特集

2009.6・7/vol.12-No.3・4

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広告効果をどう考えるか

広告効果のレビューを共有する

 今年発売90周年を迎える「カルピス」をはじめ、乳性飲料の売り上げが08年は前年比2割増を記録したカルピス(株)。07年に味の素の完全子会社になったが、ブランドの持つ安心感と親しみやすさを前面に出したその頃からの広告展開が好調な業績の要因にもなっている。広告調査の結果を社内で共有化するなど、同社で広告の改革に取り組んでいる島崎広告部長に聞いた。

――広告予算は前期の売り上げに左右される会社が多いと思いますが、カルピスではどのように決めているのでしょうか。

 基本的には、事業部と相談しながら、今年の売り上げ目標達成のためにどれくらい広告に予算をかけるかを決めています。広告予算はマーケティング活動全体にかかわる予算取りですから、広告部が独自で決めるのではなく事業部と決めているということです。
 ただ、どこの会社もそうですが、広告費は交通費や交際費と同じ経費扱いにされがちで、当然、景気が悪くなればカットされることもあります。やはり、工場などの設備投資と違って、広告投資という考え方は理解されにくいため、広告予算をきちんと計画通り使えないことがあるんですね。
 広告が計画通りにできなければ、実は、その広告評価も正しく行えません。そこで、広告の効果を理解してもらえるような方法論を作って、事業部だけでなく、経営層にも広告は必ず計画通りにやるものだというコンセンサスを作る努力をこれまでしてきました。今は、事業目的を達成するためには広告が必要だという理解が進み、共通認識になっています。

――具体的にはどういう取り組みをしてきたのでしょうか。

 これまで3年ぐらいかけて、実施した広告に対して相対的な評価ができる仕組みを作ってきました。
 活用できる外部データと自社調査を組み合わせて、毎回の広告について媒体の到達力やクリエイティブの評価を調べるようにしました。できるだけ数値化できるものは数値化し、さらに、それを時系列で追えるようにしています。
 また、最初はテレビCMだけでしたが、今は新聞、インターネット、交通広告までわかるようになっています。3年やっていると、数値だけでなく感覚でも、この広告はこれくらいは行くということが見えてきます。そうすると、「次に何をやればいいのか」という目標も見えてくる。大事なのは広告効果の検証を事業部と一緒にやることで、広告効果も実感してもらえるし、マーケティング課題も共有できるという好循環が生まれてきます。

――継続的な広告効果調査によって、広告の費用対効果を実感できるということですか。

 費用対効果というほど説得力のあるデータを蓄積しているわけではありません。費用対効果というのは突き詰めれば、「広告を出した→売れた」という関係だと思いますが、そこまで厳密にはやっていません。ただ、それも広告のタイミングと販売データを比べることで、ある程度はわかります。

