行い、温室効果ガス排出量の削減や吸収量を増加する事業を実施し、その削減できた排出量の一定量を支援元の国の温室効果ガス排出量の削減分に充当することができる制度。

――08年には、ドイツ政府が主導する「ビジネスと生物多様性に関するイニシアティブ」にも参画していますね。

 益子 「ビジネスと生物多様性イニシアティブ」は、ボンで開かれたCOP9で、ドイツ政府が民間企業に生物多様性へ関与することを求めて発足したもので、イニシアティブに署名し、「リーダーシップ宣言」を行った企業は、生物多様性の保全に配慮した企業活動をすることが求められます。日本の9社を含めた世界の34社が署名しました。
 その内容は、サプライチェーンを上流までさかのぼって影響を分析する、生物多様性指標を組み込んだ管理システムを作成する、生物多様性に関する目標を納入業者に通知し、納入業者の活動を企業の目標に合うように統合していくなど、かなりハードルは高いのですが、来年のCOP10までに筋道をつけるべく今取り組んでいます。

重要な社員の啓発

――そうした活動を社内外に伝えることも重要な活動だと思うのですが。

 益子 今、特に力を入れているのが、社内コミュニケーションです。これまで、社外には環境報告書やウェブサイト、広告などで我々の活動を伝えていたのですが、むしろ社内で理解してもらうことのほうが重要だと思うようになってきたのです。

――社内コミュニケーションが重要だというのは?

 伏見 今の企業全般に言えることだと思うのですが、社員の結びつきが希薄になってきているところがあります。そういうところに、環境のために「これをするな」「こうしなければいけない」と言っても、結局、環境嫌いを育てているだけかもしれない。社内コミュニケーションを重視しようというのは、そういう反省からです。社員の理解があってこそ、環境活動は進む。それが社員の家族や接しているお客様にも、いい影響を与えていくと思っています。
 私が担当しているのは、「環境ボランティアリーダー養成プログラム」と「ガイアイア」という新しく作った社内サイトです。「環境ボランティアリーダー養成プログラム」の初級編にあたる「自然教室」も、これまで植林や間伐など森林保全活動を中心に行われていたものを、地球環境を室内で学ぶ学習編と生き物の視点で身近な環境を見つめ直す野外編を組み合わせた形にリニューアルしました。地球環境の仕組みを知ることで、CO2の削減であれ、生物多様性であれ、自分から積極的に参加する意識になればというのが狙いです。
 それから「ガイアイア」ですが、これはリコーグループ社員のための環境情報ウェブサイトで、社外の人も自由に見られるサイトとして、今年の4月からオープンしました。
 生物多様性から環境配慮素材の解説、各国のグループ社員の取り組み、それから家庭の節約につながる省エネのヒントやボランティアの活動リポートまで、社員に興味を持って見てもらい、環境に対して気づきの間口を広げる意図から作ったサイトです。トップページの写真も「ガイアイアの写真家たち」ということで、実は社員が撮ったものを使っています。

 益子 サイトを社内向けにしたというのは、自由度が増すからです。企業の外向けのサイトは、どうしても行儀がいいものになりがちで、堅苦しくなってしまう。走り出したばかりなので、最終的にどこに行くかわからないところもあるのですが、そういう自由な場で、社員が相互啓発し合うようになってくれればいいと思っています。

リコーの社会環境ポータルサイト「Gaiaia(ガイアイア)」
リコーの社会環境ポータルサイト
「Gaiaia(ガイアイア)」

生物多様性のめざす姿

――リコーの生物多様性保全活動は、今後どのような方向に進むのでしょうか。

 益子 今後の課題ということで言えば、まず、生物多様性をどう測るかということがあります。今後は、生物多様性の視点で事業領域全体を見直すことになると思いますが、残念ながら、その物差しがまだ世の中に存在しないのです。環境負荷を2050年までに8分の1にするのが目標だと言いましたが、それは原材料の調達からお客様の使用、廃棄・リサイクルまで含めたライフサイクル全体の環境負荷削減です。それも生物多様性保全に対する効果を測定できたら、非常に大きなものになるかもしれません。
 また、生物多様性保全に企業が本気で取り組むためには、政策的な配慮も必要になると思います。
 これは私の考えですが、生物多様性を学ぶときに、生物多様性条約やCOP10という切り口で学ばないほうがいい。よその国から言われる前から、日本人の心には八百万の神が棲んでいて、自然を敬って大事にしてきた。それが、生物多様性のめざす姿だと思います。


もどる