通じ合うチカラ

2009.10・11/vol.12-No.7・8

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集団を動かす

 「みんながついてこない」「うまく場がしきれない」。こんなとき、どうしたらいいんだろう。どうしたら人々の心をつかみ、動かすことができるのだろう?

 私たちは、集団を動かさなければならないときがある。リーダーはもちろん、職場でなにかの推進委員にされてしまったり、アルバイトたちに指示を出して作業をやらせたり、社のイベントや同窓会、PTAの幹事や進行を務めたり。
 そんなとき、人々は、なかなかこちらの思うように動いてくれない。1人の人間を動かすのだって骨が折れるのに、2人、3人、10人、100人……となると、集団の力はまるで暴れ馬のように、手綱を握る自分には、御しがたく暴走する。
 私自身、いまでも初めて1000人の前に立った怖さをありありと覚えている。
 私は、コミュニケーションインストラクターとして、全国さまざまな企業や学校に行って研修をする。少なくても数十人、通常200〜300人、多いときで1000人超の、その日初めて会う集団と、即座に信頼関係を結び、動いてもらわなければならない。ワークショップ形式のため、参加者には、2人、6人などのチームにサッとなってもらったり、発表してもらったり、ワークをしてもらったりと、とにかく動いてもらわなければ始まらない。
 38歳まで活字が主の編集者だった自分が、教育現場に出て、日々こんな大人数を動かすなど、想像だにしておらず、最初はおびえる犬のようで、顔をあげて集団を見ることさえできなかった。
 1000人の学生の前で話していたとき、片隅の2人が私語をしだしたことがある。せっかくいい雰囲気を作っていたのに、たった2人のせいで、あっという間に場の集中がそがれ、散漫になり、ざわつきはじめた。「どうしよう、ここで1000人が勝手に話し始めたら、もう私ひとりでは収拾がつかなくなる!」。胃がきゅうっと締め上げられ、たおれるくらいの恐怖だった。このとき私は無我夢中で、今から考えると「ある方法」で、学生の集中を取り戻していた。
 最初のころ一度だけ失敗をしたこともある。ある高校に行ったときだ。ただでさえ、まわりを気にして自ら動きたがらない日本人。とくに高校生は、恥ずかしがって動こうとしない。その日、「チームに分かれて座ってください」などと指示を出しても、生徒がなかなか動かず、重苦しい空気が流れていた。見かねた高校の先生が、生徒をどなりつけてしまったのだ。「おまえたち、なにをぐずぐずしているんだ! 恥ずかしいぞ!」と。とたんにビクッ、と生徒たちは、固まり、凍りつき、ますます動けなくなってしまった。このときも無意識ながら、気づけば、同じ方法で、私は、後半盛り返していた。

指揮者
タイトルカット&イラスト 伊野孝行

 集団で行動すると、必ず逸脱する人間が出てくる。ほっとくと必ずまわりに悪影響を及ぼす。だから何か手は打たなければならない。でも、悪いところを注意しても、対症療法で腫瘍を切り取るように、そこだけなおるが、集団全体の雰囲気はまずくなる。それまでに築いた信頼関係や生徒の主体性、意欲の盛り上がり、流れや集中が、そこで、パタッ、と途切れてしまう。なぜか?
 「集団は反応したところが増幅する」からだ。高校生たちが、先生の恫喝になぜますます動けなくなったかというと、先生が反応したところ、つまり、「動けない自分」「恥ずかしい自分」が生徒の中でクローズアップされたからだ。どの生徒にもいい面と悪い面があるが、先生の反応で、ダメな面が際立ち、シュンとし、生徒は動けなくなった。集団の中には必ず1人や2人、協力的に動こうとしている人間がいるものだが、悪いところに反応すると、その人たちまでがっかりさせる。「せっかく自分だけは主体的に動こうとしていたのに、認められないばかりか、もらったのはオコゴトか。自分の行動は功を奏しなかった。無駄だった」と。だから集団全体がシュンとしてしまう。

 ではどうすればいいのか? こちらが反応した部分が、集団の中で大きくなっていくとすれば、「増やしたいところに反応」すればいいのではないか?
 この方法は大成功だった。今はどこへいっても、それが恥ずかしがりの中高生でも、初対面でも、1000人でも、ほぼ1000%協力的に動いてくれるようになった。動いてくれないな、と思ったら、1人、2人先陣を切って動こうとしている人を素早く見つけてこう言うのだ。「あっ、こちらの人はもうチームを作ってますねー、動きがいいですねー」「あっ、後ろの男子たち、積極的にまわりに働きかけてくれて、進行上とっても助かります! ありがとう!」。こう言うと、動いている子たちは、認められて嬉しいし、周囲の注目も集まるので、ますます主体的に動こうとする。「自分からは動けない。ムリ」と決め込んでいた子も、そう言われてそちらを見ると、同級生たちが生き生きと動いている。触発されて「主体的な自分」「動ける自分」が引き出され、大きくなり、ついに内気な子まで動き出す。集団に、えもいわれぬ活気がみなぎってくる。
 1000人のうちのたった2人の私語のように、人はマイナス面ばかりに気をとられがちだ。でも、そんなときこそ、パニックにならず、残る998人は黙ってきいてくれているわけだから、そこに意識を向け、そこに伝え、そこを増やすように、ときに「午後の疲れている時間なのに、多くの人が集中して話を聞いていて、いいですね! とても意欲を感じます」と声をかけたりすると、散漫になりかけた場の集中が、ふたたびぐっと戻ってくる。
 「増やしたいところに反応する」。迷ったときは試してほしい。
 たった1人でも多くの人を動かすことはできる! そこに道はある!

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