「メッセージ」と「認識の変容」

――調査で調べている広告の効果とは、何なのでしょう。

 広告の効果としてわれわれが重視しているのは、何を伝えるかという「メッセージ」と、お客様の認識をどこまで変えることができたかという「認識の変容」の2点です。広告立案の前に、この点を明確にするため、事業部ともかなり深く議論します。また、広告調査も、この二つのポイントがお客様に受け入れられたのかをはっきりさせる、見えるようにしていくことに重点を置いています。
 具体的にはどういうことかというと、私が味の素にいたときの経験になってしまうのですが、以前、「ほんだし」の高級版を発売したことがあります。この商品のテレビCMで伝えるべきメッセージは、「高品質」「カツオがたっぷり」ということでした。また、期待した認識の変容は、「ちょっとこんな生活いいなぁ」ということです。
 そこで、奥さんではなく旦那さんが素材にこだわって料理をする世界を描いたのです。そういう時にこそ、「ほんだし」の高級版をお使いくださいというCMです。
 当時は、料理は女性が作るものというステレオタイプな考えが批判されていた頃だったので、男がおいしい家庭料理を作るというテレビCMに好意的な反応が返ってくることを期待したのです。たとえば、お客様がフリーアンサーに「こんな生活してみたい」などと書いてくれたら、このCMの目的は達成できたことになります。
 ところが、オンエア後の調査のフリーアンサーを見ると、「この家の奥さんは手抜きをしている」、それから「男が作っているんだから、簡単な料理だろう」という、こちらが思いもかけない答えが返ってきたのです。
 つまり、この広告は失敗だったということです。そういう時は、調査項目の数字も総じて低いのですが、その本当の原因は何なのかというと、それは「フリーアンサー」に出てくる言葉からわかるのです。
 失敗は胸にグサッとくるから記憶に残ります。今度は、中華調味料『Cook Do』の新製品、「ひき肉入り麻婆豆腐」のテレビCMを作ることになりました。ひき肉入りだから、豆腐を入れるだけで簡単に麻婆豆腐ができる。でも、メッセージで「簡単です」と言わずに、お客様にそう思っていただくためにはどうすればいいか。それで思い出したのが、「簡単だ」と認識させるには、男に作らせればいい!(笑)。
 調査をしたら案の定、フリーアンサーに次々と「簡単だ」という言葉が出てくるわけです。このように広告の目的が達成されたかどうかは、実は数字だけではなくて、丁寧にフリーアンサーを読むことでわかるんですね。担当者は大変ですが(笑)。

カルピスというブランドの価値

――カルピスの広告では、品質を訴求していくことが今年の目標だと聞いていますが。
テレビCM「カルピス物語」篇
テレビCM「カルピス物語」篇

 それが広告部だけでなく、全社的な課題になっています。カルピスは今年発売90周年で、知らない人はまずいません。広告でブランドを認知させるという必要はありません。ただし、「カルピスの価値」を継続的に伝えていって、お客様の中に、いつもカルピスというブランドが存在している状態を作ることは大切です。なにか飲みたいときに、「ああ、カルピスが飲みたい」と思ってもらえる、そういう状態を目指さなければいけないということです。
 そのために今は、「カルピスは、牛乳と乳酸菌でできている」ということをメッセージとして伝えています。社内では当たり前のことだったのですが、調べてみると、お客様に「カルピスは、何かを混ぜて作っている」「白いジュース」と認識している人が多くなっていたのです。逆に、お客様にそのことを知ってもらうことで、「え、カルピスって牛乳と乳酸菌でできてるの。体にいいんだ」という変化が、頭の中で起こるわけです。
 広告部としては、カルピスのそういうブランド価値を、「安心・安全」を中心にコミュニケーションしていこうと考えています。カルピスで使っている牛乳は、搾ったままの成分無調整の生乳です。そういうことは、ホームページに詳しく書いてありますが、そこに来てもらうためには何らかの仕掛けが必要です。そうすると、やはり広告が必要だということになります。
 ただ、そこまで深く理解してもらうには、やはり時間がかかると思っています。というのも、カルピスの場合、「研究所でこんな研究をやっています」というような広告をお客様が期待していないのです。やはり、温かさや親しみのある広告を望んでいる。そういうお客様の持っているカルピスのイメージを急に大きく変えてしまうと、違和感が生まれてしまうからです。

ターゲットに刺さるメディア

――先ほどの調査というのは個別の広告の調査ですが、ブランド自体の調査というのは?

 ブランド認知や態度変容などの定点調査は、事業部ごとに行っています。 広告部は、広告のキャンペーンごとの調査を行っている。役割分担をしているということですね。
 それから、キャンペーン終了後には、必ず調査結果のレビューを書き、事業部を交えて報告会を行います。単に広告が良かった、悪かったとかではなく、広告を見た人たちがわれわれの意図にあった反応を示したかをチェックするわけです。もちろん、結果が悪い場合は、その原因を徹底的に分析します。それが次につながるわけです。

