特集

2008.7/vol.11-No.4


環境技術をどう伝えるか

“2050年標準”を目指した「CO2オフ住宅」

 積水ハウスが今年4月「CO2オフ住宅」を発売した。高断熱・気密仕様やエネルギー効率の高い設備による「省エネ」と燃料電池や太陽光発電システムによる「創エネ」で、計算上CO2の排出量をゼロにした住宅だ。しかし、CO2を減らすこと自体は顧客に直接的なメリットはない。「エコ住宅」を普及させる視点を積水ハウス温暖化防止研究所長の石田建一氏に聞いた。

――住宅のCO2削減に取り組んでいる理由は何でしょうか。

 今は社会全体でCO2削減が必要な時代です。その中には当然、住宅も含まれます。
 50年後、100年後に地球の平均気温が数度高くなると言われていますが、今CO2を出しても実生活にはあまり影響がありません。地球温暖化問題の解決がむずかしいのは、そういう実感のなさが大きな要因になっています。しかし、未来に対して我々は責任がある。そういうことを意識して企業活動を行い、お客様にもそれを説明して、協力をお願いするというのが、我々の基本的な姿勢です。
 別な視点で言うと、福田ビジョンでは2050年に現在から60%〜80%CO2を削減すると国際的に表明しました。日本は工業国ですから、どうしても一定量のCO2排出は避けられません。その目標を達成するためには、2050年には生産のためのCO2排出量以外はゼロになっていることが望ましいのです。自動車も住宅もその例外ではありません。
 また、エネルギーの安全保障から言うと、日本はエネルギーの9割以上を輸入に頼っています。これをできる限り自然エネルギーに置き換えていく方が、国だけでなく我々の生活も安定しますし、CO2削減にもなります。原子力でエネルギーすべてをまかなうという将来ビジョンもありますが、安全性が100%保証されているわけではありません。やはり、エネルギーの多様化ということが今後は重要になってきます。
 例えば、太陽光や風力といった自然エネルギーは供給が不安定なものが多いので、大きなバッテリーを住宅に付けることも考えられます。あるいは、自然エネルギーで作った水素を基本にした“水素社会”という方向性もあります。しかし、ある日突然、水素社会が実現するというわけではありません。今のうちからそれに必要な燃料電池などの技術を磨いて普及させていく努力も必要です。
 少し大きな話になってしまいましたが、積水ハウスが今年4月に発売した「CO2オフ住宅」は、そういう「2050年のスタンダード住宅の解答」を目指したもので、40年先の住宅を考えたものです。

CO2をほぼゼロにする住宅

「CO2オフ住宅」
――「CO2オフ住宅」とは、どういうものなのでしょうか。

 80年ごろに建てられた一般的な住宅の場合、CO2を年間5970キログラム排出しています。しかも、住宅からのCO2排出量は世帯数の増加もあり、90年比で34%増えています。
 こうした住宅のCO2の排出量を「省エネ」と「創エネ」で大幅に削減し、計算上ほぼゼロにしたものが「CO2オフ住宅」です。従来よりも2割程度性能を向上させた高断熱・気密仕様、LED(発光ダイオード)照明、高効率エアコンなどのエネルギー効率の高い設備機器で省エネを図り、そこで排出されるCO2については、ガスを使った燃料電池や太陽光発電システムによる「創エネ」で相殺しようというものです。
 この「CO2オフ住宅」に先駆け、積水ハウスでは05年6月から「アクションプラン20」を推進してきました。積水ハウスの建てる住宅は、全国どこでも居住時のCO2排出量を2010年の推定排出量に対して20%(90年比では6%)削減するというもので、京都議定書を順守した住宅づくりに取り組んできました。
 今回は、それをもう一歩進めたCO2排出量がほぼゼロの住宅です。これによって、京都議定書を順守した住宅から「CO2オフ住宅」まで、さまざまなレベルのCO2削減効果のある住宅を選べます。それをお客様に選択していただいて、地球温暖化防止に協力する家を建てていきたいというのが積水ハウスの考えです。

