Creativeが生まれる場所

2009.1・2/vol.11-No.10・11


周囲を巻き込んで仕掛けた“知的ないたずら”キャンペーン

電通 コピーライター 岩田純平氏 アカウント・エグゼクティブ 山口啓太氏

岩田:養命酒製造を経て、2006年に電通入社。東芝「星の王子さま」などを手掛ける。2002年度TCC新人賞、2005年度、2008年度TCC賞受賞。
山口:テレビCM制作会社のプロダクションマネジャーを経て、2006年電通入社。以来、JT「ルーツ」ブランドを担当。第15営業局所属。

 2007年4月から始まったJTの「ルーツ飲んでゴー!」キャンペーンは、俳優の坂口憲二がサラリーマンに扮し、共感性の高いシニックなコピーをつぶやくもの。圧倒的な数の交通広告を展開し、話題になった。
 昨年9月から12月の朝刊1面に、このキャンペーンのコピーを集めた書籍(扶桑社刊)の広告がコピーを変えて複数回掲載され、雑報スペースと連動させる手法も注目を集めた(一連の三段八割広告は2008年度の読売出版広告賞「特別賞」を受賞)。
 このユニークなキャンペーンについて、コピーライターの岩田、AEの山口両氏に聞いた。

──今回のキャンペーンが生まれた経緯から、聞かせてください。

 山口 「ルーツ飲んでゴー!」は2007年4月から始まったキャンペーンです。それまで展開されていた「飲スピレーション」キャンペーンも、コアなターゲットにしぼったアプローチで売り上げを伸ばしていたのですが、ルーツという商品をもっと多くの生活者にとって身近な存在にしたいということで、よりメジャー感のあるキャンペーンを目指しました。
 しかし、メジャー感のある広告を作るからといって、単純な広告出稿量の勝負にはしたくなかった。店頭では、生活者が商品を手に取るまでの2〜3秒の間に広告を思い出してもらえるかどうかというマインドシェアが重要です。だから、一般的には、缶コーヒーはテレビCMのスポット投下量で勝負が決まると言われていたんですね。
 しかし、それでは広告出稿量の多いブランドには永久に勝てません。そこで、もっとクリエイティブの力を使った別のアプローチがあるのではないかというところから今回のキャンペーンを組み立てていくことになったんですね。

紙面

互いの専門領域を超えて

──キャンペーンは、駅貼りポスターなどの交通広告が中心的な役割をしていると思いますが、最初から交通広告ありきで考えていったのでしょうか?

 山口 最初にメディアありきで、企画が進んでいったわけではありません。
 今回のキャンペーンは「牛乳に相談だ。」キャンペーン(中央酪農会議)を手がけたストラテジックプランナーの山田壮夫が推進役となってクライアントと一緒に枠組みを作っていったのですが、そのブレストで出てきたコンセプトが“知的で愉快な仲間たち”というものだったんです。ルーツという商品が、生活者の身近な存在、言うなれば学生時代の友人のような存在になって、30代、40代のサラリーマンの気持ちを前向きにするキャンペーンを展開していこうということになりました。でも、まだ具体的な方向性が見えない。
 そこに、クリエイティブの最初の打ち合わせの時、コピーを担当した岩田が、サラリーマンのぼやきともつぶやきともつかないコピーを20案ほど持ってきたんです。それで、一気にキャンペーンの方向性が決まったんですね。
 岩田 30代のサラリーマンというのは僕らの世代ですが、仕事や人間関係、あるいは恋愛に関すること、いろんなことに閉塞感を持っている世代です。そんな行き詰まりを感じている彼らがほしいのは、「頑張れ」という叱咤激励ではなく、自分と同じ境遇にいる仲間たちの言葉だと思ったんです。
 それで、その段階では、まず「ルーツ飲んでゴー!」というスローガンを考えるよりも、閉塞した30代のサラリーマンの共感を得るようなコピーをスローガンで受けるような言葉の流れ、例えば「ピンチがチャンスに変わりません→ルーツ飲んでゴー!」というメッセージ構造ができないかと考えたんです。モヤモヤした閉塞感をコピーで表現して、「わかる、わかる」と共感してもらい、そんな時はルーツを飲んで頑張っていこう、というメッセージを発信してはどうだろうかと考えました。
 山口 このメッセージ構造には非常に力があるということで、さらに山田が「ポスターを貼る場所ごとにそこにいる人の心をつかむような違うコピーがあったら面白いね」と言い出したんですね。山田のプランニングに岩田のアイデアがどんどん加わっていった形で企画が進められ、テレビCM、ウェブなどのメディア展開案を考えていったというのが、実際の流れですね。

──意図的にクロスメディア展開にしたわけではない?

 山口 結果的にそうなった部分が大きいです。営業である僕がクリエイティブに「こういう表現はどうだろう」とか、クリエイティブも「こういう媒体で展開できないか」など、チーム全員がお互いの専門領域を飛び越えて意見を言い合いました。メディア担当や他のスタッフも巻き込んで、好き勝手にアイデアを出すというチームの構造も良かったと思いますね。

関係者を巻き込んで

新橋駅
新橋駅
池袋駅
池袋駅
名古屋駅
名古屋駅
──駅貼りポスターにこだわった理由というのは?

