Creativeが生まれる場所

2008.11/vol.11-No.8


プロモーション発想を入れて ファン参加型の“宝探し”演出

小栗卓巳氏 吉岡丈晴氏 松井一哲氏

小栗:1978年生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達学科卒業後、博報堂にデザイナーとして入社。カンヌ国際広告祭シルバーライオン受賞、朝日広告賞入賞、その他受賞多数。
吉岡:1978年生まれ。大阪大学法学部卒業後、博報堂入社。コピーライターとして、幅広い業種を担当。ピンクリボンデザイン大賞、OCC賞など受賞。
松井:1979年生まれ。慶応義塾大学卒業後、博報堂入社。カスタマーマーケティングプランナーとして配属される。08年カンヌ国際広告祭シルバーライオン受賞など。

 9月17日朝刊のセンター裏表4ページに、人気ロックユニットB’zのベストアルバム『ULTRA Treasure』の発売告知広告が掲載された。扉の青い宝箱のビジュアルを開けると、589個ものQRコードがずらりと並ぶ。試聴できるアタリはわずかで、大半は“ハズレ”という“宝探し”だ。このユニークな新聞広告はどのような発想から生まれたのか。若き3人のクリエイターに聞いた。

──今回のキャンペーンの考え方ですが。

 小栗 まず、なぜ3人でここに登場したのかを説明することが、その質問の答えになると思います。僕はデザイナー、吉岡はコピーライター、松井はカスタマーマーケティングプランナーといってSPのプランニングをやっています。
 通常のキャンペーンでは、広告クリエイティブができてから、それをSP部門に受け渡すことが多いのですが、今回は広告、プロモーションという枠を取り払って、二つを効果的に連動させていく展開はできないかと考えたんです。
 それなら最初からSPのプランナーをメンバーに加えてしまえ、ということですね。広告にプロモーションの専門的観点や知識が加わることで、より質の高いキャンペーンができると考えたんです。もちろん、広告のデザインやコピー、販促ツールの制作などは、それぞれの専門家が担当しましたが、キャンペーンの仕掛けやアイデアは、3人でいっしょに考えたということです。

QRコードで“宝探し”

──キャンペーンの中心的な役割は、新聞広告ですね。

 小栗 はい。これまでB’zは、アルバム発売などの記念日に新聞広告を出してきた前例があったので、今回も新聞広告をキャンペーンの中心に据えた展開を考えました。
 吉岡 ポイントはファン参加型ということです。B’z結成20周年を記念して、今年の6月18日にベストアルバム『ULTRA Pleasure』が発売されたのですが、今回の『ULTRA Treasure』はファンが選んだ曲で作ったベストアルバムです。言い換えれば、ファンが選んだ“宝物”ですから、そのキャンペーンにもファンに参加してもらおうと考えたんですね。
 小栗 ファンを動かし、話題として盛り上がるための切り口として、まず、アルバムタイトルにある「Treasure=宝」から発想して、何かできないかと考えた。それが、“宝探し”というモチーフでした。
 松井 それで、新聞を使って、いかにしてファンに宝探しをやってもらうかを考えた時に、アタリとハズレのあるQRコードでくじをやってみようというアイデアが出てきたんですね。アタリにはアルバムの収録曲の試聴や、ここでしか手に入らないデジタルノベルティを盛り込んでいます。
 新聞全30段のスペースには589個のQRコードが並んでいますが、その中でアタリはわずか35個。かなり暴力的な数字かなとも思いましたが、ファンサイトやブログを見ると、このくらいの数があった方が、B’zというビッグアーティストのスケール感が伝わる、あるいはB’zと共有できる時間がたくさんあって楽しめるという書き込みが多かった。狙い通りというか、安心しましたね。

9月17日 朝刊 <19・22面>
<20・21面>

新聞広告を販促ツールにも

──B’zに限らず、最近人気アーティストが新聞広告を出稿するという例がよく見受けられますが……。

 吉岡 アーティストとしての格を示す媒体として新聞は有効なんだと思います。新聞であえてこういう“遊び”をやることによって、読者が新聞広告に抱いているイメージをいい意味で裏切るというのは読者に大きなインパクトを与えることができると思うんですね。これが駅張りポスターだったら、全然違ったと思います。駅張りでQRコードというのはよく見かけますし、新聞60段ほどのインパクトはなかったと思いますね。

──新聞広告を60段使うという発想は、どこから?

