特集

2009.8・9/vol.12-No.5・6

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大学広報は今

ステークホルダーはより広く

関沢英彦氏
Hidehiko Sekizawa
1946年東京都生まれ。69年慶応義塾大学法学部卒、 同年博報堂入社。コピーライターとして各種広告賞受賞。81年博報堂生活総合研究所設立と同時に異動。96年所長。 2003年4月東京経済大学コミュニケーション学部教授。04年同大学広報委員長に就任。博報堂生活総合研究所顧問・エグゼクティブフェロー。

  今振り返ると、06年の『大学の学びガイドブック』が東経大の広報活動の分岐点だったと思いますね。学部選びのガイドブックですが、表紙に「東くんと経子さんの学部選び物語」、東と経子で東経とあるだけで、あとは東経大の広告メッセージは何もない。基礎編と学部編に分かれていて、学部編では物語仕立てで、高校生が迷いながら経済学部やコミュニケーション学部、あるいは、この大学にない理科系も含めて学部を選ぶプロセスを描いたものですが、高校の先生から数百部単位で送ってほしいという依頼がきて、これまでに3万部発行しました。
 読売新聞の記者の方が取材に来校され、地域版で「物語仕立ての大学の学びガイド」という記事で掲載されてからブレークしました。それから、今でも覚えていますが、その記事がヨミウリ・オンラインに載った途端に、九州のおばあちゃんが欲しいと電話をかけてきたんですね。
 関沢 おもしろいと思ったのは、お母さんが息子や娘のためにではなくて、おばあちゃんが孫の受験を考えていることです。だから、大学のステークホルダーを狭くとらえてはいけないと思ったし、新聞にはステークホルダーを広げていく力があると改めて実感しました。新聞というのは、その商品の社会性、ソーシャルな位置づけをしてくれるメディアです。そういう社会的効果のあるメディアは、新聞以外にはないですね。
 『大学の学びガイドブック』が新聞記事になったのも、偏差値ではない大学の普遍性をベースにした学部選びのガイドだったからだと思います。
  大学というと偏差値が常に付いて回る。それで、これまでは東経大はこのぐらいの位置と自ら決めつけていたところがありました。そういう思い込みが、今までターゲットを狭めていたんだと気づきました。ステークホルダーを広げるという発想が今までなかったんですね。

これだけ知っていれば迷わない
学部選び物語
『大学の学びガイドブック』表紙『右』が学部編、裏表紙が基礎編

建学の理念を見える形に

森 玲子氏
Reiko Mori
一橋大卒業後、NHKに入局。新潟放送局、経済部とジャーナリストの道を歩む。97年東京経済大学学長室広報課に転籍。広報誌、プレスリリースの作成のほか、学生記者の指導や広報委員会の事務局にも携わる。04年から関沢氏との広報と広告のコラボがスタート。07年10月から同大学学長室広報課長。

 関沢 そうした学部選びのガイドブックを出していく中で、高校の先生から、「生徒が将来の進路を考える上で参考になるような冊子があれば」という要望が寄せられた。それで生まれたのが、『卒業年予測』です。
 「自分が大学を卒業する近未来を想像しながら、学部や学問を選ぼう」という趣旨で、現在の高校生が大学を卒業する頃に社会はこうなるだろうということをわかりやすく解説した小冊子です。それで、予測年を今の高校生が大学を卒業する頃の年度にしてあるのです。高校生の親もそうですが、ビジネスマンにも欲しいという人が多いですね。
 ただ、まだやれていなかったことがあって、それは「建学の理念」をビジブルにできないかということでした。そんなことを考えているときに、森さんから、夏のオープンキャンパスのウェブサイトを作りたいという話があった。「やっぱり、ウェブ上で動きのあるものがほしいよね」という話から、キャラクターをつくろうということになったんです。
 すでに、いろいろな大学でキャラクターを使っていましたが、われわれは「建学の理念」、ミッションと直結した形でできないかということを考えたわけです。それが「TKUチャレンジャーズ」です。
 東経大の創立者の大倉喜八郎は明治・大正期の実業家で、彼が設立した企業は今残っているだけでも大成建設、サッポロビール、帝国ホテル、帝国劇場、日清製油、日本化学工業、東京製綱、日本無線などがあります。生涯で200ぐらいの会社を立ち上げた人物です。
 建学の理念である「進一層」は、「責任と信用」を重んじ、実践的な知力を身につけてグローバル社会で活躍する人材の育成を図るというものですが、キャラクターは大倉喜八郎の起業家精神を一つひとつの事業ごとに視覚化していったものです。だから、森さんがこれは東経大のスピリッツ、精霊だと言ったけれど、まさにそうなんですね。

