特集

2008.10/vol.11-No.7


新聞広告の力

広告の役割を改めて問う

 榊原 最近考えているのは、メディア環境が変化し、情報接触状況が変わってきた中での広告の役割です。そもそもクライアントの商品やサービスが生活者にどう役に立つかをきちんと価値付けしたり、翻訳して伝えるのが広告の仕事だったと思うのですが、今はそういう翻訳をしてもらわなくても、自分たちで生の情報を探し出して、自分たちなりに解釈することができる。今まで広告が果たしてきた商品やサービスを価値付けるという役割が揺らいできた気がするんです。
 例えば、これまで広告会社は生活者のインサイトを一生懸命探ってきました。生活者がメディアにどうやって接触しているかも研究してきました。ところが、自分たち広告会社の一番の商品である「広告」が、生活者にとってどういう価値があるのか、どういうサービスなのかということをあまり考えたことがなかったと思うんです。
 前田 それは、おもしろい視点ですね。
 榊原 広告の役割が見えにくくなった背景には、このところ景気がずっと良くないこともあると思います。クライアントも、自社サイトにどれだけ来てもらったとか、商品がどれだけ売れたかという実利的な効果にだけ関心を寄せているところがあった。また、インターネットや携帯電話などの新しいメディアを広告にどう取り込むか、新しい手法の開発に目を奪われていたところがあったと思うんです。
 その結果と言っては言い過ぎかもしれませんが、さまざまな調査データを見ても、「広告はあなたの生活に必要か」という数値が、ここ数年毎年低下しているんです。広告がみんなにとっていらないものになってしまったとしたら、広告会社が何を考えてもムダになってしまう。今の広告は、世の中の評判を作るとか、新しい価値を提供するという広告本来の役割とは離れてしまっている気がするんですね。
 この問題は、新しいメディアの普及によって、マスメディアを中心とした取引でお金を生む広告業界の仕組みが苦しくなってきたことと混同されがちですが、それとは別の問題として出てきていると思うんです。
 つまり、昔のように今までなかったり、足りないものがあって、それが発売されたことを広告で知らせてくれたらうれしいと思われる時代ではなくなった今、どういうメッセージを広告に乗せればいいかということを、もう一度考えなければならないのだと思いますね。

クライアントの熱意を伝える

 前田 広告会社が「広告とは何か」をきちんと考えてきたのだろうかということで言えば、クライアントも、自分たちの会社にとっての広告の役割は何かということに対して、これまで無自覚なところが多かったと思いますね。それが、ここ数年で変わってきたと思っています。
 例えば、ソフトバンクの孫正義社長は、広告をわかっていると思うんです。まず、自らの発言こそが最大の広告だというのを自覚してきた人だと思う。おそらく孫さんがやってきたことは、自分がぶちあげたことを本当に実現することで、世の中からの期待値を上げていくことの連続だったんだと思います。だからこそ、今やっているCMは、伝えたいことを割り切れているんじゃないか。そういうふうに、広告の役割に徹底して自覚的であることが今は大事だと思うんです。

――もう少し具体的に説明してもらえますか。

 前田 最近、あまりモノが欲しくない人や、持たないのが格好いいと思っている人たちが増えているように感じます。それでもモノを買ってもらうように働きかける鍵は、小手先のクリエイティブではなくて、やはり広告に自覚的なクライアントが握っているということです。
 今の若い人って、自分でやりたいことを見つけることが本当に難しいんじゃないか。だから、例えばスポーツを必死にやっているとか、何かにものすごく燃えている人が結果的にリスペクトされるんですよ。
 映画『崖の上のポニョ』とコラボした三ツ矢サイダーの「半径3m以内に 大事なものは ぜんぶある。」というコピーは素敵だけれど、逆にテリー伊藤さんがテレビ番組で言っていた「ブログには大抵半径5m以内のことしか書かれていない」っていう言葉も、何か今を象徴していると思うんです。情報があふれているように見えながら、実はみんな自分の近くの平坦な部分しか見ていないという。
 だから逆に、やりたいからやっている、あるいは、これは絶対に君たちのためになるんだと熱意を持って言う人をみんな「おっ!」って思って注目するんです。僕ら広告を作る側ができることは、そういう熱意を持っているクライアントといっしょになって、「おっ!」っていう気づきや発見を、欲しいモノがないという今の平坦な状況でどう引き起こすかということだと思うんです。
 榊原 確かに、自由な不自由ってありますね。何をやってもいいよと言われることほど、実は困ることはない。昔は不便なことや不自由なことがいっぱいあったので、それをどう解決するかが課題だったけど、今は何をやってもいいよという状況の中で何かを見つけなければならなくなっている。クライアントも生活者も同じ状況にあるのかもしれませんね。
 前田 だから、まずクライアントが今の状況を乗り越える熱量を持っていないことには始まらないんです。それをどうやって僕らが捕まえて、その人たちの熱量をより効果的に届けるかというのが、これからの広告の役割だと思っています。
 なぜかと言うと、熱意というのは、そのままでは伝わらないんですね。今までやったことがないことをやろうとするクライアントでも、あの頂を目指そうと言ったときの「頂」とは何か。それを示す言葉がまずないと、先に進めないんです。最近、仕事をしていて思うのは、クライアントが、そういう言葉をものすごく欲しがっていることです。「頂」を目指すための言葉が見つからなくて、悩んでいる経営者は多いですね。
 榊原 コピーライターの仕事を横で見ていると、悩みごと相談に近いと思います。クライアントの悩みを聞いて、あなたの悩みはこれですねと、言葉にして示す。「そうそうこれこれ」と、みんなが納得するような言葉を見つけられるのがプロのコピーライターですよね。
 前田 その言葉というのも、今まであった企業スローガンというような外向きの言葉ではなく、インナーもアウターも共有できるような言葉が求められているんです。
 最近、面白いと思ったのは、ある政令指定都市の市役所から所内文章を書いてくれという依頼があったことです。
 榊原 それを前田さんに依頼するということは、みんなの意識を一つにまとめていくコピーの機能を理解しているということですね。そういう発想をする市役所はすごいと思いますね。

