立ち読み広告

2009.8・9/vol.12-No.5・6

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知的体験を呼びかける先生のお薦め図書!

 子どもにとって夏休みの読書は貴重な体験であると、我が身を振り返ってみても思う。本に夢中になってしまうと、もうやめられない。学校のあるふだんなら、明日の授業にさしつかえるからとがまんして蒲団に入らなければならないけれども、夏休みなら親も大目に見てくれる。夜が明けるころに読み終えた本のことは一生忘れない。
 7月13日朝刊の第5面、角川文庫の全面広告はすばらしいものだった。毎年恒例となった角川文庫夏の100冊のキャンペーン広告なのだけれども、「有名中高先生お薦め図書!」というところがポイントである。
 「この夏は文庫で知的体験!」と題して、8校8人の先生がそれぞれの推薦図書を語っている。
 慶應義塾中等部の土橋朝洋先生は夏目漱石の『こころ』を、早稲田大学系属早稲田実業学校の中村聡先生は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を推薦。古典名作だけでなく、学習院高等科の武市憲幸先生は金城一紀の『GO』を、お茶の水女子大学附属中学校の原田あけみ先生はあさのあつこの『バッテリー』を推薦している。小林多喜二の『蟹工船 党生活者』(立教新座中学校・高等学校、児玉朝子先生推薦)のような最近話題になった本や、矢野健太郎の『数学物語』(東京学芸大学附属世田谷中学校、笠井正信副校長)のようなノンフィクションもある。8冊のラインアップのバランスがすばらしい。

本の楽しみ方までわかる推薦文

 もうひとつこの企画広告のよいところは、それぞれの先生が推薦理由を詳しく書いていること。字数にすると500字あまりある。パッと見ると細かい字がたくさん並んでいる。わかりやすさを最優先する最近の広告では異色というか、時流に逆らっているようにすら思える。でもこれがいい。
 豊島岡女子学園中学・高等学校の矢田純子先生は、太宰治の『人間失格』について次のように書いている。
〈いつもよく知っているはずの友人の、思いもよらなかった側面を見たときの驚きと不安。普通の人のように振る舞えない、あるいは生きられないという悩み。やることなすことが世間の思惑とずれているのではないかという焦り。誰しも身に覚えがあるのではないだろうか。〉〈太宰の文学はどれも、ちょっぴりキザで魅惑的である。彼の作品世界への入門として『人間失格』はお薦めの1冊だ。主人公の軽妙な、読者を誘惑する語り口をたっぷり味わった後は、作者のはしがき・あとがきが、どんな風に葉蔵の手記を位置づけているか、という小説の仕掛けにも少し目をこらしてみよう。〉
 たんなる本の紹介ではない。この本をどんなふうに読むと、より深く楽しめるかが、ちゃんと書かれている。学者とも評論家とも、あるいは書店員や一般読者とも違う、まさに先生ならではの推薦文だ。
 読書教育の世界では、子どもたちに本をただ好きに読ませておけばいいのか、という問いかけがある。自由に選んで読む一方で、子どもの成長に合わせて適切な本を与えていくことも重要なのではないか、というのだ。「この本がいいよ」「この本を読みなさい」だけではない、人生の先達としてのいざないが、この企画広告にはある。

7月13日 朝刊
7月13日 朝刊

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