Creativeが生まれる場所

2009.8・9/vol.12-No.5・6

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ストレートな表現で命の恵みを伝える

オレンジワークス  クリエイティブディレクター 松永健二氏(後列右) オレンジワークス  アートディレクター 田野聖貴氏(前列左) オレンジワークス  デザイナー 三井大地郎氏(後列左) アサツー ディ・ケイ  コピーライター 安井かおる氏(前列右)

松永:ニューヨークフェスティバル・銅賞/雑誌広告賞・金賞/消費者のためになった広告賞・銀賞ほか。
田野:1971年宮崎生まれ。プロダクション数社を経て、2006年オレンジワークス入社。
三井:東京デザイン専門学校グラフィックデザイン科卒業。2005年オレンジワークス入社。
安井:愛知県生まれ。早稲田大学卒。銀行勤務を経て2003年ADK入社(関西支社)。ACC賞、読売新聞メルク賞ほか。

 昨年11月・12月と今年6月の2回にわたり日本ハムグループの「育む。」シリーズの新聞広告が掲載された。ドキュメンタリータッチの写真と事実をありのまま語るコピーで、食品事業の“生産現場”をストレートに伝える企業広告だ。
 この新聞広告に先行して雑誌広告が昨年6月からスタートしており、大きな反響を呼んだ。雑誌『オレンジページ』では「オレンジページ広告大賞」を受賞している。
 このキャンペーンの考え方やクリエイティブの手法について、4人のクリエイターに聞いた。

──「育む。」キャンペーンの目的をお聞かせください。

 松永 日本ハムと聞くと、ウインナーやハムなどの加工食品を連想する人も多いと思いますが、豚肉や牛肉、鶏肉などの精肉も販売していて、それが売り上げの半分以上を占めています。しかも、加工食品や精肉の原料となる豚や牛、鶏などを飼育するところ、つまり食肉事業の原点から取り組んでいる企業です。
 そこでグループ企業を含めた日本ハムの“命”に対する考えや、食に対する取り組みを知ってもらうために、生産現場にフォーカスしたキャンペーンをやりたいというのが、今回のクライアントからの要望でした。
 僕自身は日本ハムの広告に携わって、およそ8年になりますが、これまでも生産現場にフォーカスした広告をやりたいという話は度々出ていました。ただ、豚を広告に登場させることにはずっと抵抗があったんです。というのも、米や野菜などの生産者に広告に登場してもらうのとはワケが違う。生産者がどんなに愛情を込めて大切に豚を育てているかを見せても、それを食肉処理して製品として販売しているわけですから、広告のテーマにしにくいと思っていたんですね。
 安井 ただ、食の安全は最近の消費者にとって大きな関心事です。もちろん表現にも細心の注意を払いましたが、日本ハムの取り組みをそのまま伝えることが消費者の理解につながる時代になってきたということだと思います。こういった時代性をくんで、広告に踏み切った日本ハムの判断も大きいですね。

企業のありのままを伝える

──雑誌で先行してキャンペーンを展開していますが。

 松永 雑誌広告のメーンのターゲットは主婦層で、料理雑誌を中心に表現も生活寄りに作っています。しかし、今回のキャンペーンの目的は、日本ハムグループ全体の事業に対する取り組みを社会に理解してもらおうということですから、より多くの方に日本ハムからのメッセージを伝え、かつそのメッセージに強力な社会性を持たせることが必要でした。新聞の読者にも、もちろん主婦は含まれますが、媒体に接する態度は雑誌のときとは異なる。やはり、記事に接するように社会的な態度で接していると思うんです。

──「育む。」というキャッチコピーですが。

 安井 コピーを書くために実際に足を運んで取材を重ねたのですが、その中で感じたのは、日本ハムの取り組みで世間に知られていないことが多いことです。豚も40年前から育てている。しかも、社員の方たちは、食料になることをわかっている上で、本当に愛情を持って接しているんです。その姿を見て、食べものをつくるというより育てているのだと感じました。そこから出てきたキャッチフレーズが「育む。」です。ボディーコピーも装飾するのではなく、取材したことをストレートに伝えることを意識しました。
 松永 僕が心配していたのは、豚の頭をなでて、かわいがって育てているように広告で見せても、「どうせ殺すんでしょ」という消費者の反応です。動物を家畜ではなく、ペットとして見ている方からは、こうした反応がどうしても出てくると思うんです。でも、豚の飼育を担当されている女性がこう言ったんです。「豚は殺されるまでが一生だから、その一生をなるべく環境良く、幸せな時間を過ごさせてあげたい。だから、愛情を注いでいるんです」と。
 それを聞いて、今回はありのままを伝えることが大事だと思いました。下手な装飾などせずに、そのままを伝える方が一番強いメッセージになると考えたんですね。

──生産現場の写真で、苦労された点は?

 田野 写真はすべて一発撮りが基本で、ライブ感を伝えることをポイントにしました。広告に登場してもらったのは、実際の社員の方たちですが、カメラマンの細川晃さんの協力もかなり大きかったですね。こちらが「オーケー」と言っても、「いや、まだ撮れていない」といった感じで、とても積極的にシャッターを切ってくれました。
 新聞広告の第1弾となった豚の撮影ですが、豚舎の中というのは湿度が非常に高くて、湿気でレンズが曇ってしまうんですね。しかも、豚舎のにおいがカメラに付いて、2週間取れなかったと聞いています(笑)。
 撮影前にはラフを作りますが、現場に行っての撮影ですから、その場での対応が求められましたね。
 三井 その写真を最大限に生かすことが、今回のデザインの仕事でした。読みやすい書体選びや細部の調整にも、かなりの注意が必要でした。ボディーコピーを入れやすい写真ばかりではなかったですからね。

6月4日 6月11日 6月18日 6月25日
11月13日 11月20日 11月27日 12月4日

上段 左から2009年6月4日、6月11日、6月18日、6月25日、下段 左から2008年11月13日、11月20日、11月27日、12月4日、いずれも朝刊

社会と向き合うメディア

──キャンペーン後の反響はいかがでしたか?

 松永 今回のキャンペーンは、企業価値の向上と、学生に向けたリクルーティングが目的でしたが、もう一つ、グループ会社全体の士気を高めることも目的としてありました。新聞広告は出稿後に増し刷りして、ポスターとして関係各所にも貼り出しています。
 また、広告出稿後の調査では、「考えさせられた」「子どもに伝えたい」など非常に好意的なご意見が多かったですね。今は、この広告に携わることができて良かったと思っています。
 その一方で、新聞読者の真摯な反応に接して、改めて新聞という媒体の力を再認識しました。同じグラフィックでも、ポスターは経験の浅いクリエイターでもできてしまうかもしれませんが、新聞広告は絶対に作れない。クリエイターの中途半端な覚悟では向き合えない媒体だと思いました。

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