特集

2009.10・11/vol.12-No.7・8

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企業にとっての生物多様性

本業を通した環境コミュニケーション

 森を育て、その木で家をつくり、また木を植える。サステナブルな企業活動を行っている住友林業は、本業がそのまま環境保全に直結する企業だ。「きこりん」というシンボルキャラクターを育てて企業広告を展開する住友林業の佐野惣吉氏に、コーポレートコミュニケーションの考え方と生物多様性保全への取り組みについて聞いた。

――住友林業が生物多様性保全に取り組み始めたのはいつからですか。

 住友林業の創業は1691年ですから、もう300年以上にわたり、木にかかわってきたことになります。また我々の会社では、最近よく使われる“サステナブル”という言葉についても、昔からSustainable Forestry、「保続林業」という理念で、木を植えて育てて伐って植えるということを繰り返してきました。
 生物多様性という言葉が最近言われ始めていますが、その保全にいつから取り組み始めたかと言えば、生物多様性という言葉のない時代からということになると思います。なぜなら、生物多様性に配慮しなければ健全な森が育たないからです。
 スギ・ヒノキなどの人工林は、きちんと手を入れて育てなければ、まっすぐな太い木は育ちません。手をかけて健全な森を作っていけば下草も生えるし、低木も生えてきます。そして、その森には、多くの木の実がなり、虫や鳥の棲む生態系が作られてくる。本業自体が生物多様性を守ることによって成り立っている。本業で環境に配慮しないと利益を生まない会社なんですね。
 環境保全に長年取り組んできたという自負はあるのですが、課題はむしろ、住友林業の正しい姿が一般の人たちに正確に伝わっていなかったことです。「きこりん」というシンボルキャラクターを使って、わかりやすい企業広告を始めたのは、そういう理由があるんですね。

企業の正しい姿を伝える

――「きこりん」をシンボルキャラクターに企業広告を始められたのは05年からですね。
住友林業グループのシンボルキャラクター“きこりん”
住友林業グループのシンボルキャラクター“きこりん”は、社歴とほぼ同じ樹齢300年を超えるヒノキを削り出して作られている

 実際に動き出したのは04年後半からです。それ以前も国内外の住友林業の取り組みを伝える企業広告を出稿していたのですが、世の中の環境意識もそれほど高くなく、コミュニケーションも、まじめ一辺倒のところがあって、住友林業のサステナブルな事業活動というのが生活者に届かなかったのです。
 企業コミュニケーションをどう変えればいいのか。当初、8か月ぐらいかけて調査を実施した結果、「住宅メーカー」というのが一般的な認識で、先ほど言ったような森林保全への先進的な取り組みや、社会基盤事業を担っているという我々が代々大事にしてきたことは伝わっていませんでした。一方で、住友林業の正しい姿を出せば出すほど評価が上がるという手応えを掴み、それで方向が決まりました。我々が伝えなければいけないのは、商品やサービス以上に、住友林業グループの企業姿勢なのです。
 しかし、潤沢に広告予算があるわけではありません。どうするか、ということで開発したのがシンボルキャラクターの「きこりん」です。

――それにしても不思議なキャラクターですね。

 「きこりん」は300年前から森に棲む木の精です。同時に、住友精神を形にしたもので、社歴とほぼ同じ樹齢300年を超えるヒノキを選んで、それを削り出してつくったキャラクターです。目はヒノキの葉の形、足は3本の木でできていますが、CSRのトリプルボトムライン、「環境」「社会」「経済」を木で支えるという意味が込められています。
 ですから、最初から“売らんかな”のためのキャラクターではなく、我々の代弁者、メッセンジャーとして開発したものです。

――最初の反応はどうだったのですか。

 社内では、「おまえ、頭がおかしくなったのか」でしたね(笑)。一般の人たちは「気持ち悪い」という方もいたし、「かわいい」と言ってくれる方もいました。
 このキャラクターを最初に登場させたのが、新聞でした。なんか宇宙人みたいな変なものがいきなり紙面いっぱいに出ていて、社名を見ると住友林業になっている。そのギャップが、「これ、なんだ」「読んでみようか」という気にさせると思ったのです。これ以降、テレビCM、雑誌、ウェブ、イベントを連動させることで、一つ一つの露出は少ないですが、いろいろなメディアに同時に出すことで認知を高めていきました。

半歩先のテーマを打ち出す

――積極的に企業広告を展開して5年たちますが、成果は?

 ある調査で「きこりん」が環境キャラクターの5位、住友林業が就職企業人気ランキングでも50位以内に入るようになりました。
 「きこりん」は環境キャラクターというわけではなく、発信するメッセージも社会基盤事業として我々が取り組んでいること、今からやろうとしていることを伝えているだけなのです。本業が環境や生物多様性にかかわるので、必然的に環境のメッセージになってしまうんですね。

――メッセージの内容は、その時の世の中の関心に合わせている?

