特集

2008.12/vol.11-No.9


コーズ・ブランディングの時代

共感型コミュニケーションとしての「nepia千のトイレプロジェクト」

 「nepia 千のトイレプロジェクト」は、東ティモールにおけるユニセフの「水と衛生に関する支援活動」をサポートすることで、1000の家庭用トイレの建設と、15の学校のトイレの建設、修復をし、子どもたちの命と健康を守ることを目指すプロジェクトだ。ネピア商品1パック購入ごとにユニセフへの寄付を積み上げるこのプロジェクトは、どのように生まれたのだろうか。

――「nepia 千のトイレプロジェクト」が始まった経緯からお聞かせください。
「nepia GENKI!」と「超鼻セレブ」

 これまでもネピアブランドを作るためにさまざまな努力をしてきました。例えば、花粉症など鼻専用の高級保湿ティッシュというカテゴリーを作った「鼻セレブ」も我々の製品ですが、ブランドの鮮度を保つために今年もリニューアルしましたし、「鼻セレブ」のさらに高級版「超鼻セレブ」やクリスマスバージョンの「聖なる超鼻セレブ」をウェブ限定で発売し、話題作りの努力もしてきました。「超鼻セレブ」は、2個セットで3000円、1枚当たり10円の超高級ティッシュですが、即日完売になりました。それから、紙おむつのカテゴリーでは、アンパンマンをキャラクターに使った赤ちゃん用おむつ「nepia GENKI!」を発売しました。昨年度は「nepia GENKI!ハイキャッチ」、今年度は「nepia GENKI!さらさらおしりふき」で2年連続、グッドデザイン賞を受賞しています。
 そういうブランド強化の努力はしているのですが、やはりティッシュ、トイレットペーパーというのはコモディティー化(注)した商品ですから、どうしても流通との商談も価格中心になりがちで、店頭でも安売りが目立ちます。もちろん、やわらかさや肌触りの良さといった商品特性も重要な要素ではあるのですが、最終的に選んでもらう決定要因にはなりづらい。その店で売っていなければ違う町までわざわざ行って買うようなものではないですから。
 そうした中で、競合メーカーとの競争のための工夫ばかりしていていいのかな?ティッシュやトイレットペーパーのメーカーとして、もっと本気で取り組むべき使命があるのでは?と考え始めたわけです。

(注)コモディティーとは、元来差別化になじまない穀物や鉱物などを指すが、企業間の技術水準が同質化した90年代後半以降、多くの商品やサービスは平準化して差別化が困難になっており、こうした状況を「コモディティー化」と呼ぶ。

“トイレ”という事業ドメイン

――いわゆる、CSR(企業の社会的責任)の着想を持たれたわけですね。

 その通りです。競合メーカーを意識して、それに勝つような工夫に明け暮れるのではなく、ネピアならではの、「トイレットペーパー屋」のDNAやリソースに根ざしたオリジナリティーのあるドメイン(事業領域)を見つめました。そこから発想すれば市場や経済状況とは関係なく、企業は成長力を維持していけるのではないか。そう考えていたんですね。

――「nepia 千のトイレプロジェクト」は、そういう発想から出てきた?

 最初からそこにたどり着いたわけではありません。まず、トイレ周りから勉強しようということで最初にやったのが、月刊誌『ソトコト』の連載企画「Lohas/nepia それ、つくりますプロジェクト」です。トイレットペーパーやティッシュの新しい形を考えようということで、ドリカムのお二人をはじめ、いろいろな人のアイデアを06年から毎月製品化していったんです。
 東京デザイナーズウィークというイベントに、それらの製品を展示したのですが、そこで日本トイレ協会の方と出会うんですね。それが、昨年から、首都圏の小学校で展開している「うんち教室」を始めるきっかけです。

――「うんち教室」というのは、どういう活動ですか。

 例えば、小学生の男の子だと学校のトイレに行って大便器の個室に入りづらかったりします。でも、うんちをすることは恥ずかしいことじゃないし、健康のバロメーターでもあるんです。運動やバランスのいい食事をしていると、いいうんちが出る。「うんち」を通して健康や衛生を学んでもらう教室です。
「うんち日記」
毎日のうんちをチェックする「うんち日記」
 この教室で配っている教材に、夏休みに毎日いいうんちが出たか記録していく「うんち日記」というのがあるのですが、子どもたちは、いいうんちがしたいものだから、運動したり、野菜もちゃんと食べるようになるんです。それから、おがくず粘土で作る「うんちえんぴつ」というのがあって、思い思いのうんちを作って、芯を入れるとそのまま固まって鉛筆になるんですね。子供も、親も喜んでくれる。今年も90校ほどから応募があったのですが、残念ながら、予算の関係で7校しか実施できません。
 ただこの活動によって、トイレ周りの事業領域で、ウチの会社もなかなかいいことができるなという実感を持ったわけです。

――それが「nepia 千のトイレプロジェクト」につながる?

