Fashion Insight

2009.3/vol.11-No.12


ブランドビジネスのトップに聞く(2) 歓びのかたち─バカラ

小川 博氏
小川 博
(CHiroshi Ogawa)

1948年神奈川県生まれ。慶応義塾大学法学部法律学科卒。70年エッソ・スタンダード石油(現エクソンモービル)入社。83年バカラ パシフィック設立に参加し、代表取締役常務などを経て94年から現職。シンガポール法人代表、米国法人取締役兼務。97年仏国政府より、仏国家功労章 シュバリエを受章。趣味はオペラ、旅行、陶芸、料理。

バカラ パシフィック株式会社
http://www.baccarat.com

 先日、ワード資生堂で開催された「FECトップ・セミナー」ではバカラ パシフィック株式会社の小川博社長を講師としてお迎えした。その講演内容を読者の皆様に紹介させていただく。そこにはブランドビジネスの神髄が凝縮されていた。

   
――バカラ パシフィック株式会社が日本にできて今年で25周年になります。今や日本はバカラの世界最大の市場です。成功の秘訣は何だと思いますか。

 多くの人にバカラというブランドを知っていただくということをこつこつと積み重ねてきた結果だと思います。25年前、日本は世界のマーケットの中で15番目ぐらい。ほとんどの方はバカラなんてご存じないし、クリスタルを生活に取り入れるという文化もありませんでした。

――昨今はギフトでバカラを贈られる方も多いですが、当時は……

 もう、苦労話は山ほどあるんです(笑)。カップルの方が結婚式の引き出物でバカラをご用意されたい、と。すると、おばあさまから「こんな割れものは使えませんよ」なんて言われたり……。ですから、最初はそう急いで売り上げの結果を出さなくていい。ただし、バカラの歴史的・芸術的価値はお客様にきっちり伝えようと思ってやっていましたね。まあ、バカラ教の宣教師みたいなものです(笑)。

――1990年代にはアクセサリーなどの新商品の発表、東京・丸の内で路面店のオープン、世界最大規模のバカラ展の開催など新たな動きが活発化しますね。

 実は、94年頃、ターゲットカスタマーに対する考え方を変えたんです。世帯所得や年齢などの属性ではなく、感性でカスタマーのプロフィルを考えてみようと。すなわち、文化・芸術・音楽・旅を愛する人、海外経験が豊富で非常に国際感覚に優れた人……というふうに。同時にバカラのポジショニングも「高級テーブルウェア」から「トータルライフスタイルのラグジュアリーブランド」へと捉えなおしました。

――そうなると販促活動の仕方やメディアプランも変わってきますね。

 端的な例としては、百貨店のショップを一部、家庭用品フロアから、シャネルやエルメスなどが出店している特選フロアへと移していきました。

――バカラというと、日本ファッション・エディターズ・クラブでは毎年優れたファッションデザイナーに賞を差し上げているのですが、そのトロフィーがバカラ製なんですよね。

 うちはけっこう法人需要が強いんですよ。栄えある賞にバカラがふさわしいと思ってくださる方が多いのは、うれしいことです。

――日本独自の企画で、お酒や葉巻とともにバカラの世界を楽しめるシガーバー「B bar」もオープンされました。まさにバカラ教布教という感じですね(笑)。

 ええ。私も毎晩「B bar」には夜勤しております(笑)。バカラは、ギフトにたいへん強いんですが、一方、自家需要も育てたい。そのための体感空間が「B bar」です。

B bar
バカラの文化・世界観を発信する「B bar Marunouchi」
――バカラは、チャリティー活動や文化・芸術への貢献活動にも積極的です。先般も、今年で3回目となる「バカラ・アスリーツ・オブ・ザ・イヤー・アワード」を北島康介選手と上野由岐子選手へ贈られました。

 小さい会社ながら少しでも社会貢献をしていきたい。そんな思いが発端です。人々に勇気と感動を与え、社会を明るい光で照らしたアスリートに敬意を表し、「おめでとう」の何倍かの「ありがとう」を贈ろうという賞です。

――さて、昨今の世界的な不況の中でラグジュアリーブランドはどこも苦戦を強いられています。円高に伴って、価格を下げて、消費マインドに少しでも火をつけようという動きもあります。バカラでは価格設定を変えていませんね。

 これは25年間貫いてきた私どもの強いポリシーなんですが、為替の変動によって価格は変えません。なぜならば、私たちの商品は、棚の上での寿命がとても長い。168年前につくられたグラス「アルクール」が今も人気の商品です。そうした商品の価値は、為替の変動で変わるものではない。あくまで商品そのものの価値を反映した価格にする。これは、きちんとぶれないでやっていきたい。それが100年、200年と続いていくバカラの価値じゃないかと思っています。

バカラショップ名古屋>
2007年3月、名古屋ミッドランド スクエアにオープンした「バカラショップ 名古屋」
バカラショップ六本木
2003年オープンの「バカラショップ 六本木」。世界初となるバカラ直営バーを併設
ローラ タンブラー
新作の「ローラ タンブラー」
ボンボントレジャー
デザイナー ハイメ・アジョンとのコラボレーション作品

★★★

小川氏

 「バカラのクリスタルは、生活を、そして人生を、より豊かに、より楽しく、より美しくするもの。人生のあらゆる大切な時にこの『歓びのかたち』を傍らにおいていただきたい」という、伝道師のような使命感すら漂わせた語り口からは、小川社長のバカラの製品に対する自信、情熱そして信念が感じられ、日本の市場での成功の理由が垣間見えた。

日本ファッション・エディターズ・クラブ http://www.fec-japan.com

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