卒業年予測
高校生が大学を卒業する頃を予測した『卒業年予測』

TKUチャレンジャーズ
東京経済大学(TKU)の創立者・大倉喜八郎の起業家精神をキャラクターかした『TKUチャレンジャーズ』

大学広報の今後

   従来の東経大は、広告もオーソドックスでした。『大学の学びガイドブック』は表紙こそまじめですが、中はイラストをふんだんに使っている。そのあたりから、このキャラクターに至る下地が徐々に作られていったような気がします。やわらかい表現に対する免疫が学内にできてきた。そこは関沢先生が最初から狙っていたのだと後で思ったのですが(笑)。
 関沢 「広報宣言」のときは、キャラクターまではまったく考えていませんでした。こういうものは、今必要なものは何かというところから自己創発的に出てくるものだと思うんですね。
 大学がほかの組織と違う点は、「正しければ自ずと伝わる」という信念が非常に強いことです。しかし、実はそこに表現がないと伝わらない時代になっている。表現というのは無限にありうるわけですから、「失敗したら、次は違う表現にしよう」でいいんですね。ミッションさえきちんとしていれば、その表現の部分は変えていけばいいということです。
 森 広報の役割にもつながることですが、「TKUチャレンジャーズ」も、読売新聞が「建学の理念をキャラクター化するのは面白い」と記事にしてくれたんですね。新聞に取り上げられるというのは、実は二重の意味があります。一つはこのキャラクターが社会的な評価を得たということ、もう一つは記事を学内の人が読んで、「あ、これでいいんだ」と学内でオーソライズされることです。
 記者の仕事の8割は、まだ世の中で意識されていないことを可視化すること、 ネタの発見ですが、後の2割は問題提起です。社会性や時事性がないとニュースになりにくいんですね。
 関沢 大学は学問と研究の場ですから、日々刻々変わるジャーナリズムのサイクルとは、どうしても合わない。そこをうまくつないでいくコーディネーターが必要で、それも大学広報の今後の重要な役割でしょうね。

  国立大学では、独立行政法人になって大学の評価がオープンになり、それが予算付けにかかわるというので、今、嵐のような風が吹いていると聞いていますが、 それは私学にもたぶん近い将来に押し寄せて来ます。
 その時、今日話したようなミッションをどうするか、ステークホルダーをどう定義づけるか、学内をどう調整するか、コミュニケーションをどう展開するかという広報戦略が重要になってきます。そこが大学の生死を分ける日が来ると思いますね。
 関沢 僕は大学に来て広告主サイドに立ってみて、予算の限界の中で広報をどううまく使うか考えるようになりました。それが広報をコミュニケーションの中心にすえるという考え方です。 『大学の学びガイドブック』も『卒業年予測』も広報素材という意味合いを持っています。その広報効果自体をまた広告に取り込んでいく。そういうインタラクションが大学の広報にとって理想のような気がします。だから最初の話に戻りますが、広報と広告両方のバランスが大事なのです。

関沢氏と森氏の対談

大学のグローバル化をめざしたウェブ活用

早稲田大学 広報室 広報課長 村上裕二 氏 →

+Rという立命館の評判づくり

立命館大学 広報担当次長 広井 徹 氏 →

大学の改革とマス広告の役割

学校法人東海大学 広報部広報課 課長 篠原正明 氏 →

読売新聞 教育関連事業への取り組み