マーケティングの新レシピ

2009.10・11/vol.12-No.7・8

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昨年よりも暮らしは悪いですか?

 嵐のような経済パニックからちょうど1年がたとうとしている。2008年9月の、いわゆる「リーマン・ショック」が引き金となり、10月には日経平均が実に26年ぶりの安値となる7100円台を記録。世界経済は「100年に一度」と言われるような激震に見舞われた。
 国内の大手企業で赤字決算予想が相次ぎ、年末に向けて雇用環境が急速に悪化していった。
 その頃の急速なパニック状況はさすがにおさまったものの、「景気が回復しつつある」という感覚はまだまだ薄いと思う。政府の月例経済報告は、今年の6月に「底打ち」を宣言しているものの、実感には遠いものがある。好況か不況か、といえば「不況」と感じる人の方がまだまだ多数派に思える。周囲の声もそうだ。

暮らし向きは「同じようなもの」?

 さて、そうした環境を承知の上で「昨年よりも暮らしは悪いですか?」という問いかけをしてみた。
 もちろん、これには理由がある。とある調査のデータの中に、ちょっと予想外の結果を見たからである。
 それは、内閣府がほぼ毎年おこなっている「国民生活に関する世論調査」だ。この調査は、日本人の「暮らし向き」を長期的に俯瞰する上で、大変に重要なものである。
 では、その内容を見てみよう。
 この調査でまず尋ねられているのは「去年と比べた生活の向上感」である。今年の6月と1年前の数字(カッコ内)は以下のようになる。

向上している 2.8% (4.4%)
同じようなもの  63.1% (61.3%)
低下している 33.6% (34.1%)

 「低下している」という答えはほぼ横ばいで、「同じようなもの」が少し増えている。そして「向上している」は減っている。
 この数字は、どのような意味を持つのだろうか?
 【図1】に、2001年(平成13年)からの推移を示した。まず「向上している」という数字の絶対値は小さい。そして「同じようなもの」と答える人が多数派で60%から70%のあたりを動く。
 この「同じようなもの」と答える人が減少すると、「低下している」という人が増加する。つまり基本的に日本人の生活は「去年並み」であるが、何らかの問題があると「低下した」という人が増えていくのである。そして、昨年6月に「低下している」と答えた人の割合は、過去40年を遡って最高レベルの数字だ。
 この1年の経済後退を考えるならば、この数値がさらに目に見える形で上がるかと思われた。しかし、それほどの気配は見られていない。
 それよりも、一昨年から昨年にかけて「低下している」と答えた人の割合が10ポイント近く急増していることが目に付く。この背景には何があるのだろうか。

図1 去年と比べた生活の向上感(時系列)(単位:%)

インフレの影響は想像以上に強い

 昨年の6月はどんな経済状況だっただろうか。読売新聞の「ニュース月録」を見ると次のような見出しが並ぶ。(※)
 「ガソリン値上がり、初の170円台」「景気一致指数2か月連続で悪化、基調判断を下方修正」「東電、09年値上げへ」「NY原油、初の140ドル突破」「消費者物価指数、1.5%上昇」
 そう、この頃は「不況」よりも「物価上昇」が大きな問題になっていたのである。小麦粉などの原材料価格も上昇して、家計のやりくりは急速に厳しくなった。景気は悪化の兆しを見せていたが、それ以上にインフレが不安を呼んでいたと思われるのだ。
 この内閣府の調査では、「生活の各面の満足度」というのも尋ねている。その結果を昨年と比較したのが【図2】である(この数値は「満足している」と「まあ満足している」の合算)。
 これを見ると、ほとんどの分野で満足度が横ばいか微増になっていることがわかる。景気が後退したにもかかわらず、明確な後退は見られないのだ。
 むしろ「食生活」の満足度などは伸び率も高く、絶対値も高い。物価が安定したことで、食生活への満足度が上がったと推定できる。
 一方、都心ではたらくビジネスパーソンはどう感じるだろうか。この1年で多くの飲食店が消えたり、業態転換しているのを目の当たりにしている。交際費は削られ、弁当を持ってくることが流行になった。
 マーケティングにかかわる人の多くは、都市部でビジネスをしている。しかし、「日本人全般」の感覚は少々違うこともあるのではないか。主婦や高齢者にとっては、不景気であることより物価上昇の方が、暮らしを直撃すると思われる。収入が横ばいであることを前提に考えればそれも頷ける。
 「マーケティングのプロ」が消費者のことを、本当に知っているのだろうか? このようなデータを見ていると、ハッとすることがある。
 ビジネスの現場で知る情報は限定的だ。世の中を動かしたつもりになって、まったく空回りすることもあるだろう。自戒の念をこめて、「世の中の感覚」をもう一度見直してみたい。

※「YOMIURI ONLINE」のデータより引用した。

図2 生活の各面の満足度(単位:%)
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