2008年は東野圭吾の年だった。トーハン発表の年間ベストセラーリストを見ると、東野作品が文芸書のトップ3を独占している。これはもう、快挙としか言いようがないではないか。
第1位が『流星の絆』、第2位が『聖女の救済』、第3位が『ガリレオの苦悩』。『流星〜』と『聖女〜』は長編小説、『ガリレオ〜』は短編集である。
これだけの人気になったのは、映画『容疑者Xの献身』のヒットによるところも大きい。もともと『白夜行』などで知られる著者だが、この映画で一気にファン層が拡大したように思える。そして『流星の絆』は、宮藤官九郎の脚本によってテレビドラマ化。原作とはずいぶんテイストの違う作品になったが、これまたさらにファンを増やす原因となった。
思えば東野圭吾は不遇な作家だった。99年の『白夜行』、2001年の『片思い』、03年の『手紙』、04年の『幻夜』と、何度も直木賞の候補になりながら落選。05年に文学賞選考をパロディーにした作品を含む短編集『黒笑小説』まで発表したときは、選考委員への宣戦布告かと噂されたほど。
05年下半期、ついに『容疑者Xの献身』で直木賞を受賞した。そしてこの08年の東野イヤーである。長年の東野ファンは留飲を下げたに違いない。そら見たことか、と。
流星の夜空をインクで表現
12月14日の朝刊第5面は、全面4色で『流星の絆』の広告である。1冊の書籍だけで、それも新刊ではない、9か月も前に出た書籍の広告はめずらしいかもしれない。
右上に『流星の絆』の書籍。「涙がでた。あの人と話したくなった。」というコピーは万年筆による手書きである。インクはブルーブラック。ところどころ、インクがにじんでいる。涙がこぼれたのだ。もう1冊『流星の絆』があって、下半分のブルーブラックにつながっている。まるでインク瓶をひっくり返したようだ。ブルーブラックは星が流れる夜空の色である。
原稿用紙の上にインクが流れた下半分には、白抜きでテレビドラマ『流星の絆』がいよいよ大団円を迎えることが告知されている。
〈衝撃のラストの前に原作を読むか、ドラマの後に余韻にひたりながら読むか〉という文章がある。これから「読んでから見るか、見てから読むか」というコピーを連想する人は何歳以上だろう。角川書店が映画とのメディアミックスで世間の話題をさらったのは1977年、およそ30年前のことだった。
メディアミックスの時代、再び
考えてみると、東野圭吾ブームに限らず、昨今の話題作には映像とのメディアミックスが多い。海堂尊の『イノセント・ゲリラの祝祭』のヒットには同著者原作による『チーム・バチスタの栄光』の映画化とテレビドラマ化が働いているし、ミリオンセラーとなった水野敬也『夢をかなえるゾウ』もテレビで単発ドラマと連続ドラマの2本立てである。ふたたびメディアミックスの時代が来ている。
30年前のメディアミックスに対して、出版界の眼差しは冷ややかだった。いまは違う。見てから読んでも、読んでから見ても、作品のおもしろさはいささかも揺らぐことはない。そんな自信がこの広告から伝わってくる。

12月14日 朝刊