マーケティングの新レシピ

2009.4/vol.12-No.1・2


v

 賛否両論の中で定額給付金の関連法案も可決され、地域によっては支給が始まった。
 ただし、支給のスケジュールはかなりまちまちのようで、この原稿が掲載される頃にまだ受け取っていない人も多いかもしれない。
 国が現金を支給するという政策は、不況下における「わかりやすさ」という点では、明快である。一方で、これが賛否両論となり、かつ世論調査でも反対派が多かった。
 この理由も、また明快である。
 「お金を配っても景気がよくならない」と思う人が多かったということだろう。ここで思い起こされるのが1998年の「地域振興券」である。この施策は、一定の条件を満たした家庭への支給であり、今回の政策とは異なるものの、「消費喚起」という目的では類似している。
 では、その時の効果はどうだったのか?
 これについては当時の経済企画庁が調査をした。地域振興券があったことで買い物をしたり、その際に高価なものを選んだかどうかを調べたのである。そして、結論は以下のように書かれている。
 「これらを合計して、振興券によって喚起された消費の純増分は、地域振興券使用額の32%程度であったとみられる」
 つまり残りの68%は貯蓄に回ったということになる。今回の定額給付金に対して懐疑的な見方が消えないのも、こうした事実があったからだと思う。

マーケターならどうする?

 問題の所在はシンプルである。「いま、買おう」という心理にならず、不要不急と思われる消費がどんどん先送りになっていることだ。
 では、こういう時に企業のマーケティング担当者はどうするだろうか?
 もっともよくあるのは「いま買えばトク」という方法である。増量する。おまけをつける。抽選でプレゼントを出す。流通ならポイント還元率を高める。いずれもクラシックだが、根強い刺激策だ。
 これを一社がやれば、他社もやる。単なる値引きではなく、より魅力的な企画を考えるので市場は活性化するのである。
 これは政策的にも応用できる。つまり「いま買わねば損」という心理を呼び起こせば、一定の効果は見込める。
 政府も当然そのことはわかっているわけで、今回の景気対策には住宅ローン減税なども含まれている。これは住宅取得を考えている人には朗報だろう。
 ただし、言うまでもなく住宅取得は人生において最大の買い物である。「せっかくだからいま買うか」というようなニーズ発掘ができるのかというと、ちょっと心もとない。

買い手の気持ちを政策立案に

 1万2000円の給付金と、数千万円単位の住宅取得。こう並べてみると、なんとも収まりが悪いように思える。そんな中で気になるのが環境対応車への税負担軽減である。
 クルマにもよるのだが、ハイブリッド車などでは完全に減免になるので、200万円前後のクルマを買うと15万円程度「トク」をすることになるらしい。
 これは、一定の効果を生むとは思う。目のつけどころとしては適切だ。だが、この金額や方式は適切だろうか?
 ここで、注目すべきニュースを目にした。ドイツで2月の自動車販売が対前年比で20%以上伸びたというのである。【下図】

ドイツの乗用車の新車登録台数 (独自動車工業会の資料などに基づく)

図
読売新聞 3月9日付 朝刊より

 これには奨励金という強力な政府の後押しがあった。記事によると、9年以上経た中古車を環境対応の新車に買い替えると、1台あたり2500ユーロ(約31万円)が支給されるというもの。
 しかも60万台までという限定である。
 これは実に上手な仕組みだと思う。9年以上という制限があるので、古くて汚染源になりやすいクルマから淘汰されていく。しかも、金持ちが補助金をもらって2台目を買うようなことはおのずと制限される。ある種の格差是正にもなるだろう。
 しかも、政策として明快である。
 日本の税負担軽減も悪くはないのだが、車種によって軽減率が異なるなど、ちょっと分かりにくい。
 また、軽減額のインパクトも中途半端に思える。
 10万円台の軽減であれば、値引き交渉でどうにかなるようなイメージではないだろうか。そこへいくと、ドイツの奨励金の額は「いま買わなくちゃ」と思わせるのにふさわしいインパクトだったと思われる。
 結局、日本の政策は残念ながら消費者の心理に踏み込んでいない気がする。「税金の免除」というのは論理としては正しい。だが、何とも優等生的な発想に見える。
 軽減額にしても、「この程度なら財源がある」というような発想から逆算しているのだろう。
 売り買いの現場にいるような人たちなら、買い手の気持ちに立って考えるはずだ。15万か30万か──この差がどのくらいの影響になるのかをもっと議論するべきなのである。
 不況の中でも日本の企業は工夫を重ねてモノを売ってきた。そういう人たちを政策立案の現場に入れれば、いいアイデアは山ほど出ると思えるのだが。

もどる