経済カフェテラス

2009.1・2/vol.11-No.10・11


「適所適材」時代の雇用安定

経済カフェテラス

 今年の初詣では、わが事、わが家のことのみならず、日本経済の景気回復、雇用の確保といった社会の安定を願った人が多いのではないだろうか。
 年の瀬近い時期の派遣社員の大量契約解除は、大きな話題となった。町に一歩足を踏み出せば、きれいなクリスマスイルミネーションが煌き、心躍らせる音楽が流れている時期だけに、明暗のコントラストに胸が痛んだ。
 不況は思った以上に深刻だ。しかも、そのしわ寄せは、派遣労働などの雇用が不安定な低所得者層に集中している。
 今回は100年に一度の経済危機といわれている。低所得者、生活困窮者の増大という局面下での大不況には、従来型のばらまき策では解決が不可能だ。また、最近では企業収益と正社員雇用の確保、賃金水準が必ずしもリンクしないのが特徴である。単なる景気対策では、雇用にまで効果は及ばない。

省力化徹底の生産現場

 最近はどこの工場を取材に行っても、その人間の少なさに驚かされる。広い現場に人がポツリポツリである。思えば、電車や地下鉄の駅でさえ、駅員をあまり見なくなった。省力化はいたるところで進んでいる。
 生産現場では技術革新により、人間が行っていた作業をロボットが代行し、必要な判断をコンピューターが行うようになっている。機械がちゃんと動いているかの確認や、梱包材や原料の補充のために数人が広い生産現場をウロウロしているだけである。組み立て工場は若干事情が異なるであろうが、一般の製造業の現場は小学校で見学に行った従来の工場のそれとは別世界だ。
 それらを見ていると、今回、大量に契約解除された派遣社員が、景気の回復とともに再び全員雇用される保証はないと思う。その間に、より省力化が進むこともありうるからだ。オイルショックを省エネ努力で乗り越えた日本企業の伝統はまだ失われてはいない。
 あるいは、数年の間に、IT化が一段と進み、それ相応のスキルを持った人間しか再契約されないかもしれない。

イラスト

タイトルカット&イラスト・谷山彩子

雇用維持には不断の努力で

 事務部門においても、パソコンが普及したことによる省力化は進んでいる。計表や書類作成は、事務補助の手を借りなくても、本人がやるようになった。資料配布も、メールが瞬時にして一斉に関係部署に送信を完了してくれる。コピーも送付作業も不必要だ。ファイリングも、ルールを決めておけば、パソコン中で簡単に処理して、共有化できる。いま必要なのは、事務補助ではなく、パソコンでの事務処理をテキパキと片付けてくれる技術者である。
 事務職の仕事もデータ化が進んでいるから、どうしてもこの人でないとわからない、ということが少なくなっている。高給をもらっているのは、卓越した企画力や情報加工能力をもっている人たちだ。
 終身雇用が薄れるとともに企業内の人事は「適材適所」ではなく、「適所適材」になってきた。
 私たちは「適材」になるべく、語学やIT技術を身につける努力が常に必要だ。そして、自己の存在を発信していかないと、業務処理のスピードから置いていかれてしまう。
 最近、新幹線の中でパソコンを開く年代層があがってきた印象がある。以前は20代、30代が必死に新幹線の中でパソコンを打っていたが、中高年層もそれに加わったのだ。「パソコンは苦手で」などとは言っていられない。新幹線の中でのパソコン作業は目が疲れるが、「昨日は出張で、メールの返事が出せませんでした」というタイムロスはちょっとまずい。
 2009年は緊張感とともに始まった。

まずは現実を直視して

 振り返ってみれば、企業にとっては、年の瀬のリストラの規模の大きさだけが喧伝され、何とはなしに非難の目を向けられることは不本意であったにちがいない。企業は世の中から雇用の確保を求められる一方で、収益を確保し、株価を維持し、配当することを株主から求められている。
 収益確保、あるいは減益を最小限に食い止めるためにはリストラやむなしというのが株主の声である。個別にはリストラを容認するが、世論全体としてはリストラを非難するというのは矛盾である。
 「企業は社会の公器」とよく言われる。時代は変わっても、企業は社会にとって、重要かつ大きな存在だ。
 そして「雇用の確保」について、企業には常に大きな期待が寄せられている。しかし省力化のみならず、グローバル化、就業者のジョブホップ、株主主義の時代の到来など、企業をとりまく環境は大きく変わってきている。
 日本の雇用の安定のために何が必要なのか、現実を直視した、地に足のついた議論が必要だ。
 そのためには、まず企業の厳しい現場をもっと公開してほしい。つまり「大人の社会見学」である。「消費者」や「株主」のための情報公開や企業見学だけでなく、私たちにもっと日本経済の現実を見せてほしい。これも広い意味で企業に課せられた社会貢献活動ではないだろうか。

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