
フランシス ベラン
(Francis Belin)
1972年フランス ブルゴーニュ生まれ。エセック大学 及びマンハイム大学卒業。経営学と心理学を学ぶ。パリでコンサルティング会社マッキンゼー&カンパニーに入社(小売業と消費財を中心に世界中の様々なプロジェクトを担当)。2005年来日しリシュモン・ジャパン株式会社に入社、ジャガー・ルクルトのブランドCEOに就任。2008年よりスワロフスキー・ジャパン株式会社にて現職(子供地球基金のアドバイザーも務める)。
――今、スワロフスキーは非常に調子がいいようですね。
おかげさまで。日本ではまだまだ伸びる可能性がすごく高いですね。以前からデザインをもっと日本のお客さん向けに、少し変わったもの、もっとかわいいものなどへと変えてきました。2〜4万円の価格帯で満足できる商品が作れたのも、好調の要因の一つでしょう。
――そのデザインというのは日本仕様ということですか?
はい。だいたい一つのコレクションで400品つくりますが、その20が日本向けのものです。
デザイナーたちが日本のトレンドを勉強して、日本人の好きなもの、好きなデザインをよく見て、考えて、日本人のお客さんのためのデザインを考えます。それは日本だけでなく、中国やシンガポールなど広くアジアでも売れるんです。だから日本のお客さんにアピールするものを作ることはとても大事なんです。
――日本のマーケットの特徴を、どうご覧になっていますか?
日本のお客さんはとても洗練されている。クオリティーにもこだわりますが、それ以上にブランドの歴史や技術などの情報をすべて求めるのが日本のお客さんです。
――なるほど。
以前は数少ないブランドだけを、そのブランドのバリューだけで買うということが多かったと思いますが、それがだんだんと変わってきたんじゃないかと思います。
――いろいろ研究されていますね。それで、その成果が出ているわけですね。
そうですね。それとよくいわれるのが、日本で成功すればほかのマーケットでも成功するチャンスはたくさんあるということ。商品だけでなく、お店の作り方や接客のスタイルなど、日本でうまくいけば、他の国でも応用できますね。
例えば、銀座の旗艦店は、世界で一番大きい店です。デザインもこれまでにない、まったく新しいもの。これが一種のテストケースになって、今後、いろんな国々で同じようにショップを作っていきます。

銀座旗艦店

銀座旗艦店店内
――表参道と神戸にも新しいお店を出しますね。
不景気でもチャンスがたくさんあります。今は、良いロケーションを得られやすくなっています。この時期に、流通販売面で、よりお客さんにアピールできる場所を確保したいと考えています。
――近年は時計をはじめ新しい商品をどんどん出していますね。
スワロフスキーの専門はクリスタルですが、クリスタルの可能性は色・カッティングなど本当にたくさんあると私たちは考えています。ですから、お店の数も、商品のカテゴリーももっと広げていきたい。
――欧米だと、アクセサリージュエリーを使うカルチャーがありますね。日本の今までのジュエリーに対する考え方は、小さくても本物のゴールドを身につけるというものでしたが、最近はアクセサリージュエリーがようやく日本にも根付きつつありますね。
そうですね。オフィスにいるときは小さなペンダントだけど、仕事が終わったら、もっと大ぶりでパーティーっぽいアクセサリーに変える。そういう使い方は増えていると思います。
――アクセサリージュエリーにかなり力をいれていくのですか。
ええ。毎回400ものコレクションを発表できるブランドはなかなかないと自負しています。デザインチームもマーケティングチームもとてもハイペースに仕事をしていますからね。これは1895年創業以来の製造業魂といってもいい企業文化でしょうね。だから、スワロフスキーの店では、いつでも何かしら新しいものに出会えるはずです。

――いつも新しい。それはすごいですね。ところで、ベランさんは、日本にはもう4年半いらっしゃって、前の会社からスワロフスキーに移られて、いかがですか? ベランさんにとってスワロフスキーはどういう会社ですか?
とても働きやすいです。この会社はビジネスをショートタームじゃなくてロングタームで考えます。保守的で利益のことだけ考えるブランドだったら、表参道と神戸の店は作っていないでしょう。創業以来の同族経営、いわゆるファミリー企業ゆえ、戦略をころころ変えたりしません。本当にロングスパンでビジネスを考えます。
――ブランドって基本的にファミリー企業からスタートしています。やはりそういう意味ではファミリー企業の良さが出ているということですね。

ええ。それと、会社の核にあるスピリットが素晴らしい。創始者のダニエル・スワロフスキー I 世の革新者、起業家としてのスピリットは代々引き継がれ、今も残っています。スワロフスキーは世界120か国で展開していますが、そのスピリットはどこへ行っても肌で感じることですね。
★ ★ ★
今回はベラン氏にとって、はじめての日本語でのインタビュー。チャレンジとおっしゃっていたが無事終了。趣味が日本語の勉強というのも納得できる完璧な応答ぶりであった。