 山口 なぜ交通広告なのかというと、メーンターゲットのサラリーマンが缶コーヒーを買うのは、圧倒的に朝が多いからです。出社する前のサラリーマンのコンタクトポイントとして交通広告は効果的に機能すると考えたんです。限られた予算の中では局地戦も必要ですから、駅貼りポスターは重要でした。
 岩田 今のサラリーマンは忙しいためか、テレビを見ない時間も多いんですね。現代人の1日のタイムスケジュールを考えると、こういった展開が効率的だろうということです。

──駅貼りポスターですが、どのくらい貼ったのですか。

 山口 駅貼りポスターは、東京、名古屋、大阪などの大都市圏で展開しました。第1弾は303駅で310パターンの駅貼りポスターを、第2弾は210駅に加えJRAの場外馬券売り場でも展開し、計300パターンのポスターを作りました。そして2008年秋は、駅構内の大型ボードと電車内ポスターで237パターンを展開しました。見渡せる範囲に大量の駅貼りスペースが確保できる場合は、極力違うものにするなど、ポスターのバリエーションが無限にあるかのように見せることに苦心しました。これだけ大量に駅貼りスペースを確保するとなると、その掲出指示作業は大変なんです。これは企画がおもしろいと言って乗ってくれたメディア担当者たちを巻き込んで、アイデアを出し合いながら徹夜を重ねました。
 岩田 最初の計画ではもっと規模は小さかったのですが、クライアントに提案したら、どうせやるなら、都心部だけではなく、自分たちの住んでいるような郊外の駅にもあったほうがインパクトがあるし、駅を利用する人もうれしいじゃない、というありがたい提案をいただき、エリアが拡大されたんです。そこからうれしい悲鳴の日々が始まりました(笑)。

──コピーですが、どのくらいの数を書いたのですか。

 岩田 駅貼りポスターや新聞広告、ウェブなど、掲載された数は1年間で1000本は超えています。コピーをクライアントに提出する前に、社内チェックがあって、一つの駅で10案は書きましたね。クライアントにも非常に熱心にコピーチェックをしていただいたので、没になったコピーを含めると、6000本以上は書いていると思います。

──各駅のコピーはどのように書かれていったのですか。

 岩田 その駅固有のものに関しては、実際に駅に降りて調べたり、ネットから情報を拾っていきました。サラリーマンのつぶやきコピーに関しては、幸運なことに社内にはちょっと変な先輩、後輩が多いので、彼らを観察してメモしていると使えることがありましたね。
 山口 「笑いながら無理ばかり言ってくる」とか、ああ、これ自分のことを言っているな、と思うコピーも多かったですね(笑)。

1面書籍欄でゴー!

ブックストア談 浜松町店
ブックストア談 浜松町店
ジュンク堂書店 大阪本店
ジュンク堂書店 大阪本店
──キャンペーンのコピーを集めた本を出版し、1面書籍欄に掲載されたその新聞広告もユニークでしたね。

 山口 もともとこのキャンペーンでも、新聞広告をやりたいと思っていたところに書籍化の話が出てきたんです。
 そこで、書籍広告のスペースを使った展開もおもしろいんじゃない? と。しかし、朝刊1面の書籍広告欄は格調の高いスペースですし、かなり難しい企画です。ここでもメディア担当者を巻き込んで、新聞社にお願いに行ったり苦労してもらいました(笑)。
 発刊は扶桑社ですが、書籍編集部の方がこのキャンペーンのことをよくご存知で、相思相愛な感じでスムーズに書籍化の話が進んでいきました。この企画が実現したのは、何よりも扶桑社の熱意と協力が大きかったですね。この本の書籍広告として何をやれば最も効果的であるかを一緒に考えたり、書店のPOPのためにタレントと契約までしてくれたんです。
 また、書店にも扶桑社の営業さんが回ってくれて、かなり目立つようにディスプレーしてもらいました。書店の方も随分乗り気でやってくれました。店頭のディスプレー用にルーツを配ったのですが、実際に僕が挨拶に行った書店の店長さんも「コーヒーを店頭に置いたのは初めてだよ」とおっしゃっていましたね(笑)。

──今回のキャンペーンはどんどん周囲を巻き込んでいった末に大きくなったという気がしますが。

 山口 そうですね。新しいことに対して、クライアントや電通のスタッフだけではなく、電鉄会社や出版社、書店、新聞社など、関係者みんなが協力してくれたから実現できたのが今回のキャンペーンだと思っています。やはり関係者みんながこの企画の心をわかってくれないとなかなかうまくいきません。それに、どんどん形になってくると、みんなすごく興奮して乗ってくるんですよ。

ルーツ飲んでゴー!
──今回の新聞広告の使い方は非常にユニークだと思いますが、新聞をどのようなメディアとしてとらえていますか。

 岩田 誤解を恐れずに言えば、新聞というメディアは、知的な“いたずら”をするには最高のメディアだと思いますね。やはり、まじめで緊張感がありますし、そこでのいたずらは効果的なインパクトが期待できると思うんです。
 そのためにも、と言っては変ですが、新聞はずっとそういう品格のあるメディアであってほしいですし、僕たち広告を制作する側も新聞という文化を大事にしていかなくてはいけないと思っています。それに対して僕らは、いたずらの質を上げることで応えていけたらいいと思いますね。

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