Creativeが生まれる場所

2009.6・7/vol.12-No.3・4

  • この記事をクリップ!
  • newsing it!
  • Buzzurlにブックマーク
  • このエントリーを含むはてなブックマーク

新聞広告を核に話題を世の中全体へ

ドリル クリエーティブ・ディレクター 原野守弘氏 電通 アートディレクター 戸田宏一郎氏 電通 アートディレクター トーマス光ビルクハーン氏 電通 コピーライター 小山佳奈氏 ドリル メディア&コンテンツ・ストラテジスト 藤岡宏嗣氏

原野:1994年電通入社。2004年株式会社ドリル設立、取締役に。カンヌ広告祭デザイン部門審査員や早稲田大学講師なども務める。
戸田:1970年佐渡島生まれ。東京造形大学卒業後、電通勤務。現在コミュニケーション・デザイン・センター在籍。JAGDA、TDC会員。
トーマス:プロダクション、外資系広告代理店を経て電通入社。カンヌ広告祭シルバー賞、ONESHOWデザイン部門シルバー賞受賞。
小山:京都生まれ。東京大学卒、2001年電通入社。現在コミュニケーション・デザイン・センター在籍。TCC会員。
藤岡:1997年電通入社。メディア部門等を経て株式会社ドリルに。主にコミュニケーション戦略立案を行う。

 エイベックス・エンタテインメントとNTTドコモが5月1日に開局した携帯電話専用通信放送局「BeeTV」。その開局を知らせる似顔絵を使ったユニークな告知広告が4月1日、新聞各紙に掲載された。読売新聞には、お笑いコンビのさまぁ〜ずと俳優の市原隼人を起用。エープリルフールを絡めた「再改名!求むコンビ名。」「祝!17歳差婚。」の意味深なコピーとインパクトのあるビジュアルが印象的だった。また同日、出演タレントを集めた大規模な記者会見が開かれ、ワイドショーやブログなどで大きな話題になった。
 このキャンペーンを手がけた5人に話を聞いた。

──「BeeTV」にかかわった経緯からお聞かせ下さい。

 原野 2000年頃からエイベックス・グループは、映像ビジネスの方にも力を注いできました。最近では、ジョン・ウー監督の「レッドクリフ」シリーズが大ヒットしていますが、そういった映像ビジネスの一環として、携帯電話向けの通信放送事業をやりたいという話をいただいたんです。その時は、事業のアイデアだけがあって、名称もコンセプトも決まっていない状態でした。ですから、今回は、番組の編成戦略などビジネスの核となる部分からクライアントと一緒に作っていきました。

──「BeeTV」はiモード専用の通信サービスということですが。

 原野 音楽市場は、ヘッドホンステレオなどの音楽機器の発達によって個人で楽しむパーソナル化が進んでいます。昔はピンク・レディーのように、老若男女みんなが知っているお茶の間の大ヒット曲のようなものがありました。しかし現在は、「アーティストの名前は知っていても、曲は聴いたことがない」という状況が普通に起こっています。
 そういったパーソナル化の動きが、映像市場にも起こりつつあると思うんです。今や携帯電話は通話やメールのための単なる通信機器ではなく、エンターテインメントのための重要なツールになっています。音楽市場と同様に、映像も個人で楽しむ「映像市場のパーソナル化」を視野に入れた映像配信サービスが「BeeTV」です。

──既存の映像配信サービスとは、どのような点が違うのでしょうか。

 原野 既存の映像配信サービスは、再放送のものが多いと思うんです。「BeeTV」は、一次コンテンツと呼んでいるのですが、携帯電話用の“尺”でイチから番組を制作し、それを会員向けに配信します。そして番組の原盤権を確保することで、そこから書籍化やDVD化という多様なビジネスに展開することを視野に入れています。既存の映像配信サービスとはまったく異なる発想から生まれたものなのです。
 資本金も35億円とかなりの規模になります。今回のキャンペーンでも、そういったスケール感などを伝えるために、言葉遣いや表現面のディテールにも細心の注意を払いました。

“広がり”の出発点として

──4月1日の新聞広告は、ティーザー広告的なつくりでしたが。

 原野 「BeeTV」自体に、認知がありませんから、キャンペーンでは、まず「BeeTVとは何ものであるか」を伝えなくてはなりません。新聞広告は、全部で五つのパターンを製作し、読売、朝日、日経とスポーツ6紙に掲載しました。今回は広告を見た人に「何なの?」と思わせ、掲載当日の記者会見でタネを明かし、そこからテレビのワイドショーやネットのブログなどへ広がるようなコミュニケーションを設計したんです。
 記者会見には約500媒体が集まり、エイベックス史上最大の規模になりましたが、実は、記者会見は新聞広告掲載日のおよそ2週間前に決まったんです。そこで、最初に考えていた新聞広告のアイデアを1回壊して、改めて作っていきました。当初のアイデアも、ワイドショーやブログなどで話題になることを狙ったものでしたが、クライアントとの話し合いの中でテレビのワイドショーへの露出をより確実にしていこうということになったんです。そうなると、やはり、記者会見に出席するタレントを絡めたエープリルフール広告の方が効果も増します。ただ、急遽決まったとなので、その後のスケジュールはバタバタになりましたが(笑)。

5パターンの新聞広告
5パターンの新聞広告
5パターンの新聞広告
5パターンの新聞広告を製作し、4月1日に計9紙に掲載された。
──キャンペーンの出発点を新聞にしたというのは?