新聞は何百万人が見るアリーナ

 榊原 最初の話題に戻るのですが、最近、欲しい情報は自分から探す人たちが増えたのは確かだと思うんです。ところが、新聞やテレビなどのマス広告は、紙面をめくるとかテレビを見ているときに意図せず目にすることで成り立っている。その出会いの驚きとか、未知の物に偶然触れるチャンスが、最近は減っている気がするんですね。
 前田 その一方で、ブログで取り上げられた商品や広告から話題が広がることも増えて、広告と広告でないものの境目がなくなっていますよね。僕は、人から主体的に待たれるものが情報だと思うんです。そうじゃないものは情報じゃないんですよ。ただ、基本的には、自分から検索して探しに行ったりする情報と違って、広告は人から待たれていないものですよね。だから、そこを逆に強みにしないといけないと思うんです。待ってもいないことに出会うのは、もしかしたらいいことなんじゃないかと考えるべきです。
 いい例が、街の看板です。目立つ看板は思わず見ちゃいますよね。別に看板を見るために街を歩いているわけじゃないのに。しかも「ほら、あれ見て」とか、それこそリアルな共有体験になる。広告は、そういう共有体験装置だと考えると、今までとは違う役割が出てくると思うんです。
 宝島社の広告もそうですが、僕は新聞広告は何百万人がその日だけいっしょに見るアリーナ、劇場だと考えています。 そう考えないともったいないんですよ。何百万人が同時に見られる劇場だけに、使用料も高いですから(笑)。
 榊原 新聞の価値を一つだけに絞って言うことはできませんが、その日の記事と広告を同時に見られるという良さもありますね。これは広告の仕事をやっている自分の反省でもあるのですが、テレビCMそのものはとことんこだわって作るのに、番組として放映された状態で、そのCMを見ることがあまりない。新聞だったら実際に掲載されたものを後でも見られるのですが、広告はそのメディアが持っているコンテンツや文脈の中で見ることが必要だと思いますね。
 それから、これまで広告は生活者に対して「あなたの足りない物はこれだよね」「これ欲しいでしょう」と、その人のニーズやウォンツに訴えてきたのですが、今は環境問題に代表されるように、その商品を持っていることが社会に対してどう影響するか、社会にとってこういういいことがあると訴えることが大事になってきています。そういうことを伝えるときにも、新聞は非常に向いているメディアだと思いますね。
 前田 ただ、その時に大事なのは、その人、その企業が本気でそれを思っているかどうかだと思うんですよ。取り繕ったらアウトで、この商品は世の中のためになるんだと本気で思っていて、しかも、広告まで出して言いたくてしょうがないことがある。そこが今の時代に大事なことなんだと思います。そういう熱量のあるクライアントと出会って、こういうふうに言うと、もっと伝わるでしょうというところまで持っていくのが理想です。
 そのためのメディアとして何百万人が同時に見られる新聞広告の力は大きいのに、なかなか理解してもらえない。そのためには、僕らが具体例で見せていくことが一番いいんでしょうね。広告の役割をそういうふうに考えていかないと、世の中が自分の半径5m以内の情報だらけになって、日本人は退屈で死んじゃうと思うんですよ。

榊原 廣氏 前田 知巳氏

Kou Sakakibara

1961年生まれ。筑波大学第2学群生物学類卒業。84年博報堂入社。03年博報堂DYメディアパートナーズ設立に伴って移籍。04年4月より同メディア環境研究所主席研究員。08年同研究所所長に。プランニング現場での豊富な経験に基づく企画力開発指導に定評がある“企画のプロ”。著書に「企画力の教科書」(日本実業出版社)、「パワポ使いへの警告」(講談社)がある。

Tomomi Maeda

1965年熊本県生まれ。88年東京外国語大学外国語学部卒業、同年博報堂入社。99年博報堂を退社し、01年フューチャーテクスト設立。主な仕事に「アホやった。竹村健一」(全日空) 、「hungry?」(日清カップヌードル)、「おじいちゃんにも、セックスを。」 「国会議事堂は、解体。」(宝島社)、「憲法を変えて戦争へ行こう という世の中にしないための18人の発言」(岩波書店書籍タイトル)など。


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