from America

2008.12/vol.11-No.9


大統領選に見た「コピーの力」

 出張で、バラク・オバマ氏の拠点であるシカゴを訪れた。彼が第44代アメリカ合衆国大統領に決定した、つい1週間後のことである。空港周辺にオバマ氏の大統領選出を祝う横断幕がいくつかある以外は特に盛り上がっている様子は見られなかったが、11月4日夜、間違いなくこの街は熱狂の渦に巻き込まれていた。
 選挙戦が終わり、広告業界誌ではいかに「オバマ・ブランド」が機能したか、広告業界は彼から何を学ぶべきなのか、関連記事が百花繚乱である。しかし、そのほとんどに共通して見られるのが、彼のブランド・マネジメントの巧みさと、コピーライティング能力の高さを称賛する声で、そのすべては、一言のスローガンに集約される。そう、「Change」である。
 選挙戦において、オバマ氏の最初の強敵はヒラリー・クリントン上院議員だった。オバマ氏が掲げた「Change」に対し、クリントン氏が掲げたのが「Experience」。経験は確かに重要だが、どちらかというと後ろを振り返るイメージと捉えられかねない。これを感じたクリントン氏は、スローガンを、なんと「Countdown to Change」に変更する。いくらなんでもひどいとの周囲からの指摘を受け、さらに「Solutions for America」に再度変更したが、相次ぐスローガン変更で、主張の焦点がぼやけてしまった点は否定できない。
 最後まで死闘を演じた相手である共和党のマケイン氏は、コピーに関してはさらにひどかった。10月26日付のニューヨークタイムズ・マガジンによると、マケイン氏が当初使用した自身に対するキャッチコピーは、「Maverick(一匹狼)」、「Conservative」、「War Hero」、「Experienced Leader」、「Commander」、「Patriot(愛国者)」と数多い。スローガンについては、選挙戦中盤になってようやく「Country First」を採用したのだが、「一般的な有権者が求めているものとはかけ離れたスローガン」という悪評が多かった。国民にとって大事なのは、政府ではなく自分たちの生活だ、というわけである。さらに彼は、相手を意識するあまり、選挙戦終盤にはその「Country First」でさえも満足に使用しなくなる。代わりに、オバマ氏に対する中傷を始めたのだ。実際、候補者討論会の中継でも、見ているこちらの方が立腹するような中傷を平気でしていた。CNNの中継では、携帯電話でのリアルタイム投票による支持率が表示されていたのだが、マケイン氏の発言内容が中傷になる度に彼の支持率は下がっていた。これは、マケイン・ブランドにとっては致命的な出来事だったと今でも思う。
 オバマ氏は、ほぼ唯一といっていい「Change」を繰り返し使用した。マーケティングアナリストのアル・リース氏は、彼の戦略をBMWになぞらえる。BMWは、1975年から30年以上にわたり「The Ultimate Driving Machine」というコピーを使い続けている。これにより、消費者は「BMWはドライバビリティーに溢れた車である」と認識し、心の中にBMW=「Driving」という図式を無意識に構築している、と彼は言う。まさに、オバマ氏=「Change」だったわけだ。
 もちろん、コピーやスローガンだけで大統領が決まったわけではない。しかし、金融危機が起こり、国民が閉塞感にとらわれる中、この「Change」は人々に希望を与えた。「オバマ氏なら、変えてくれる」と思わせた。明日仕事を失うかもしれないとおびえる労働者に、「Country First」は果たして響く言葉だろうか?

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