 そうです。「うんち教室」をやっている中で、ユニセフの活動に目が留まりました。
 そして、世界では年間150万人を超える子どもたちが、汚れた水とトイレの不備からおなかをこわし、脱水症状になって命を落としていることを初めて知るんですね。ちょうど今年2008年は、国際衛生年だったことと、ユニセフが国際的に行っている水と衛生の活動は、我々の事業のドメインにも合致し、やりがいのある社会貢献です。なかでも、衛生=トイレの問題は担い手が不足しており、水に対して改善が遅れがちという事実もあり、アジアで一番若い国の東ティモールを支援することになったんです。

ユニセフの活動から学んだこと

――プロジェクトをスタートする前に、現地の東ティモールを視察したとのことですが。
写真1 写真3 東ティモールの小学校2校で「うんち教室」を開催。おがくず粘土で作る「うんちえんぴつ」は、ここでも子どもたちに大人気だった 写真4 ユニセフの支援で作られた小学校の簡易型水洗トイレ

 社内でだいたいのOKをもらってから、僕を含めた社内の3人のスタッフと写真家の小林紀晴さん、今回のコピーを担当してくれた電通の並河進さんたちと1週間行きました。東ティモールのトイレの普及率は36%、全国968の小学校のうち、約3分の2はトイレがなかったり、壊れて使用できなかったり、トイレの数が足りない状況です。06年の大規模な暴動で、電気や水道といったインフラが大きな打撃を受けたことも原因です。年頃の女の子だと、トイレがないから学校に行きづらいという子もいるんですね。
 現地では、トイレ施設を普及させるためにユニセフのパートナーであるNGOが活躍しています。日本のNGOも活動しており、日本人スタッフも活躍していました。現地の実情を知った今は実感としてわかりますが、最初は、なぜこの人たちはこんなにも真剣にトイレ作りに取り組んでいるのか不思議でした。
 ユニセフの活動は、現地のコミュニティーで衛生活動を中心となってすすめるメンバーを作ることから始まります。そのメンバーが中心になって住民たち同士の話し合いを通してトイレの必要性と衛生について理解を深めていきます。そこにNGOも入って教育していくんですね。
 そうやって理解が膨らんで、現地の人たちからトイレがある生活をしたいという声が出て、意識が高まってから、トイレの建設を始めます。トイレもきちんと掃除をしなければいけないし、住民自らがそれをできるかというところまで確認しているんですね。このとき、何もかもを与えては、現地の人に「自分たちの生活のためのトイレだ」という意識がなかなか根付きません。ユニセフでは、自分たちにできることを必ず取り入れるようにしています。ユニセフは、建設に必要な資材を購入し、提供します。現場では、NGOの指導のもと、まさにトイレを使う住民たちが建設作業を行います。
 まず現地の人たちの衛生の教育から入る。それからトイレも、切実に欲しいというコミュニティーにつくるというのが非常に大事なことで、実際にトイレだけ設置して、壊れても現地の人たちには直せなくて、さらに不衛生になっているという場合もあるんですね。
 ユニセフのそういう活動は、僕らにとっても非常に勉強になりましたね。

告知に商品パッケージも活用

――現地の視察後、社内で報告会を開いたということですが。
パッケージ トイレットロールのパッケージにもプロジェクトの告知を印刷

 現地で撮った映像を中心に、ビデオ説明会を社内で開催しました。実は、実施を検討していた時期というのが、パルプも原油も高騰し、会社の業績が悪くなることもわかっていた時期だったんです。当然、社内には、「こんな時になぜ社会貢献なんだ」という話もかなり多く出ていました。それまで、社員のモチベーションも下がっていたのですが、この報告会で、社内がまとまったと思います。プロジェクトに共感してくれて、一緒にやろうという気持ちになってくれましたね。
 それから、主な流通にも4月からプロジェクトの説明に回りましたが、非常に好意的に受け止めていただき、スペースを確保してくれる店舗が多かったですね。トイレットロールとティッシュ5個パックが今回の対象商品ですが、商品パッケージを告知にも活用しました。また、プロジェクトサイトを作りましたが、そこにもキャンペーン商品の取扱店の一覧を掲載しました。

――新聞広告も出稿されていますね。

 プロジェクトの大きな目的のひとつは、世界の水と衛生の問題を広く知っていただくことにあります。そのために新聞の効果は大きいですし、僕ら社員にとっても励みになりました。主婦は店頭でパッケージを見てこのプロジェクトを知ることが多いと思いますが、男性への認知も広がったと思います。
 それから、東ティモールの実態を知ってもらおうということで、視察に同行してもらった小林紀晴さんの「東ティモール写真展 うんちをする。僕らは生きている。」を、8月に渋谷のBunkamuraで開催しました。

2008年10月3日 2008年10月3日 別刷り(大阪本社版)(全7段)

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