特集

2009.6・7/vol.12-No.3・4

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広告効果をどう考えるか

広告の短期効果・長期効果

――広告の短期的効果と長期的効果の関係は、どう考えればいいのでしょうか。
石崎徹氏
Toru Ishizaki
1968年東京都生まれ。91年早稲田大学商学部卒業。98年同大学院商学研究科博士後期課程満期退学。早稲田大学商学部助手などを経て、2000年専修大学経営学部助教授、06年同大学教授。著書に『わかりやすい広告論』(編著、八千代出版)、『日本の広告研究の歴史』(共著、電通)など。日本広告学会常任理事・関東部会運営委員長。

 石崎 もちろん、業種や製品カテゴリーでも変わるとは思いますが、広告の長期効果と短期効果は完全に別物というわけではないし、短期効果が一つ一つ積み重なって、それが長期効果になるわけでもない。だから、2本立てで考えていく必要があるということなんです。
 例えば、それは短期的にキャンペーンを仕掛けていくとか、価格プロモーションを仕掛けていくというスパイスを与えながら、安定的に広告を打って、ブランドを作っていくというやり方です。昔から、広告はトーン&マナーをそろえることが大事だと言われてきましたが、それは、長期と短期の効果をどうつなぐかというところから出てきた知恵だと思います。
 小泉 広告の役割や機能を整理して、短期と長期の戦略をしっかりと分けて考えていくというのは、広告主が考えるべき仕事です。 ところが、実際は、それを広告会社に大半を任せっきりにしている広告主も多いような気がします。
 石崎 われわれのような第三者から見ると、広告主と広告会社の間に大きなギャップがあるのは確かです。ジョブローテーションで、違う畑の人が広告部長に抜擢されると、一から広告戦略をやり直しということも起こる。もう何十年も広告業界で働いてきたベテランの広告会社の人とは、圧倒的に知識量・情報量が違うわけです。そういう状況で広告会社から提案された広告を評価しろと言われても、広告主サイドも厳しい。 広告の効果が見えにくいと言われる背景には、そういう実務的な現状もありますね。
 小泉 日経広告研究所が毎年有力企業に対して行っている「広告動態調査」に、「広告効果測定をどんな頻度でやっているか」という質問項目があるのですが、それによると定期的に広告効果測定を行っていると答えた企業は半分ぐらいでした。
 石崎 ただ、その評価をどこに依頼するかという問題も日本にはありますね。欧米の場合は、広告会社ではなく、広告関連のコンサルティング会社がしっかりしたデータを出している。イギリスならインターブランド、アメリカならブランドキーといった会社が有名ですが、企業はそういうところと契約しているわけです。日本の場合は、広告会社の規模が大きいこともあって、その機能を吸収してしまっているところがあるんですね。
 小泉 その一方、広告に対してしっかりした考えを持っている企業もあるわけで、そういうところは社内で人材を育てている。 例えば、大手の広告主の中には、5年で半人前、10年で一人前と言われているところもあるそうです。広告に対しての評価基準を自分たちで持つためには、広告人を社内に育てるというスタンスも必要だと思います。

メディアの効果

――キャンペーンで使われる個々のメディアの評価をどう考えるべきなのでしょうか。
小泉眞人氏
Masato Koizumi
1964年生まれ。88年早稲田大学商学部卒業。同大学院商学研究科を経て、93年東海大学文学部専任講師、98年同助教授、2006年同教授。現在に至る。02年「広告宣伝費の安定的支出が、企業業績に及ぼす影響」で広告学会賞(学術論文部門)受賞。著書に『わかりやすい広告論』(共著、八千代出版)、『新広告論』(共著、日経広告研究所)など。

 石崎 私はメディアエンゲージメントや表現効果などを研究していますが、どうしても実験室的な状況の中での広告効果を研究対象にせざるを得ません。しかし、現実のマーケティングを考えた場合、コミュニケーションミックスによるシナジー効果が出るからこそキャンペーンの意味があるのであって、その中から1メディアの単独効果を引っ張り出して結果を示すということに、どれだけ意味があるのかという疑問はあります。
 料理に例えれば、醤油大さじ2杯、砂糖大さじ1杯、お酢少々というレシピの“少々”という部分がキャンペーンの隠し味、キーになっているのだけれど、そのお酢が単独でどれぐらい効果があったのかというのは数字では示せないということです。
 シナジー効果というのは加算的に出るのではなくて、それぞれのメディアに係数が付いた掛け算で出てくる職人技的なところがあるんですね。コンサルティング会社は、その時の各メディアの効果を可視化できると言っています。もちろん、統計解析すれば、それは確かに数値として示せるのですが。
 小泉  例えば、それは一度作った料理を成分分析して、塩何グラム、砂糖何グラムと 分けるようなものですね。それよりは、こういう経済情勢のときには、こういうレシピの効果があったという過去の経験のほうが有効かもしれないですね。
 石崎 企業だからコスト管理を細かくしていかなければいけないということはわかるのですが、あまり細かく一つ一つを見ていくと、全体として機能しなくなる。むしろ、広告コストを見直すというのであれば、個々の広告ではなく、マーケティング全体を見直さなければいけないと思いますね。

