from Europe

2008.10/vol.11-No.7


ドイツ流 新聞広告レトリック

 8月末から9月にかけて、ドイツを2度訪れた。デザインがシンプルで隅々まで磨きこまれた空港と、ICE(高速列車)の窓から見える緑と、たまに現れる黄色の工事クレーンに、とても懐かしい感じを抱いた。
 8月のフランスの新聞はバカンスの時期ということもあって広告が少なく、寂しい紙面が目立ったが、欧州のビジネスが再開される頃に訪れたドイツでは、興味深い新聞広告にいくつか出会うことができた。
 ベルリンで購入した全国高級紙「DIE WELT」の9月5日付で、いかにも“ドイツ的な”ビジュアルの広告が掲載されていたので紹介したい。空のように見えるのは天幕。巨大テントの中にぎっしり並んだテーブルで人々が飲むのは、容量1リットルの巨大ジョッキ入り特別ビール。ミュンヘンで1810年以来、9月半ばから10月上旬に開催される世界最大のビール祭り「オクトーバー・フェスト」の風景だ。もともとはビール醸造シーズンの幕開けを祝うお祭りだったが、今や毎年600万人以上が訪れ、約600万リットルものビールが消費される人気イベントだ。普通よりもアルコール度数が高く、飲みすぎて気絶する若者も続出するため、脇に「医療テント」が準備されるとか。
 広告主は、同紙を傘下に持つ「アクセル・スプリンガー」(以下、アクセル社)というメディアグループの広告部門「メディア・インパクト」、いわゆる自社広告だ。アクセル社は、「DIE WELT」のほか、ドイツ最大の発行部数を誇るタブロイド紙「BILT」、地方紙「ベルリナー・モルゲンポスト」などを持ち、雑誌も、スポーツ、車、ビジネス、女性誌、音楽誌など幅広い。新聞と雑誌を合わせると、広告売り上げでの同社のシェアは16%、発行部数では21%と、いずれもドイツでNo.1の座をキープしている。次の拡大戦略として、各媒体のオンライン版を強化するとともに、ハンガリー、スペイン、ロシアなど周辺諸国にローカライズした雑誌を発行し、国際化を企てている。
 メディア・インパクト社の狙いは、こうした媒体力に加え、広告部門が統合されていることによる利便性を、クロスメディアで宣伝を検討する広告主に向けてアピールすることにある。ドイツ人の誰もが知る情景を使って、「オクトーバー・フェストには600万人が集まりますが、わが社に1本の問い合わせをいただくことで、6000万人以上の人に伝達する方法を提案できます」と巧みな比喩に落とし込んだ。掲載されたウェブサイトをのぞくと、媒体資料以外にも、求人、IR情報、2005年に“世界の新聞で初めて発表した”という「サステナビリティー・リポート」があり、すべて英文でも対応していた。
 同じヨーロッパでも、お国ぶりはかなり違う。おいしいビールとコンセプチュアルな気質がドイツの好きな部分だが、パリにはパリの良さがある。街中で、女性が大きな荷物を持っているときは、平均2人以上の男性が手を差し伸べてくれるので、とても快適だ。ただ、そんな話を日本人男性にしたところ、「パリに長く住むとイヤなタイプの女の人になりがちだよね」と、やんわり釘を刺されてしまった。

9月5日 ウェルト紙
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