 小栗 確かに新聞への掲載だけだったらもったいない使い方かもしれませんが、これをプロモーションのツールとしても使おうと考えたからです。この4ページを増し刷りして約8万部を全国のCDショップに、約14万部を9月20、21日に横浜の日産スタジアムで行われたB’zのライブで来場者に配布したんです。
 吉岡 交通広告のようなポスターと違って、手に取れるというのが新聞広告の特性です。その特性をプロモーションツールとして生かしたということです。新聞が広告であり、同時にツールになっているんですね。

口コミを増幅させる仕掛け

──今回の新聞広告は口コミでかなり広がったようですね。

 吉岡 ある程度の予想はしていましたが、ここまで大きくなるとは思いませんでした。
 まず、この広告が出稿される前に「B’zノタカラヲサガセ.」という言葉だけが、ファンサイトに上がって話題になりました。CDショップ等で入手できる音楽系のフリーペーパーに、今回のキャンペーンのキーワードである、その言葉を載せたからです。
 新聞広告が掲載されるやいなや、すぐに携帯のカメラで撮った広告紙面やQRコードの解答がファンのブログにアップされていました。制作した僕たちも、この反響の大きさと早さは予想外でしたね。
 今回はB’zという人気のあるアーティストのキャンペーンだったので、これだけ口コミが広がったのだと思いますが、もちろんクリエイティブ面でも口コミが広がりやすくなるように仕掛けています。
 普通、宝箱のイメージって金色ですよね? でも今回はあえて青色。もちろんアルバムのカラーが青ということもあるのですが、それ以上に「青い宝箱」って意外性があり、口の端に乗りやすいからです。コピーも意図的に、暗号めいたカタカナ表記にしています。これも、人が「伝えたくなる」ように、「伝えやすい」ように、と計算した結果。クリエイティブで、バズの発生を後押ししたんです。

広告とプロモーションの連動

──プロモーションツールとして、試聴カードも使ったということですが。

 小栗 『ULTRA Treasure』はファンが選んだ曲を収録したベストアルバムで、言わばコアファン向けのものです。しかし、コアファンだけではなく、ライトユーザーも動かそうと考え、新聞広告のほかに制作したのが試聴カードです。
 吉岡 トレーディングカードのようなもので、告知は一切せずに、それを全国のCDショップでゲリラ的にサンプリングしたんです。告知してしまうと、ファンが集まりすぎて、大変なことになってしまうので(笑)。
 松井 B’zファンは熱狂的な人が多いんです。僕も、B’zファンなので、そのへんの心理はよくわかります(笑)。
 実はこのキャンペーンも、最初、あの場所に行くとあの曲が聴けるとか、あの場所に行くとこれがもらえるなど、街中のイベントを考えていました。しかし、人が集まり過ぎるということと、B’zファンは全国にいるので、東京だけで行うイベントでは不公平になると思ったんですね。そういう意味でも、全国にリーチできて形として残る新聞というメディアは有効だったと思います。
 小栗 話題を起こしてパブリシティーとして取り上げられたり、ウェブなどにアップされたりするのが今は一つの流れになっていると思うんです。
 ゲリライベント的なものがはやっていますが、ワイドショーなどで取り上げられない限り、全国に波及するのは難しい。単純に「渋谷でイベントをやりました」では、今は話題にならないんです。そこに仕掛けや意外性など様々な要素が絡んでこないと、他のものと差別化されたキャンペーンを作り上げていくのは非常に難しいと思います。

視聴カード配布の様子
──広告とプロモーションの連動は、これからの大きな流れになるのでしょうか。

 吉岡 クリエイティブもプロモーションもお互い専門領域を持ちながら、両方を考えられないといけない時代になっていると思いますね。「この広告クリエイティブなら、こういうプロモーション」、逆に「こういうプロモーションならこういう広告クリエイティブ」というように、お互いがお互いのことをある程度理解していないと効果的なキャンペーンを企画するのは難しいと感じます。
 小栗 もちろん会社や商品によっては、メッセージをきちんと伝えるために広告として完結させることも重要です。しかし、今回のキャンペーンでは、広告が口コミとしてどういうふうに広がって爆発するかという想像力が必要とされたと思いますね。

新聞広告の「格」と情報の質

──新聞広告をその口コミのきっかけとして使ってみた感想は、いかがでしたか。

 松井 これまで基本的にマス広告以外の分野がプロモーションの領域という考え方があったと思いますが、その線引きは今はほとんどないと思いますね。携帯電話などインタラクティブ性のあるツールと新聞広告のような手元に残るアナログメディアをうまく掛け算すると、より面白いことができそうだと今回の経験で実感しました。
 吉岡 新聞広告はいろいろな展開が考えられると思いますが、まず前提とすべきは新聞広告が持つ「格」だと思うんですね。新聞広告のステータスは、今後もなくならない。僕たちは、その「格」を使って、きっちりメッセージを伝えていく。
 そういう正攻法を踏まえた上で、今回のような、少し変則的な使い方もできなくてはいけない。今後、クリエイターには、どちらか一方だけではなく、その両方をできることが求められると思います。
 小栗 ここ数年、新聞を含めたメディアの変動を強烈に感じています。そこで重要になるのは、「情報の質」だと思っています。今はウェブが注目されていますが、どんなメディアであっても、この質を理解した上でないと、今後の新しい広告は考えられないと思います。新聞広告はこれまでも「情報の質」を強く求められてきたので、僕たち制作者も覚悟が違うメディアなんですよね。

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