マーケティングの新レシピ

2009.3/vol.11-No.12


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 昔から「不況に強い業種」と言われるものがある。80年代半ばまでは「本屋と花屋」と言われていた。だが、そういう言い方も聞かなくなった。もはや不況はあらゆる業種に蔓延しているようにみえる。
 テレビで「買い取りサービス」の仕事がピックアップされていた。裕福な家庭のタンスの奥で眠っていた呉服を買い取ったり、経営の行き詰まった洋服屋の在庫を一括で引き受けて転売するらしい。
 「売れない」からこそ「買う」ビジネスには需要がある。かなり繁盛しているらしいが、ごくごく稀な業態と言えるだろう。
 あらゆる業種が不調のように見えるが、逆風の度合いはかなり異なる。最も逆風が強いのは、必需品ではなく、なおかつ「代替性の高い」商品やサービスを売り物にしているところだ。
 つまり「代わりが利く」となれば、人は安くすませようとする。
 この志向をもろに受けたのがまずは外食業界だった。食べものというのは、生きるために欠かせない。だが、家で作れば安くすむ。家計の見直しをおこなえば、外食が目をつけられたのは当然である。
 こうした代替消費を分析すると、大きな流れがあることがわかる。一つは、「家事の外注化の見直し」であり、もう一つは「技術革新の逆回転」である。

見直される家事の外注

 外食の苦戦が報じられる時にまず言われるのは交際費の削減による接待の減少である。
 不況下でも生き残るのは「個人客をつかまえた店」という外食業界の経験則があると聞く。だが、不況が長引くとあらゆる店がジワジワと影響を受ける。
 昨秋くらいからスーパーマーケットで鍋に使う具材が売れているという。たこ焼きや焼き鳥のできる調理器具も売れたらしい。「店に行ったつもり」になれるということだろう。
 少しくらい手間をかけても節約したいという心理の表れだ。逆にいえば、少々経済的余裕があれば主婦だってラクをしたい。外食産業の成長は、そうした「家事の外注化」の流れに乗ってきた面もある。
 女性の社会進出に伴って、家事の外注化はいろいろな分野で進行してきた。そうした流れが、この不況の中で大きく変わろうとしている。
 食の分野だけではない。白髪染めの新製品が、予想以上の売り上げだという。これは美容院からの代替消費というように見ることもできるだろう。
 また、クリーニングなども家庭での代替ができる部分がある。毛糸洗い用の洗剤などの伸長も考えられる。
 こうした「家事の外注」でビジネスをしてきた業態の競争は厳しくならざるを得ない。家庭では不可能な品質を提供したり、付加価値を出せるかどうかがカギになってくる。

逆回転の技術革新は環境にも優しい

 こうした「家事の外注化の見直し」の他にも、ユニークな切り口の代替品が注目されている。
 この冬は「温かさ」をキーに幾つかのヒットが生まれた。
 たとえば「湯たんぽ」。シンプルだがぬくもりのある温かさが見直されたという。またユニクロのヒートテックが話題になった。昨年あたりから他のブランドでもスパッツや長袖Tシャツが結構目についたけれども、それが、この不況下で暖房費の節約志向とあいまって大ヒットになったのだろう。
 そしてこれらの商品には技術革新の「逆回転」ともいうべき背景がある。
 ヒートテックが新たに開発された繊維であることは知られているが、湯たんぽでも新しい波がある。ネット通販で人気のドイツ製の湯たんぽは、柔らかなゴムのような感触が評判になっている。これは弾性プラスチックという素材らしいが、外のカバーはフリースなどで自分の好きな色を選べる。人気になるのもうなずける。
 かつて、寝るときの暖房器具といえば湯たんぽだったが、電気パッドや電気毛布に押されて姿を消しかけていた。
 それが意外な復活を遂げたのである。
 同じような流れでは、水筒や弁当箱も注目されている。これはペットボトル飲料の代替品ということになろう。
 こちらでも軽量で保温性が高く、デザインのシャレたものが注目されているようだ。
 こうした技術革新の逆回転は結果的に、環境にも優しいことになる。電気代の節約や容器のリサイクルなどの問題の解決にも一役買うことになるのだ。
 このような動きは今後しばらく続いていくと思う。いまは冬場ならではの商品の例を挙げたが、夏には夏で暑さを凌ぐための先人の知恵が見直されるだろう。
 先のドイツ製の湯たんぽは、冷水を入れることで氷枕にもなるという。水筒だって夏場こそ活躍するはずだ。
 暑い夏にできるだけ心地よく眠り、水筒に入れたおいしいもので水分を補給するには、どのような商品やサービスが考えられるだろうか。他の分野も含めて、代替消費の市場には大きな可能性があるに違いない。
 不況下でも機会は存在するのである。

図
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