経済カフェテラス

2008.12/vol.11-No.9


食の「安全」と共に問われる「安定」に「直買」などの消費者行動がカギ

経済カフェテラス

 「食の安全」。最近はこれを演題に入れてほしい、という講演依頼がほとんどだ。
 かつては「食の安心・安全」と、「安心・安全」がワンセットになっていたが、いつのまにか「安心」の2文字が消えかかっている。なぜだろう。
 「安心」とは消費者の気持ちである。しかしいまや消費者心理を云々する以前のレベルだ。そもそも「国や企業が安全と言っているものは、本当に安全なのか」。国民はそこまで不信感をもっている。

国内農業生産者の存続の危機

 「安全」の陰に隠れてしまっているが、私たちは「食の安定供給」という意味の「安定」の大切さを忘れてはならない。「安全」と「安定」、そして「安心」(=信頼)こそが国民の食を支える三大柱である。
 しかしこの「安定」が議論される機会は少ない。それは、豊かな時代にあって、「食べ物がいつもある」ということは当たり前になっているからである。
 日本の食料生産計画は、計画が多少下振れしても、供給に対する不安感を国民が抱かないように高めに設定されており、計画通りであれば潤沢に食料が存在する。そのため、生産者が夏以来の資材等の高騰によるコスト高をカバーするために農産物価格の値上げを求めても、流通側からは「供給過剰」を理由にそれに応じてもらえないという状況が発生している。「値上げするなら、別のところから買うから」と言われればそれまでだ。「今が見切りどき」と廃業にふみきる農家、特に畜産農家が増えてきていることに消費者は危機感をもつべきである。
 かつて公害が深刻であった頃に、消費者が不買運動を通じて公害対策の強化を企業に求めたように、農業や食をめぐる諸問題に消費者が自らの購買行動を通じて果たすべき役割を考えるという時期が再来しているのではないだろうか。
 「安全」とセットになった「安定」を継続させるためには、国内農業基盤を維持しなければならない。国内生産者が農業を継続するためには、生産物が適正な価格で消費されなければならない。
 「不買」の対極にある「買い支え」もまた一つの消費者の意思をあらわす行動である。

イラスト

タイトルカット&イラスト・谷山彩子

「顔の見える消費者」の出番

 「顔の見える関係」ということが農業ではよく言われる。「生産者の顔が見えるようにしよう」という取り組みは定着してきた。インターネットなどを通じて積極的に情報開示する生産者も増えてきたし、生産者の氏名や時には顔写真までついた肉や野菜も増えている。
 次は「顔の見える消費者」の登場だ。それが「行動する消費者」である。自分の購買行動を通じて農業問題や食料問題にかかわろうと考える人々であり、老若男女を問わず裾野は広い。
 最近、新しい消費者グループが目に見えないところで形成されつつあることを知った。インターネットの世界である。
 実は先日、農林水産省の「地産地消メニューコンテスト」の審査員をさせていただいた。その中に一般の人から募集した「地元食材を楽しむレシピ」という部門があり、そのレシピの投稿窓口となったのが「クックパッド」というサイトであった。
 クックパッドは「日本最大の料理レシピサイト」である。月間利用者は500万人近い。これは1人が連日アクセスしても「1人」とカウントする方法での利用者人数であるというから驚きだ。世代別統計をみると、30代の女性の4人に1人が利用しているという計算になるらしい。サイト内のレシピは43万件。このサイトの特徴は、これらのレシピが料理専門家ではなく、一般の人から投稿されたものである、ということである。1人の投稿に、「こうしたら、もっとおいしく出来ました」というレシピの改善案が投稿されるという。アクセスのピークは午後の2時から3時。このサイトで夕食の献立を決めて、買い物にでかけるという行動パターンであろう。
 この500万人はネットの世界だけでつながった静かな存在であるが、料理に関心深く、同じ情報を共有し、情報感応度が高く、購買活動を伴うグループである。
 ちなみに「地元食材を楽しむレシピ」には3週間の募集期間中に600余件の投稿があり、投稿レシピが見られた数は80万PVを上回る。

規格外の食料へのアプローチ

 「規格外のキュウリやナスなどの野菜を廉価で流通させてほしい」という声がある。規格外商品が流通しないのは、買い手による選別よりも、箱単位で市場取引されている現状では、曲がった野菜が交じっていては一箱の数をそろえるという条件が満たせないという流通上の事情が大きい。いまこうした規格外商品は農家の直売所などに出回ることが多いが、主たる担い手は高齢者層で、その引退とともに直売所の継続が危惧されるところも少なくない。
 であれば「生産者が直売する」のではなく、「消費者が直買する」システムを考えてはどうか。待っている消費者から、行動する消費者へ。消費者が顔を見せる場はいろいろなところにありそうだ。
 2009年のアメリカはオバマ次期大統領の「チェンジ」から始まる。日本の農業、食料問題の解決には、農水省、農業関係団体の「チェンジ」は当然のこと、発想を転換し、自ら行動するという消費者の「チェンジ」が鍵になる。

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