特集

2009.3/vol.11-No.12


around40にどうアプローチするか

「理屈より体感」世代が高価格帯市場を担う

 昨年10月に発売された資生堂の「リバイタル グラナス」は、30代以降の女性をメーンターゲットとした高価格帯ブランドだ。そのブランド担当リーダーを務めるのが、ヘアケアブランド「TSUBAKI」のマーケティング担当として活躍した高津晶氏だ。高津氏は、アラフォー世代をどう分析しているのだろうか。

――「リバイタル グラナス」誕生の背景からお聞かせください。。

 ここ数年、化粧品市場は中価格帯商品が減少し、高価格帯商品と低価格帯商品の二極化が進んでいます。05年から資生堂ではメガブランド戦略として、「マキアージュ」「アクアレーベル」「ウーノ」「TSUBAKI」などのブランドを展開していますが、これらは中・低価格帯市場に対応したブランドです。一方、「リバイタル グラナス」は、資生堂として高価格帯市場にもしっかり楔を打ち込むために投入されたブランドで、高価格帯の中核ブランドに育てたいというのが目標です。

「他立」「自立」「自律」の3世代

「リバイタル グラナス」サイト
「リバイタル グラナス」サイト

●リバイタル グラナスのターゲット分析

  • ・30代から40代後半までの女性 は、三つの世代に分かれる
  • ・長女世代は「他立」、次女世代 は「自立」、三女世代は「自律」
  • ・三女世代は、自分で実感して 納得してモノを買う人たち
――メーンターゲットは団塊ジュニアだと聞いていますが。

 今回のブランドのコミュニケーションを設計する時に考えたのが、「三姉妹理論」です。30代から40代後半までの女性は、三つの世代に分かれると思ったんですね。
 まず長女ですが、今の40代後半でバブル期に社会に出た世代です。この世代は仕事にはそれほど積極的ではなく、だいたい25歳前後で結婚と同時に退職しています。子どもは2人ぐらいで、いわゆる日本の代表的な母親像と一致します。
 次女は40代前半。男女雇用機会均等法で積極的に社会進出し、収入もある。いわゆるキャリア女性の代表です。
 そして、三女は30代で、ここが「リバイタル グラナス」のメーンターゲットです。この世代は、長女と次女両方の特徴を備えています。雇用機会にも恵まれ、仕事も積極的にこなします。しかし、好きな人ができれば結婚して、潔く仕事を辞めてしまうところもあります。
 長女世代は「他立」、それに反発した次女世代は「自立」、そして、三女世代は「自律」というキーワードで表現できると思います。
 「リバイタル グラナス」のメーンターゲットである三女世代は、非常にこだわりが強く、自分の価値観や感性を大切にするという特徴があり、収集した情報を編集する能力にもたけています。そのため購買行動も右脳型消費の傾向が強いのです。

――右脳型消費というのは?

 理屈ではなく、感覚が満たされないとモノを購入しないということです。長女世代は、「あなたの肌はこうなっています→だから、この成分が入っているこの化粧品が有効です」という理屈を説明すると購入に結びつきやすい合理主義の人たちです。しかし、三女世代はこれとはまったく逆のプロセスで購入の意思決定をします。まず体感ありきなのです。その上で満足・納得しないと購入にはなかなか結びつかないんですね。だからこの世代へのアプローチは、従来のやり方ではなく、メディアの使い方を含めた新しいコミュニケーション設計が必要だと考えました。

三女世代に重要な実感体験

――新しいコミュニケーション設計とは、具体的にはどのようなものなのでしょうか。

 ひと言で言いますと、カウンセリングとマス広告を連動させた「リレーショナル・マス」という新しいマーケティング手法です。
 高価格帯の化粧品はカウンセリングを通じた関係性販売が主流で、これまであまりマス広告をやってこなかったと思うんですね。
 「知る人ぞ知る」傾向が強かった高額品は、特定のお客さまに買っていただくことに主眼を置いてきましたが、ロイヤルユーザー層の年齢が高くなるにつれて、新しいお客さまとの出会いが課題となっています。
 「リバイタル グラナス」で我々が狙っているのは、「誰もが知っている高額品」です。そのためにマス広告を取り入れ、30代、40代の新規ユーザーの獲得を目指しました。資生堂としては、高価格帯化粧品にマス広告を取り入れたのは十数年ぶりになります。
 それと同時にカウンセリング手法を見直して、感覚的な満足を求める三女世代の価値観にどのように応えて、新規ユーザーになってもらうかという課題もありました。