――広告効果がわかりにくくなったと言われますが、調査からも実感しますか。

 どこの会社も広告効果は測っていると思いますが、「広告効果がわかりにくくなった」というのは、メディアによる広告効果がわかりにくくなってきた、ということだと思います。今は、ウェブもあれば、携帯もある、テレビも地上波だけでなくBS、CSがある。以前は、われわれが日ごろ接している4媒体の比較だったから、数字を見るまでもなく、個人の実感としてわかりやすかっただけだと思います。
 最近、「マスメディアの終焉」というような極端なことがよく言われます。でも実際は、生活者の行動が変わってきているだけで、新聞もテレビも見ている人は見ているし、ネットも見ている人もいれば、見ていない人もいるというのが実態です。
 そういう状況の中で、われわれがメディアを選ぶときに重視しているのは、ターゲットに刺さるかどうかということです。これまで広告クリエイティブの調査について話をしてきましたが、そういう生活者のメディアの接触状況や接触態度もデータとして見ています。

――新聞には、血圧が高めの人に向けた乳性飲料「アミールS」の広告を出されていますが。

 その理由は、ターゲットが新聞にマッチしていることとメディアの信頼性です。以前、テレビCMをやっていたときは好感度は高かったのですが、実はターゲットに刺さっていなかったのです。「CMがおもしろかった」で終わってしまって、商品への関心にまで結びつかなかったんですね。ところが、新聞広告の場合は読者の反応が非常によかったのです。

――反応がいいというのは、どういうことですか。

 この広告を見た人が、お客様相談室に「どこで売っていますか?」というようなことを問い合わせてくることです。通販商品ではないので売り上げに直結するわけではないのですが、それだけ関心を持ってくれた人が多かったということが、結局、売りに結びつくわけです。
 「このメディアで、この商品の広告をやれば反応が出る」という相関が見えてくることは非常に重要で、それによって事業部も、継続して広告を出せばお客様を少しずつ増やしていけるという判断ができます。マーケティングの手法も変わってくるんですね。

5月17日 Y&Y日曜版
5月17日 Y&Y日曜版

広告評価を会社の共有情報に

――広告を会社全体のマーケティング機能としてどう生かしていくかが大事だと?

 これまで言ってきたことですが、そのためには、まず広告をやったことに対して、どういう効果があったのかを社内全体に知らしめることです。以前から広告調査をやってはいたのですが、それを広告効果のモノサシを作って、だれもが見えるようにしたということです。

――ただ、オープンにすると、悪い結果も出さなければいけないことにもなりますね。

 それを次の広告に生かせることの方が、メリットが大きいと思います。広告がうまくいかなかったときに、過去の良かったときの広告を見て、評価が高かったポイントはどこか見ていく。そうすることによって、どのポイントを外していたのかがわかってくるのです。

――時系列でデータを取っているということは、調査内容は固定しているということでしょうか。

 この3年間でも、調査手法は変わってきています。ただ、手法の違いを考慮すれば比較は可能です。それから、読売新聞にも「AdVoice(※)」というモニター調査がありますが、各媒体社が個別に行っている調査があります。それらを見せてもらって、自社の調査と比較して、自分たちの調査に偏りがないかを見ています。

――それを各メディアの評価の参考にしている?

 そうですね。ただ、広告はクリエイティブとメディアの掛け算だということも考えなければいけない点です。
 ベネフィットというのは、製品を通して購買者に与えられる利便性のことですが、メディアにも同じようにベネフィットがあります。例えば、テレビCMにお客様が期待しているのは、自分を楽しませてくれる仕掛けです。その期待を裏切って、生真面目なCMを流してもいい反応は返ってきません。しかし、新聞に対しては、楽しさはあまり期待されていません。やはり、社会性や信頼性のある広告が期待されています。そのベネフィットが、おのずとそのメディアの広告のスタイルや表現方法になっていくのです。

――最後に、マスメディアの役割とも関連するのですが、ターゲットに届くことだけが広告の役割なのでしょうか。

 ターゲット以外にも知らせることは、将来の顧客を作る意味でも重要なことだと思っています。個人的なことで言えば、「養命酒」は子どもの頃から広告で知っていますが、オトナになるまで飲めないし、興味もなかった。だけど、最近になってドラッグストアへ行くと、あの赤い箱が気になるんですよね(笑)。

(※)AdVoice(アド・ボイス) http://adv.yomiuri.co.jp/yomiuri/advoice/


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