特集

2008.9/vol.11-No.6


環境技術をどう伝えるか

“白熱電球の製造中止を宣言する「東芝」

 東芝は120年前に日本で最初に白熱電球を世に送り出した企業だが、今年5月、CO2削減を目的に2010年に一般白熱電球の製造の中止を宣言する新聞広告を掲載した。日本の照明の歴史を作ってきた東芝の決断の背景と、“電球”作りへの取り組みを東芝グループの照明器具・管球部門を担う東芝ライテックに聞いた。

――白熱電球の需要は減ってきているのでしょうか。

 年々減少傾向にはありました。特に電球が減ってきた一つの要因は、98年に当社が発売した白熱電球とほぼ同サイズの電球形蛍光ランプ「ネオボールZ」です。
 従来の白熱電球の器具に取り付けられる割合を「嵌合率」と言いますが、電球形蛍光ランプの小型化でその割合が90%ぐらいになったのです。今はまだ市場全体で1億2000万個ぐらいの白熱電球の需要がありますが、1、2年で1億個を切ると思います。

―― 一般白熱電球の製造を中止するとのことですが。

 クリプトン球など口金の小さい白熱電球は置き換えできないので、当面製造も販売もする予定です。それから通常の電球サイズも、調光用など特殊な用途は残します。ただ、大きくは電球形蛍光ランプと口金付きのLED電球にシフトしていこうと考えています。

“電球のくびれ”へのこだわり

――電球形蛍光ランプの特徴は?

 80年に発売された電球形蛍光ランプ「ネオボール」は、98年に小型化され、05年にさらに電球のくびれの部分も同じ形にし、根元から光るようになりました。調光機能のある器具をのぞき、これで嵌合率がほぼ100%になって、白熱電球と同じように使えるようになりました。今年7月発売の最新型では省エネ化と長寿命化がさらに図られ、例えば電球60W相当の明るさなら消費電力10W、寿命は電球の12倍の1万2000時間になっています。

――電球形蛍光ランプは、以前は重かったですね。

最新型の電球形蛍光ランプでは蛍光管がらせん状に  初代「ネオボール」は、重量420グラム、直径も110ミリと大きかったのですが、最新型は重量64グラム、直径60ミリになっています。さらに最新型はこだわって、これまで蛍光管が縦に折り畳まれるように入っていたのですが、電球と同じような光り方をさせたいということで、蛍光管をらせん状にしました。しかも、電球の内径に沿うように幅の狭いところは狭く、広いところは広く巻いています。

――白熱電球と同じ形にそこまでこだわるのは、なぜですか。

 98年に小型化した時は、電球と形が同じようで違うということで、お客様が店頭で手には取るのですが、自分の家で使えるか不安になって結局買わないで帰る方が多いという情報が現場の営業から上がってきたのです。その当時は、まだ実勢価格で1500円前後しましたから、その不安も当然なんです。
 僕は技術に要望を出す立場だったので、「電球と同じ形にしてくれ」という要望を出した。電球形蛍光ランプといっても蛍光灯ですから、インバーターなどの電子回路が必要です。しかも、電子回路は熱に弱く、まだ大きかった。
 最初は「バカ言うな。どこに入れるんだ」(笑)という反応だったのですが、そこから口金の空洞のところへ入れようという発想が生まれてきたのです。口金は発光管から遠くにあるので、その内部温度は予想以上に低いことがわかり、その小さな空間に回路を押し込めるために、徹底した部品の小型化を進めました。それで05年に電球と同じくびれが可能になったのです。

―― 一方のLED電球は、発光ダイオードを使った電球ですね。

LED電球「ビームランプ100W」と「レフランプミッゼット形60W」  LED照明には、器具組み込みのものと、口金の付いたLED電球の2種類がありますが、省電力、長寿命、原材料の削減など環境性能が非常に優れている照明です。LED電球で言うと、ミゼットレフ40W、60W相当のLED電球の消費電力が共に5.3W、ビームランプ100W相当が消費電力が9Wです。寿命は2万時間です。
 40Wと60Wの消費電力が同じなのはLED素子の進歩によるものです。40Wは昨年12月、60Wは今年7月の発売ですが、極めて短期間に技術が進歩しているんですね。