――カウンセリング手法の見直しとしては、どのような取り組みをしたのですか。
テレビCM
テレビCM「本当の贅沢 鈴木京香」篇

 今までのカウンセリングは、フェース・トゥ・フェースで行われていました。つまり、資生堂のビューティーコンサルタントの説明やおすすめを信頼して購入していただいていました。ところが、三女世代は自分で実感して初めて納得して買う人たちです。そうすると、カウンセリングではなくてコーチングが重要になってきます。
 わかりやすい例を挙げると、「リバイタル グラナス」に「セラム(美容液)」があります。手につけて指で伸ばすと、糸を引くように伸びるんです。それを肌になじませると、すっと吸い込まれるように肌に浸透する。ビューティーコンサルタントが「こんなに伸びるんです」と見せると、お客さまもやってみたくなる。そういう体感促進が三女世代には重要です。

ブランド認知と体感促進

――「リレーショナル・マス」では、マス広告はどのように使ったのでしょうか。

 優先順位は、まずブランド認知をしっかり取ること、次に体感促進です。
 今回のキャンペーンでは、認知のためのメディアとしてテレビを使用したわけですが、「リバイタル グラナス」では、店頭をより重要な認知メディアだととらえています。実際に「リバイタル グラナス」の購入者のタッチポイントを見ると、テレビCMよりも店頭の方が高いのです。
 そのため、「リバイタル グラナス」はパッケージを店頭でも目立つピンクに統一しています。パッケージにメディア機能を持たせるのは、セルフサービスの量販店向け商品の発想ですが、ブランド認知には極めて有効だと考えています。
 それと今回実感したのは、思ったよりも三女世代の認知経路は、テレビのみに偏っていないということです。おそらく、三女世代は仕事であれ、育児であれ、テレビを見る暇がないほどに忙しいのだと思います。
 体感を促進するために力を入れたのは、店頭でのサンプリングです。また、美容専門誌や女性誌では広告出稿した全誌にサンプルを付けました。これは認知を高めると共に、三女世代が実感して納得して買う人たちということから、体感を徹底的に促進することが狙いだったからです。

――新聞広告にはビューティーコンサルタントが登場していますね。
2008年11月1日 朝刊
2008年11月1日 朝刊

 実際のビューティーコンサルタントを起用したビジュアルは、新聞広告だけの表現です。この新聞広告は、増し刷りして資生堂各支社の掲示板に張り出しました。ビューティーコンサルタントの間でも話題になると同時に、資生堂としての意気込みが伝わるわけですね。
 新聞広告は、キャリアの女性を中心としたターゲットの認知を獲得する目的もありますが、むしろインナーを意識しています。資生堂の社員はもちろん、店頭のビューティーコンサルタント、あるいは、資生堂のチェーンストアの経営者や従業員の方々に対して、このブランドのフィロソフィーをしっかりと提示していくことが狙いでした。
 認知には、「主観認知」と「客観認知」があると思っています。主観認知は社内広報などインナーのメディアから得られる認知です。一方、客観認知は誰かの目線を通して、つまり他のメディアのフィルターを通して得られる認知です。特に、社会性のある新聞広告を通じた客観認知は信頼度が高く、認知の質も違うからなのです。

ターゲットと実購買層

――キャンペーンの結果は、どうだったのでしょうか。

 「リバイタル グラナス」を実際に購入した年代を見ると30代と40代を合わせて5割弱、20代はやや少ないですが、50代、60代の方もまんべんなく購入しています。資生堂の高価格帯化粧品の中で、30代、40代を合わせて5割を占めるということは、今までほとんどありませんでした。
 三女世代をメーンターゲットにして、「目で、肌で効果がわかる」実感価値を高めるための体感促進を中心に展開したキャンペーンですが、ターゲットの求める新しい美容価値を狙うことによって、逆に上の世代にも下の世代にも売れていく。これまでの高価格帯化粧品はクローズド市場で、「ターゲット=実購買層」を前提に売られてきましたが、これからはターゲットとする世代と実購買層をうまく見極めることも重要になってくると思います。
 また、そういう新しいマーケティングを考えるリソースとしても、アラフォーの三女世代はおもしろい。ただし、まず体験ありきで、その上で納得しないと購入に結びつかない。ターゲットにするには、かなり手ごわい相手でもあるのですが。


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