インテグレーテッド・コミュニケーションの時代

2009.3/vol.11-No.12


これからの課題

 eMarketer.comにたいへん興味深いデータが公開されている。日本、米国、英国、ドイツ、ブラジルなど各国別に、ネットユーザーが購買意思決定に影響される広告メディアのトップスリーに入っている率を算出したものだ。
 国別の相対比較でみると、日本はテレビ、オンライン、新聞、ラジオ、ブログ、モバイルで高く、ビルボード・屋外、劇場、DVD、ビデオゲームで低い。
 オンライン、SNS、ブログ、モバイルの数字を合算してみると、日本87、米国66、英国61、ドイツ65となり、日本はオンライン広告費がテレビ広告費を超えた英国よりもはるかにこの数値が高い。
 一方、ネットユーザー1人当たりのオンライン広告費では、日本は全体の8位。トップの英国は日本の2.38倍もある(米国で1.47倍、ドイツで1.32倍)。
 日本では他の国より、ネットモバイルメディアの影響力が高いにもかかわらず、その広告市場シェアは小さいと言える。その原因は何だろうか。

ネットユーザーの購買意思決定に影響を与える広告メディア

相対比較(2008年8-9月)(n=8,824、上位3位までを回答、単位:%)

  日本 米国 英国 ドイツ ブラジル
テレビ 90 88 84 73 75
雑誌 47 49 54 50 57
オンライン 61 48 45 57 45
新聞 54 42 44 49 30
ラジオ 54 27 44 49 30
ビルボード・屋外 6 10 14 21 14
SNS 6 8 6 2 8
劇場 4 7 11 6 8
DVD 3 7 8 4 9
ブログ 13 6 4 2 6
ビデオゲーム 2 4 6 3 9
モバイル 7 3 5 3 19
バーチャルワールド 0 1 1 1 7

Deloltte,“State of the Media Democracy Third Edition”(eMarketerへ2009年1月12日提供)より

ネットユーザー1人当たりのオンライン広告費比較

(単位:$)

1 英国 213.98
2 オーストラリア 148.99
3 デンマーク 144.27
4 米国 132.13
5 ドイツ 118.85
6 スウェーデン 112.53
7 オランダ 94.93
8 日本 89.85
9 フランス 88.57
10 イタリア 76.53

TechCrunch - The True Value Of Social Networksより

 最も大きな原因は、マーケターである企業の組織と人材にある。大会社ほど従来の宣伝・広報、販売促進、営業、システム……という組織分掌であって、売り上げ利益責任を負うのはその一部である。他のほとんどのセクションは当然それぞれのセクションの予算を守ろうとする。ネットマーケティングであれば、宣伝予算やコールセンターコストを一部Webサイトのパフォーマンス向上に充てれば、全体のROIは上がるが、それを志向するダイレクトマーケティング部があったとしても、システム部や、コールセンターを預かるセクション、宣伝部ほかの領域を侵せないので、Webソリューションになかなかコストを割けないことが多い。
 またネットマーケティングではない場合も、Webを使ったプロモーション施策は、あくまで各ブランドのプロモーション予算の一部をWebを活用した施策として展開しているに過ぎない。よってそのスケールは非常に小さい。
 欧米の場合、大手広告主にはCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)が設置されているケースが多く、トータルにマーケティングROIを測定管理する体制がある。当然、広告・販促・営業などの組織がトータルに管理下に置かれて全体最適が追求される。
 また大会社ではメディアマーケティング事業(自社メディア事業)を取り込んで、全事業部がそのリソースを活用できる仕組みを持つところさえある。
 日本でも実際に現場で実践している企業マーケターたちは、こうした矛盾をしっかり認識している。しかし経営の「理解」と「変える覚悟」がまだ不十分である。いっそ若いマーケターを大抜擢してCMOに据え、体制を改革させるべきではないかと考える。
 また一方で、インタラクティブ関連のサービスを提供する広告会社側の問題も大きい。日本の場合、ネット広告会社も多数あるが、ネット広告スペース販売に偏っていて、Webマーケティングにおけるトータルソリューションサービスの提供にまで至っていない。総合広告会社も、営業のフロントラインにはデジタル&インタラクティブのプロデュース機能が全く欠けている。
 こうしたことが、日本のメディアとコミュニケーション環境が他の先進国と比べてもよほどデジタル化しているにもかかわらず、ビジネスとしてはその環境をキャッチアップできていない状況を生んでいる。それだけ変化への対応が鈍いと言える。

 広告コミュニケーションの変革の動きは、実はそのベースとなっているマーケティングそのものの変革によるものである。マーケティングの変革もビジネスモデルとビジネスプロセスの変革によるものである。
 インターネットは、コミュニケーションの世界を変えたが、実はそれ以上にビジネスプロセスやマーケティングを変えてしまった。変化したのはひとつの実態であり、現象であるのだが、変化を受け止める側には、まだまだ従来のモデルを軸にして考える人と、新しい、特にネットマーケティングを主体とする人の2種類が存在する。
 難しいのはこれらの融合である。口でいうほどIMCやクロスメディアなどという概念を具現化するのは容易ではない。それぞれ実践しているマーケティング手法は、マスマーケティングに立脚するか、ネットマーケティングに立脚するかどちらかというのが現実だ。
 そこで起きているのは、組織編成が新しいマーケティング手法に追いついていないことと、対応した人材育成ができていないことである。
 以上見てきたように、課題は、マスマーケティングだけでもない、ネットマーケティングだけでもない、融合された次世代マーケティングを確立するプロセスである。私の個人的見解を記すなら、マーケティングROIを測定管理できる手法の側からマス領域にアプローチするのが正解なのではないかと考えている。

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