from Europe

2009.10・11/vol.12-No.7・8

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原点回帰のリゾート広告

 9月に入り、フランスの新学期が始まった。7月中旬から8月までの長いバカンスムードは、8月最後の1週間を境に急激に変化する。「仕事がオンの時に集中するためにはバカンスは必要」と言えるようになった私は、そろそろフランス流の考え方に染まってきたのかもしれない。バカンスをどう過ごすかは、多くのフランス人にとって非常に重要なテーマだ。
 さて8月、大統領や官僚もバカンスに入った後は、さほど目新しいニュースもなくなるのか、新聞各紙は、夏限定の特集紙面をあれこれ打ち出していた。経済紙「レゼコー」は、夏の連載の一つとして「Les Riches Heures de la Pub」(豊かな広告の時代)という編集特集を掲載した。
 8月後半の2週間にわたり、シャネル、シトロエン、ルイ・ヴィトン、ベネトン、フォルクスワーゲンなど、仏国内外の企業計11社の広告宣伝の歴史が紹介された。なかでも、仏旅行会社「クラブメッド」の記事が興味深い。
 クラブメッドの歴史は、ベルギー・アントワープの宝石商の息子で水球の名選手だったジェラール・ブリッツ氏が、1950年に創設した革新的なリゾートシステムにさかのぼる。彼自身が訪れたコルシカ島のテント村をきっかけに、ゲスト同士が様々なスポーツを楽しめるクラブ組織を設立しようと発案し、その後宿泊のためのテントを発注、また滞在者の活動を支えるチーム・メンバーを選出して「楽園のように幸福なリゾートクラブ」が誕生した。
 その後、会員が増えるとともに、タヒチ、アフリカ、アメリカにもリゾートを拡大し、一大企業となったクラブメッドは、1978年、「夢見る」「瞑想する」など、バカンスを思い起こさせるシンプルなメーンコピーとブロンズ色に日焼けした女性の写真だけの広告を発表した。この広告は、広告業界では“最も素晴らしいキャンペーン”の一つと絶賛される一方で、女性の焼けた肌が常套句として消費者に与えがちな三つのS(SEA、SEX、SUN)や大衆的なイメージと闘うために、クラブメッドは、その後何度もコピーや広告戦略の見直しを行うことになる。また、成功と共に同社のビジネスモデルをそっくりまねる競合他社が多く現れた。
 そして2004年、クラブメッドは自社の原点に立ち返った広告キャンペーンを再起動した。つまり、バカンスの原点である「夢見る」ことや、クラブメッドの売りである独自性に立ち返った。同時に、よりハイグレードなリゾートを提供しようと5か年計画を始動させた。消費者は、同社が映し出すターコイズブルーの海、波の音のイメージに改めてリゾートの良さを発見し、キャンペーンはその後海外でも展開されるようになった。
 2008年の世界的な金融危機で観光業界も打撃を受けるなか、同社は09年冬で前年プラス27%、09年夏でプラス4%の増収を確保した。この5年間で、高付加価値の物件の売上比率を上げ、同時に空室率は減らしている。同社のアンリ・ジスカール=デスタン会長は、6月に行われた決算報告会で、不況を乗り切った要因を、物件のグレードアップ化と、常に変化を続けてきたこと、と分析した。本当に何が消費者の心をつかむのかは、原点に立ち返ることで見つかるのかもしれない。
 クラブメッドは2010年に60周年を迎えるが、今年末から来年にかけて、メキシコのカンクンなどに同社最高クラスのリゾートをオープンさせる予定だ。

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