マーケボン

2009.10・11/vol.12-No.7・8

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Vol.4 「ティップス」は「技術」ではない 「調べる技術・書く技術」(野村 進著/講談社現代新書)

 若いマーケターや広告マンを見ていると、彼らが大変に勉強熱心であることに感心させられる。スキルアップ、ということに自覚的というか。本を読めば「役に立ちました」と言い、セミナーに行けば「明日からの業務に活かせます」、人に会えば「人脈ができました」という具合。

 私がその齢の頃は、半人前はすっこんでろ!と言われて右も左もわからないままオロオロし、口を開けて先輩の仕事ぶりを眺めていたような時分だった。時代が違うのか、はたまた出来が違うのか。しかし、今の若者に感心しながらも、一方で、マァちょっと落ち着き給え、と言ってやりたい気持ちになる。
 すぐに使える(あるいは使えそうな気がする)ものばかり、そんなにしゃかりきになってかき集めなくてもいいんじゃないか。すぐに使えるもの、というのは、誰にでもカンタンに身につくもの、でもある。パソコン操作等の便利な小技を「ティップス」(Tips)と言うが、あれみたいなものだ。すぐに役に立つけれど、それであなたが真に成長するわけではない。

 「調べる技術・書く技術」(野村 進著/講談社現代新書)は、ベテランのノンフィクションライターが書いた技術論。一見、すぐに役に立つ本に見えるが、先の若者に感想を聞けば、多分「役に立ちませんでした」と言うだろう。業界が違うので、これらのテクニックはすぐそのまま使えませんね、という「ティップス」を求めるような読み方では、本書は確かに役に立たない。

 どんな職人でも、一人前になるには最低10年はかかるでしょう……著者が先輩からうけたアドバイスで最もうなずけたものはこれだ、と言う。すぐに役立つことばかりを求めるな。この本の真の主題は、「ティップス」から最も遠いところにある「プロフェッショナルの技術のありよう」なのだ。要だと思う。

 そのレベルを読むことができれば、つまり、書かれた具体的なハウツーではなく、アティチュードを学ぶ、という読み方ができるならば、これほど“役に立つ”ビジネス書はそうそうあるものではない。

 若者たちよ、マァちょっと落ち着き給え。今日明日の勝負ばかりじゃない。あなたがたが上っている梯子は長いぜ。

ねずみ

秋にはブラームスがよく合う。英国の名指揮者サー・エイドリアン・ボールトの交響曲全集がいい。ブラームスを愛したボールトは、指揮者として一人前になれたと自ら確信できるまで、ブラームスを指揮しようとしなかった。初めて指揮したのは40代になってからだったという。

平塚元明(文)
マーケティングプランナー

http://omiyage.no-blog.jp/

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