――LED電球の普及のカギは価格ですか。

 単純に価格だけの比較なら高いですが、特性に合わせた使い方でしょうね。LEDは指向性が強いという特性があります。前面にしか光が行かないんですね。また、寿命が長く、交換の手間がかからない。しかも省エネ効果も高いので、当面は商業施設や工場を中心に提案していきたいと考えています。最近の企業はCO2の削減に非常に関心が高いですから。一般家庭用は、しばらくは電球形蛍光ランプが中心になると思います。

電球形蛍光ランプ「ネオボール」電球60ワットタイプの変遷

白熱電球製造中止宣言のねらい

――新聞広告で白熱電球の製造中止を宣言されましたが、その意図というのは?

 CO2削減のために製造を中止する。その決意を広く社会に知らせるには新聞だと考えたからです。白熱電球は我々の会社の発祥事業ですし、これをベースに蛍光ランプや電球形蛍光ランプも開発をしてきました。そういう意味では、会社の基盤を作ってきた商品です。「電球」という身近な商品を知らない人はいませんし、当然、製造中止を宣言すべきか社内でも議論がありました。しかし、それが社会的要請なら、120年前に日本で最初に「電球」を作った当社が最初に言い出すべきだということになったのです。
 一般家庭の電力消費量は、照明がエアコンに次いで2番目です。その省エネが照明メーカーとしての一番の課題でした。80年に電球形蛍光ランプを世界で初めて実用化するなど照明の省エネには他社に先駆けて努力してきたのですが、CO2の発生が多い白熱電球の製造中止をお客様に発表することで、電球形蛍光ランプやLED電球といった省エネ効率の高い照明への転換がスピーディーにいくのではないかという狙いもありました。

――読者の反響はどうだったのでしょうか。

 評価してくださる方、厳しいご意見の方、さまざまでしたね。何をやるにしても、すべての人が納得することはあり得ないと思いますが、厳しいご意見をいただいた方には我々の決断を理解していただけるよう改めて回答させていただきました。また、電球形蛍光ランプに対する不満も中にはあり、それはこれからの商品開発に生かしたいと考えています。

CO2削減に貢献する電球へ

――最近の消費者は、環境に配慮して電球を選ぶようになってきたのでしょうか。

 今年は、これまでの常識からすれば爆発的と言っていいくらい電球形蛍光ランプが売れています。我々の「白熱電球中止宣言」もその一因になったとは思いますが、やはり洞爺湖サミットがあり、人々の意識が環境に向けられたことが大きかったのではないでしょうか。
 大型量販店でも今まで電球形蛍光ランプは特売品の形で折り込み広告に掲載されることが多かったのですが、今年になってから「CO2の削減に貢献する電球です」と紹介されるようになりました。売り場も今までは白熱電球のコーナーの方が広かったのですが、逆転しましたね。中には、照明だけのフロアを作っている量販店もあり、どこへ行っても電球形蛍光ランプが目立つようになりました。お客様も量販店の意識も変わってきましたね。

――電球は今後も進化し続けますか。

 そう思います。LED電球だけでなく、電球形蛍光ランプの改良も積極的に続けていく考えです。我々の先輩たちが世に送り出した電球形蛍光ランプも、お客様の声を聞いて絶えず改良してきたから、ここまでメジャーな商品になったのだと思います。それから、“電球のくびれ”へのこだわりですね。白熱電球と同じ形ですから、家庭にある照明器具にこすれたり、はまらないこともなければ、シャンデリアやペンダントに入れたときに影にならない。省エネ効率の高い“電球”も、そういうお客様の声に応えてこそ受け入れられるのだと思います。

5月14日 朝刊

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