 半歩先のテーマを出すように心がけています。地球温暖化にしても、生物多様性にしても、環境にかかわることは本業に直接絡みますから、社内ではすでに何らかのアクションを起こしています。ですから、世の中の関心が高まる少し前に我々が取り組んでいることを紹介して、世の中の関心が高まったころ、「こういうことって大事だよね」と共感型のメッセージに変えるようにしています。
 今年8月の新聞広告も、半歩先のテーマということで、生物多様性を強く意識した内容にしています。これは、「地球全体につながった事業活動を本当の意味でやらないといけない」という住友林業の宣言広告でもあるんです。
 ビジュアルに地球や木のアイコンがありますが、これは今後の広告展開の中で、我々の活動や考えをできるだけわかりやすく伝えるために作ったものです。今後の広告で、グローバルに展開する事業を紹介する時は地球のアイコン、森のことや木のことを伝えるときは木のアイコン、地域社会への貢献や雇用の創出を紹介するときは人のアイコン、住宅づくりを紹介するときは家のアイコンを使うことを考えています。

8月8日 朝刊
8月8日 朝刊
――「生物多様性」という言葉を広告で直接使わなかったのは、理由があるのですか。

 「生物多様性」という言葉をストレートに出してしまうのは、まだ時期が早いという判断です。
 実際の取り組みとしては、社有林の中で生息する可能性がある希少種を調べ、独自のレッドデータブック(注1)を作ったり、森林の生態系を守るために、モニタリング調査を実施するなど地道な活動を行っています。ただ、生物多様性は因果関係が科学的に見えていないことが多い。人間が善かれと思ってやったことで、目に見えない悪影響がどこかで起こっているかもしれない。そういう中で、「生物多様性を保全しています」とは自信を持って言い切れないということです。

(注1)絶滅のおそれのある野生生物について記載したデータブックのこと。1966年にIUCN(国際自然保護連合)が中心となって作成されたものに始まり、現在は各国や環境団体もこれに準じるものを作っている。

現実を踏まえた環境保全

――「生物多様性」という言葉を意識した経営を始められたのは、いつ頃からでしょうか。

 我々は、国内の社有林の経営、住宅づくりだけでなく、海外でも植林事業を推進しています。また、世界中の森林から木材を調達しています。木材商社としても国内最大の企業です。
 木材では、違法伐採阻止や持続的な森林の利用を推進するためFSC(注2)など世界的な森林認証制度があり、そういう認証を我々は先行して取得してきました。また、環境NGOからも木材調達に対して環境保護の観点での厳しい要求があり、複数のNGOの方々と、かなり前から話し合いを進めてきました。
 長年、森林保全に取り組んできた我々ですが、自分たちの常識とグローバルな視点に立った常識とでは、観点の違いがあります。森林認証取得やNGOとの対話から、我々の取り組みで足らない部分、この先、何に注目し、何を変えていけばいいのかを学んできました。それをまとめたのが、06年の「木材調達理念・方針」です。我々がこれまで取り組んできた環境保全活動とは別の次元で、グローバルな動きに対応していかないと商売が立ちいかなくなる。だから、経営的に見たリスクヘッジという側面もあるのです。

(注2)国際的な森林認証制度を行う「Forest Stewardship Council」が森林の管理・経営に対して与える認証。FSCは1993年に設立されている。

――インドネシアで植林プロジェクトを始められていますね。

 昨年から、東ジャワ州ブロモ・トゥングル・スメル国立公園の荒廃地約1000ヘクタールで植林を開始しました。私も現地に行ってきましたが、度重なる森林火災などで、見渡す限り草原化したところでした。住友林業は、そういうところでも本気で木を育てようとする会社なんです(笑)。
 植林には、純粋に環境保護のため、伐採しない「環境植林」と、森林資源として使っていく「産業植林」の2種類がありますが、国立公園への植林はもちろん「環境植林」です。
 一方、現地の雇用を考えた「産業植林」も別の場所で行っていきます。後者のうちで、地域住民が植林して、その木々の間で農作するのを我々の会社では、“社会林業”と呼んでいますが、無償で苗木を提供して育ててもらい、その木を買い取る約束を現地の人たちとしています。
 現実を言えば、日々の食べ物に困る人たちにとっては環境を守る以前に切実な日々の生活があるのです。目の前に林があれば、それを焼き払って、自分たちが生きていくために畑を作る。それを誰も責められない。“社会林業”は、単なる焼き畑ではなく、植林を通して、そういう地域住民の雇用機会を作る活動でもあるのです。
 世界には、違法伐採が行われている地域が今もあります。口先だけの自然保護ではなく、そうした現実も踏まえた上でないと、本当の環境保全も地域への社会貢献もできない。我々は、木材資源を糧に持続的に発展し続ける会社です。その活動をフレンドリーにわかりやすく伝えるのが、「きこりん」の広告の役割だと思っています。


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