経済カフェテラス

2009.3/vol.11-No.12


不況で浮き彫りになった三つのミスマッチを乗り越えよう

経済カフェテラス

 今回の不況で浮き上がってきたのは日本社会のミスマッチである。

農業や介護の雇用政策

 たとえば、リストラされ求職中の人は多い。一方で、介護や農業など人手の足りない分野ははっきりしている。しかし、労働の移動は簡単には起こらない。
 求職者も仕事は選びたいし、人材を求める側も、意欲を持って、長く働いてくれる人を、と希望する。新人を育てるのは手間暇とコストがかかり、熟練者の時間がそがれるからだ。人手不足で忙しければ忙しいほど、長くいてくれる確信がなければ、新人には覚えやすい単純作業しか与えられない。「それではやりがいがない」と新規就業者は増えない。
 農業に職を求める場合、平均的な所得は決して高くない。農業生産法人の給料は月給20万円前後ではないだろうか。それでも、米や麦、野菜、家畜を育てる仕事に生きがいを見いだし、農業や畜産を生業として生きていく人生に夢をもった人々が頑張って働いている。付加価値の高い農作物の生産や、直売販路の開拓などで、農業ビジネスを成功させている人も多いから、「自分も頑張ってみよう」という気持ちがある。しかし、農業をやりたいわけでもなく、単なる生活費のためということでは、そうした待遇に不満だし、職場の雰囲気にもなじめない。
 また、家族が農業を理解し、家族ごと農村に移住してくるくらいの覚悟が必要で、新米の農業者が生活費の高い都会に暮らす家族を養うことなど不可能に近い。
 介護も同様だ。所得は高くない。しかし、介護の現場で働く人々は介護される人々の笑顔を励みに一生懸命働いている。
 農業も介護も慢性的な人手不足であるが、それを補ってきたのは「日本の農業を守りたい」「介護の仕事でお年寄りの役に立ちたい」という使命感である。この使命感で成り立っている分野が、単なる労働需給の数合わせで、人材の受け皿になるとは考えられない。
 ミスマッチなのは労働需給ではなく、雇用政策が現状にマッチしていないことである。単に仕事をあっせんするだけでなく、農業や介護の分野に就職する人々に「この仕事を一生の仕事に」という覚悟を促し、また必要な技術を習得するまでの補助を国が行い、労働力としての定着を図る努力をするのでなければ、景気回復とともに労働力は再び製造業に戻り、これらの分野の人手不足は一層深刻になるだろう。

イラスト

タイトルカット&イラスト・谷山彩子

多機能・高機能バブルが崩壊

 第二のミスマッチは「売りたいもの」と「買いたいもの」のミスマッチである。
 今なぜ物が売れないのか、といえば不景気のせいだけではない。「これが欲しい」「これがないと困る」というものがもはやないからである。
 今回の消費低迷の背景にあるのは「多機能商品バブル」「高機能商品バブル」の崩壊である。サブプライムローンに端を発した不況との同時進行だ。
 第一に必要最低限の便利さ、機能性を有した商品を一通り持っているので、新製品に買い替える必要がない。デジカメも携帯電話も今のもので十分なのである。これ以上追加の機能など必要ない、と思っている日本人は多いはずだ。しかも日本の製品は優秀で壊れないので買い替える必要性がない。
 第二に高機能なものは、使い方が難しく、若い人に教えてもらわないとなかなか使い方をマスターできない。値段が高くて手が届かないのではなく、使いこなせないから持っていても意味がないとあきらめているのである。
 第三に商品に求める価値が変わってきた。
 その代表例が自動車だ。少し前までは、車はステータスシンボルと言われ、若い男性が集まると、新車の話で盛り上がっていたが、最近はそういう話題はあまり出ないらしい。自動車選びでは、新しい価値観が重視されるようになっている。
 新しい価値観とは「エコ」である。最近、電気自動車が注目を集めているが、単に電気自動車の技術開発が進んだというだけではない。遠くに行くときは電車か飛行機、自動車は日常、近所への外出の足、という考え方が定着してきたのである。その価値観に近いのが電気自動車だ。
 電気自動車は環境にやさしい上に、日常で使う機能はガソリン車と大差なく、使わない時に充電すればよいという手軽さが魅力である。デジカメと同じ速度で普及すると見ている人は多い。

消費の価値をどう伝えるか

 三つ目のミスマッチは、景気が悪くなると、企業が最初に広報予算をカットしてしまうことである。景気がいい時は人も物も活発に動き、自然に情報が集まってくる。不景気な時ほど、情報を発信する努力をしなければ、有益な情報は集まらない。
 これまでは新しい技術が新しい消費を生み出し、経済を立ち直らせてきたが、今回は違うのではないか。技術が消費をリードする時代から、消費の価値観を技術がサポートする時代へと変化している。商品の機能ではなく、消費の価値をどう消費者に伝えるかというコミュニケーション力が商品の価値を形成する時代に入りつつある。
 不況の時こそ、企業はその存在価値、企業理念を社会や消費者に伝える努力を怠ってはならないと思う。

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