特集

2009.6・7/vol.12-No.3・4

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広告効果をどう考えるか

対談 広告効果とは何か

 厳しい経済環境の中、今問われている広告効果とは何なのだろうか。また、広告効果はどう考えるべきなのだろうか。広告費と業績の関係から広告効果を研究した東海大学の小泉眞人教授、メディアエンゲージメント、商品購入後の広告効果など、新たな角度からこの問題に取り組んでいる専修大学の石崎徹教授、2人の研究者に聞いた。

 
――景気が悪くなると広告費が削減されるということがよくありますが、まず、広告費と売り上げの関係からお話しいただけますか。
広告費と売り上げの関係
出典:小泉眞人 「景気後退期における広告宣伝費の考え方」
(日経広告研究所報243・244号)

 小泉 景気後退期に広告費が削減されるというのは、広告に販売促進効果を求めているけれども、なかなか売り上げにつながらないという現実があるからだと思います。そこをどう考えるかですね。
 広告には、短期的な売り上げ増を目的とした販売促進機能、ブランドへの共感を高めるコミュニケーション機能、顧客との関係性を構築するリレーション機能の三つがあると思っています(広告リレーション理論)。この中で、最も景気の影響を受けやすいのが販売促進機能で、景気後退期に広告を削減する企業は、広告の一つの機能しか見ていないとも言えるんですね。
 日本広告業協会(業協)が景気後退期の広告支出とその後の業績回復の関係について、92年に興味深いデータを発表しています。85・86年の景気後退期に広告費を積極的に増やしている企業は、そうでない企業に比べ、その後の景気回復期に業績が順調に推移しているということを実証的に検証しています。
 この再検証も含めて、ITバブルがはじけた01年以降の広告費と売り上げの関係を私も分析してみたのですが、そこでいくつかわかったことがあります。
 この分析では、679社を対象に業協の行った広告費の伸び率別の比較だけでなく、景気後退期前後にも安定して広告費を支出している企業とそうでない企業、それからV字回復をしている企業とできなかった企業の比較も行いました。
 結果は、いずれも広告費と売り上げの間には高い関係性が認められました(図1〜3参照)。
 注目すべきは、3年間安定的に広告費を支出している企業という基準で抽出した「高安定性企業」で、特に04年以降の売上高が大きく伸びています(図2)。これは、広告が後で効いてきているということを示しています。
 それから、V字回復できた企業は、679社中49社しかなかったのですが、やはり広告費も使っている。これは、他の要因もあると思いますが、広告に短期効果があることも示唆していると思います(図3)。
 ただ、私としては、景気後退期と景気拡大期の広告の役割を分けて考えるべきだと思っています。景気後退期はまさに売り上げが減少していくわけですから、販売促進としての広告よりも、コミュニケーションやリレーション重視の広告にシフトすべきだという考え方です。

見えにくい販売促進費

 石崎 私も、広告の得意な仕事というのは、認知と態度変容だと思います。ですから、これまでも、広告の効果測定はその部分が中心になっていました。
 やはり、購買など行動への影響は把握しづらいところがあります。なぜかというと、マス広告や交通広告を前提にした場合、広告を見聞きしてから行動を起こすまでにタイムラグがあるからです。行動への影響を測ろうとしても、実際は広告の記憶が行動にどう影響するかを測定するしかない。消費者側の心理的要素、頭の中でどうなっているかを見なくてはいけないということです。
 自分自身のことを考えてみればわかりますが、広告を見て、「あ、この商品おもしろいな」とか「この商品、良さそうだな」と思っても、すぐ忘れる。それが店舗へ行って、商品を見たときに「あ、これだ」と活性化する場合もあるし、そうでない場合もある。そのへんのメカニズムを考慮しないで、広告投入量と売り上げの因果関係だけで広告効果を見ていくのは、広告に対して非常に酷なところがあります。小泉先生の研究のように広告効果を数年のスパンでみれば見えてくるものもありますが、テレビCMを何GRP打ったから、あるいは新聞広告を何段打ったから、それがどう売り上げに結びついたかは実証できないと思いますね。
 価格プロモーションのほうが広告より即効性があるのは明らかで、短期的には、価格弾力性が広告弾力性を大きく上回っているという研究もあります。価格プロモーションが売り上げにダイレクトに響くというのは、当たり前の話なんです。
 だから、その解決策としては、トータルなマーケティングコミュニケーションミックスの中で、広告の役割と販売促進としてのプロモーションの役割をきちんととらえて、そこでブランド構築や顧客維持などの視点を入れながら、どういう予算配分にしていくかだと思います。要は、価格プロモーションで売り上げを直接上げていきながら、広告のサポートをどう考えていくのか。あるいは、その逆をどう考えていくのか。マーケティングの一番基本的なコミュニケーションミックスの再検討になると思います。
 もう一つ別の角度から広告費と販売促進費の違いを言うと、販売促進のコストは、一般管理費に含まれるものもあれば、POPなどの製作費は広告費の中に入ったりと、目に見えない部分があることです。特に、価格プロモーションの場合は売上高の増減の中に溶け込んでしまうんですね。例えば、販売価格を10円引いて100万円売り上げが増大したとして、その値引き分は損失ですが、会計には表れないんです。だから、価格プロモーションは広告より効果が大きいと先ほど言いましたが、販売促進の費用対効果は、実は広告より見えにくいのです。
 価格プロモーションは、価格をいくら下げれば、いくら売り上げが上がるかという関係だけでとらえられがちで、実は、そのコストはあまり考えられていない。広告費は予算として明確に出てしまうから、攻撃の対象になりやすいということはありますね。
 小泉 例えば、広告主に個別に話を聞いてみると、ブランド構築や顧客とのリレーションを作るなど、広告の長期的効果を十分理解しているところは多いですね。これはある広告主の方が言っていたのですが、そうは言っても、広告セクションだけが費用を減らさないと、組織の中で目立ってしまうと言うんですね。
 他の部門はどこも予算をカットしているのに、広告セクションだけが現状維持、あるいはアップとなると、社内的に非常に目立つ。それで、予算を減らさざるを得ないということをおっしゃっていた。
 そういう広告主の方は、先ほどの分析結果に対しても、「利益が落ちているのに、なぜ広告費を積極的に出せるのか」という疑問が出てくると思うのです。実は、景気後退期にも広告に積極的な企業というのは、やはり、広告費に対してのトップの考え方がしっかりしているとか、会社の長期的な戦略が明確な企業なのです。
 確かに組織の中で目立ってはいけないというのは、日本的経営という意味でわかるのですが、それでは、負のスパイラルから抜け出せない。そこから抜け出すには、やはりエンジンが必要で、組織の中のどこかが推進力にならないといけない。その中心的な役割を、広告あるいはコミュニケーションが担えることは確かだと思います。


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