特集

2009.4/vol.12-No.1・2


不況に打ち勝つブランド戦略

 この不況の中でも支持され、売れている商品がある。それはどういう
ブランド戦略に裏打ちされているのだろうか。具体的に四つの業界の
担当者に聞いた。

プレミアムビール市場をブレークさせる

 ビール市場に参入して46年目の昨年、業界4位に甘んじていたサントリーが3位に浮上し、ビール事業初の黒字化も達成した。それを牽引したのが「ザ・プレミアム・モルツ」だ。商品開発にもかかわってきたサントリー酒類宣伝部長の和田龍夫氏に、そのマーケティング戦略を聞いた。

――ビール市場の現状からお聞かせください。

 ビール類のカテゴリーは、大きく分けると「ビール」「発泡酒」「新ジャンル」の三つがありますが、市場全体としては長期的なダウントレンドにあって、年2、3%ずつ落ちていて、全体がより低価格にシフトしているのが現状です。ただし、ビールの中でプレミアムビールと呼ばれるカテゴリーは拡大しています。「ザ・プレミアム・モルツ」は、このカテゴリーのビールで、この不況下でも売り上げを伸ばしています。ビール市場でも二極化が起こっているんですね。

――プレミアムビールというのは、いつ頃から登場してきたのでしょうか。

 「ザ・プレミアム・モルツ」が本格的なマーケティングを開始して以来、特に注目されるようになったカテゴリーです。もちろんそれまでサッポロビールの「ヱビス」がありましたが、競合する商品がなく、カテゴリーというよりはブランド単独で存在していた状況でした。05年時点でプレミアムビールは約1200万ケースで、他社もいくつか出していましたが、なかなかブレークしませんでした。それが昨年、2500万ケースと倍以上の市場になった。その増えた分のほとんどは「ザ・プレミアム・モルツ」です。

ビール・発泡酒・新ジャンル市場

先入観をいかに払拭するか

――プレミアムビールに力を入れた理由というのは何だったのでしょう。

 サントリーがビール事業に進出したのは63年で、ビールメーカーとしては後発です。どうしてもウイスキーの会社というイメージが強く、常に業界4位という位置にありました。これまでも、発泡酒の「ホップス」でシェアを獲得しましたが、低価格の製品だけではお客様の評価が上がらない。一番いいものをお客様に提案してこそビールメーカーとしてのブランドも向上するというのが一つの理由です。
 実は、お客様に「うまい!」と言ってもらえる最高のビールをつくろうという取り組みは、以前から始めていました。「ザ・プレミアム・モルツ」は、89年に「モルツ・スーパープレミアム」として樽生で業務用に発売し、高い評価を得ていましたし、01年には中瓶と缶を通年で発売しています。しかし、ビールに対する我々の思いだけではなかなかお客様に伝わらなかった。それが05年にモンドセレクションで最高金賞を頂いて、世界的なお墨付きがそこに加わり、プレミアム戦略のアクセルを踏む素地ができたのです。
 もう一つは、うちがオーナー会社だったことも大きいと思います。株主発想で目先の利益だけを考えたら、今売れている発泡酒や新ジャンルで行くべきだということになると思うのですが、そこはオーナー会社の強みで、「やってみなはれ」という社長の号令があったのです。企業の志と最高金賞受賞というタイミング、それからトップの決断、この三つが今回は全社的なうねりをつくったと思います。

2005年9月17日 朝刊
2005年9月17日 朝刊
――ビールを売る難しさは、どのへんにあるのでしょうか。

 ビールは、世間の評判が非常に効く社会性の高い商品です。例えば、最近も「サントリーがビール業界3位になった」という報道がありましたが、シェアが四半期ごとにニュースになる業界はほかにあまり例がありません。また、そういうことが酒を飲みに行っても口の端に上る。どのメーカーが好きだ、嫌いだということが話題になる珍しい業界です。そういう中で、「サントリーはちょっとね」というのがこれまでの評価だったのです。
 実は01年に「モルツ・スーパープレミアム」の缶を発売したのは私がビール事業部にいた時で、部下が商品化を行いました。ですから、非常に思い入れのある商品です。先入観なしに飲んでもらったら「おいしい」と言ってもらえる自信作です。しかし、一朝一夕には世の中の先入観を覆せなかったのです。
 その時、グループインタビューをやったのですが、発言を聞いていると、「僕はサントリーだけは嫌なんだよね」と言われるわけですよ。それで、ブランド名を隠して飲んでもらうと、「これ、おいしいですね」と言う。「サントリーの新製品です」と言うと、「エーッ!」みたいな反応が返ってくる。くやしかったし、暗い気持ちになりました。そういう時代を経ているだけに、我々としても感慨ひとしおなんです。

予算枠なしの投資で

――「ザ・プレミアム・モルツ」は、どんなマーケティング戦略を取ったのでしょうか。

 トップの決断がすごいと思ったのは、最初に「世の中を動かすため、サントリービールに対する先入観を覆すために、どれだけマーケティング予算がいるんだ」と言われたことです。プレミアム市場は一気に伸びる市場ではありません。マーケティング予算も売り上げに応じて徐々に増やすのが通常のセオリーです。しかし、今回は予算枠なしに一気に行こうということだったのです。ですから、我々も、そのためにどういうメッセージが効くんだということだけを議論しました。

――具体的なコミュニケーション戦略というのは?

 話題づくりなど全体のノイズを高いレベルに保ちながら、伝えるメッセージ自体はオーソドックスに徐々にステップアップさせるという方法を取りました。最初のステージは05年から06年にかけてですが、05年はモンドセレクション受賞というニュースを最大限活用するということで、コミュニケーションの真ん中にある言葉も「最高金賞のビール」でした。
 その翌年は「最高金賞のビールで最高の週末を」というキーメッセージでライフスタイル提案にステップを進めました。それまでのプレミアムビールというのは、どちらかというと盆暮れ正月に飲む「ハレの日のビール」だったんですね。そのままでは、どんなにうまいビールでもなかなか飲んでもらえない。だから、ハレの日に飲むビールから、いい週末、小ハレの日にも飲みましょうという提案をしていったのです。
 一方、トーン・アンド・マナーは一貫して、常に商品を主役に置いたクオリティーの高い表現を徹底させました。矢沢永吉さんというビッグタレントを起用しつつ、ビジュアルはモノクロをベースに、商品だけをパートカラーで登場させるという方針は今も貫いています。
 07年は、「ザ・プレミアム・モルツ」にお客様の支持が得られてきたということで、それをさらに拡大するために料飲店、いわゆる業務店に重点を置きました。やはり、料飲店は発泡酒や新ジャンルではなく、ビールです。料飲店を攻める営業をコミュニケーションでどうバックアップするかが課題でした。前年は家庭の週末に焦点を当てましたが、07年は、ちょっといいことがあった日はお店でもいいビールを飲もうということで、「確かにうまいプレミアムをどうぞ」というコピーで、広告メッセージからお店の看板まで統一しました。この結果、07年は前年比7割増になりました。


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