――新聞広告の今後の役割をどうお考えですか。

 小泉  よく若い人は新聞を読まないと言われますが、大学3年生になると新聞を読み始める学生が増えてきます。 そういう学生の共通点は、優秀な学生が多く、自分の意見もしっかり持っているということです。新聞を読んでいる若いサラリーマンも、非常に知的欲求が強いと思いますね。だから、今後も新聞は、基本的には万人に共通の情報を与えるというマスメディアであることは変わらないと思うのですが、マスはマスでも、知的教養メディアとしてターゲットセグメンテーションをもっと進めていいと思いますね。
 石崎 私も同じ意見ですね。消費者の24時間は変わらないわけですから、メディアの選択肢が増えれば、一つ一つのメディアの接触時間が減るのは当然です。これからはメディアの選択肢の一つとして新聞やテレビがあるという前提で考えれば、新聞もセグメンテーションをどう考えていくかという方向に動いていくだろうと思います。

――ネットは効果がすぐわかるが、マスメディアはわかりにくいという指摘がありますが。

 小泉 確かに、ネットはいろいろな数字がわかるということはあります。ただ、考えてみると、ネットでわかる数字というのは、実は、測れる数字しか測っていないのではないかとも言えますね。
 コミュニケーション効果で考えれば、マスメディアでもネットでも、どれだけ態度変容に影響を及ぼしたかが重要なわけで、それは相変わらずわかりにくい部分だと思います。
 石崎 ネットの数字で注意しなければいけないのは、その数字が商品のターゲット全体からみると、ほんの一握りの人たちだということです。あくまでサイトに来たその一握りの人たちの反応率が高いということで、分母と分子の差が少ないから効果が大きく出るのです。ところが、マスメディアというのは、最初から想定している分母が大きい。ネットとマスメディアを同じ土俵で比較すること自体が本当は間違いなんですね。
 そもそも広告のビジネスモデル自体が違います。日本の場合だったら、120年ぐらいかけて作られてきたマスメディアのビジネスモデルと、ここ15年ぐらいでできたインターネットのビジネスモデルを同じように評価していくのは非常に難しい。
 また、ネットのトラッキングデータは、従来の広告効果指標のデータとは、異次元のものだと思います。今までのデータで言えばPOSデータに近いもので、要するに、来店した人たちのデータです。もちろん、行動データは取れますが、そのサイトになぜ来たのか、なぜその商品を買ったのかはわからない。「なぜ」という質的なデータは、従来のようにアンケートで取っていくしかないのです。

石崎氏と小泉氏の対談

これからの広告効果のために

――そういう次元の異なるメディアを一律に評価する新しい広告効果指標が求められていると思うのですが。

 石崎 理想を言ってしまえば、それは消費者の心理変容を追ったトラッキングデータ、追跡データでしょうね。
 今の広告効果調査で調べている認知レベル、態度変容レベルのデータというのは“点”なんです。広告をやった直後に調査しているだけなんです。
 そうではなくて、広告を見て、認知して、ブランド意識が高まってから購買までの心理変容が“線”になってわかるデータが求められている。それに加えて、どのメディアのどこに露出した広告に、どのタイミングで接触した消費者が、その広告表現をどう評価したかまでわかれば理想です。
 ただ、それには装置の開発と膨大な予算が必要です。アメリカでは、メディア調査会社を中心に05年から消費者に携帯型ピープル・メーターと携帯型のスキャナーを持たせ、24時間、365日のメディア接触と各人の購買情報を集める実験を始めています。メディアの質的評価ではなく接触だけを調べる調査ですが、それでも1億ドルの費用を投じているんですね。
 小泉 それから、われわれ外部の研究者が使えるデータがあまりにも少ないという現実があります。もし、新しい広告効果モデルを開発するのであれば、研究用のオープンなデータバンクを作るなど広告主の協力も必要でしょうね。業界全体でお互いにデータを出し合って考えていくことができたら、われわれ研究者もそのデータを使って、いろいろなモデルを提案できると思います。
 石崎 ただ、最後に言っておきたいのは、広告効果には、どうしても数値化できない部分があるということです。最近は、そういうお金や数値に換算できないものを切り捨て過ぎていると思うんですね。典型的なのが、企業のスポーツチームです。資産的価値が評価できないということで、次々と姿を消している。そのチームを持っていることによる社会的名声や社員の士気向上といった目に見えない効果もあるはずなのに、曖昧なものとして切り捨てられている。“効果”よりも“効率”が優先されているんですね。
 効率性は、「1時間に何個生産する」というように数値化できるものです。しかし、効果はそのすべてを数値化できるものではないと思うのです。広告も、なんとなく人間に影響を与えているとか、社会的に意味があるという効果は数値化になじまない。
 ブランドも金額で換算される世の中ですが、広告が、アメリカ型の効率主義を追い求め過ぎているような気がしますね。


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