 原野 この広告は、日付と紐づける必要がありました。エープリルフールに絡めた広告を考えた時に、一番パワーのある媒体は何かというと、それは新聞だと思うんです。また、その生真面目な佇まいというか、融通の利かなさというか(笑)、そういうものの中に、少しふざけたものがあることでインパクトが生まれます。その一日に大きなインパクトを与える媒体として、今回は新聞以外には考えられませんでしたね。
 コピーを担当した小山が書いた「ウソつきは、エンターテインメントのはじまり。」という言葉がすごくよかったので、これでおもしろいキャンペーンが展開できると思いました。
 戸田 それと新聞の持つ社会性ですね。携帯電話のコンテンツの一つと言われると、どうしてもニッチな存在に見えがちで、その大きさとか革新性が見えにくいと思うんです。その問題をクリアしてメジャーな存在として見せるには、新聞が有効だと考えました。

素材を断片的に見せる

──新聞広告は、タレントのイラストと意味深なコピー、それにURLだけですね。
読売新聞 4月1日 朝刊 <19面>
読売新聞 4月1日 朝刊 <19面>
<21面>
<21面>
インターネット画面
紙面下のURLを打ち込むと、同日開催された記者会見終了までの時間がカウントダウンされているwaiting画面へ。時計がゼロになると開局告知サイトが立ち上がり、新聞広告の謎がすべて明かされた。そして翌日には記者会見の様子も視聴できた。

 小山 コピーはタレントに関係ありそうだけれど、これだけでは何のことを言っているのかはわかりません。ですが、インターネットにURLを打ち込むと「BeeTV」の各タレントのページに飛ぶようになっているんですね。
 原野 そこでは記者会見が終わるまで時計がカウントダウンされていて、ゼロになると開局告知サイトが立ち上がり、謎が明かされるという仕組みです。ただし、waiting画面はその日限りのものなので、直接URLを打ち込まなければならず、検索しても出てきません。

──かなり割り切ったというか、不親切ですね(笑)。

 戸田 意図的に不親切にしました。今回のキャンペーンは、新聞広告単体で完結することを狙ったものではありません。同日に開催された記者会見、それを取り上げるワイドショー、そして個人のブログや各タレントのファンのコミュニティーでの盛り上がりなど、さまざまな要素を視野に入れた展開なんです。
 原野 今回は、話題を広げる核、素材として新聞広告を使ったということです。それを料理するのは、最終的にテレビ局であったりブログを書いている人だったりするわけです。
 戸田 ブログなどを見ているとわかるのですが、今の時代の人たちは、いろいろな場所から要素を拾ってきてマッピングする能力が本当に高い。極端に言ってしまえば、断片的な素材を投げるだけで、それを勝手に話題にしてくれるんです。ですから、今回の広告では新聞を開いた時に「これ、何だろう?」という気持ちを起こさせるように、工事現場で使うような黄色と黒の配色にするなど新聞広告っぽくない顔つきを作るようにしました。
 最近の新聞広告にはカタログに載っているようなことが、びっしりと書いてあるものが多い。それでも見てくれる人はいるとは思いますが、それはその内容に最初から興味・関心を持っている人たちだけだと思いますね。
 不親切な広告がいいとは思いませんが、情報を詰め込みすぎずに、そこから波及効果が望めるようなクリエイティブにする判断も大切だと思うんです。

多面的な展開を意識する

──広告の反響はいかがでしたか。

 原野 新聞広告に出したURLには10万件以上のアクセスがありました。タレント広告の場合は、明確にファンのコミュニティーがあるんです。
 新聞広告には出ていませんが、たとえば、モデルの益若つばささんの「ムーログ」という番組が始まると書き込まれていれば、益若さんのコミュニティーでは大きな事件になるんです。
 トーマス 市原さんを起用した新聞広告に対するモバイルサイトのレスポンスは本当にすごかったですね。「今日の新聞広告見た?」という書き込みに対してすぐに「まだ見てないけど……」という書き込みがされて、「誰か画像アップしてよ」と書き込まれれば、携帯のカメラで撮った新聞広告がアップされるんです。そうやって、どんどん情報が集められていくんです。
 先ほど戸田が言ったように、若い人たちは、情報が少なくても、それをピックアップして編集する能力が本当に高いと思います。今の若い人たちは、唐突な情報を出された方が、かえってそこから積極的に探っていくのかもしれません。
 小山 ウェブの情報から逆に探り当てて、新聞広告を見たりする人もいましたね。
 原野 このタレントには興味がないけど、あのタレントなら探してでも見に行くという状況が起こっている。やはり少し前までの、新聞やテレビで世の中全体を相手にしてきたコミュニケーションの構造とはまったく違ってきていると思います。“個人の多面性”に対応するコミュニケーション作りが求められている時代だと思います。

──そういうコミュニケーションの構造になってきている中で、マス広告の役割というのは。

 戸田 やはりメジャーに見えるということですね。キャンペーンの入り口にマス広告を使うことで、話題が広がるスピードも速いと思います。

──今回のキャンペーンは新聞を使ったクロスメディア展開だと思いますが、キャンペーンを成功させるのに必要な視点は何でしょうか。

 戸田 新聞が読まれなくなったと言われますが、要はやり方です。新聞広告中心で展開しているキャンペーンで、十分な効果を発揮している例はいくらでもあります。
 原野 新聞広告は媒体料が高額なのでメディアミックスに組み込む考え方だと十分な量を打てないことが多い。使うなら中心的に使う、使わないなら使わない、というメリハリが必要。
 藤岡 話題を広げる手段として今はウェブが注目されていますが、小さなコミュニティーが集まっているのがウェブなんですね。やはり、世の中全体へ向けてメッセージを伝えられるのは新聞とテレビなんです。今回のキャンペーンでも“新聞が効く”ことを実感しましたね。

もどる