――「CO2オフ住宅」のCO2削減効果ですが、どのくらいあるのでしょうか。

 例えば、ハイブリッド車に年間1万キロ乗った時に比べると、「CO2オフ住宅」に住んだ場合にはCO2削減効果は約8倍になります。価格は通常の住宅の1割増になりますが、ハイブリッド車も通常の車より割高です。そのプラスアルファの金額1万円当たりのCO2削減効果も「CO2オフ住宅」の方が高いのです。
 しかし、もっと根本的なことを言うと、自家用車の場合は乗らなければいい、バスや自転車に乗ればいいということがあるのですが、住宅には代替となる手段がありません。車のCO2削減も重要なのですが、もっと住宅のCO2削減に目を向けるべきで、その方が社会全体のCO2削減には効果があります。

CO2削減の重要性を訴える

――そういう「CO2オフ住宅」のニーズは、どのくらいあるのでしょうか。

 CO2削減は、消費者のニーズ、企業のニーズではなく、社会のニーズです。企業の社会的責任としてやらなければいけないことだと考えています。しかし、お客様には何がメリットなのかを明快にしなければ住宅は売れません。住宅の広告は、「あなたがこの家に住んだ時にどんな生活ができるか」をどう提案していくか、見せていくかが大事だと思っています。ところが、CO2自体は目に見えないし、削減してもお客様に直接的な利益があるわけではありません。環境にいいことをどうお客様に伝えていくか、そこがむずかしいところだと思います。

――しかし実際、光熱費の削減効果も「CO2オフ住宅」にはあるわけですね。

 光熱費はもちろん減ります。「CO2オフ住宅」では、年間十数万円かかっていた光熱費が数万円になります。
 そういうコスト面でのメリットを打ち出すことも、もちろん住宅を売るためには重要な要素ですが、「もっと大事なのは、地球温暖化防止のためにCO2削減の必要性を訴えることだ」というのが積水ハウスの姿勢です。住宅のトップメーカーの責任として、快適な暮らしができる「環境にいい住宅」をストレートに訴えていきたいと考えています。光熱費削減だけではなく、CO2削減が我々のターゲットだということです。社会的ニーズをターゲットにしていると言ってもいいかもしれません。
 それが、「CO2オフ住宅」の発売を告知した新聞広告の基本的な考え方にもなっています。

100年のスパンでエコ住宅を

――「CO2オフ住宅」とは、実際はどういう家ですか。

 いたって普通の家ですね。京都にある総合住宅研究所の敷地にモデルハウスがあるのですが、見に来た子供が「なんだ、普通の家じゃん」と(笑)。
 しかし、実は、我々の目標はそこにあるのです。普通の家でできるエコが重要で、1、2棟のエコ住宅をつくっても意味がない。積水ハウスは年間2万棟近い一戸建て住宅を供給していますが、このすべてが少しでもCO2を削減した住宅になることが、社会全体のCO2を減らすことに役立つと考えているからです。
 「エコ住宅」と言うと、何か特殊な家を想像する人が多いと思います。例えば、緑がたくさんあって、木造で塗り壁の田舎の家を想像する人もいるでしょう。しかし、昔の家が本当に快適であれば、ずっとそのままであったはずです。快適な暮らしをしながら環境にいい住宅の実現は、現代の技術を投入することで初めて可能になるのです。
 あるいは逆に、太陽電池パネルが屋根にきらめいているような住宅を想像する人もいるでしょう。積水ハウスの場合は瓦一体型の太陽電池で、写真で見てもよくわからないし、実際にモデルハウスを見ても気づかない人がほとんどです。
 住宅は自動車などとは異なり、50年、100年という長いスパンのデザインを考える必要があるのです。
 太陽電池を付ける時にも、そのためのデザインをするのは本末転倒で、住宅は敷地があって、お客様の生活スタイルがあって、家のプランニングがある。その選択肢の一つとして太陽電池があると思うのです。

――住宅でCO2を減らすために重要なことは何なのでしょうか。

 一般家庭のCO2排出量は、暖房と冷房で半分以上占めていると思いがちですが、実際は、冷暖房25%、給湯が30%、照明と家電製品などが40%を占めています。断熱、給湯、照明、家電などに対してバランスよく省エネしないと、実はあまり効果がないのです。そういう提案を私たちはしています。
 積水ハウスは、住宅・建設業界で初めてエコ・ファースト企業(注)の認定を受けています。その内容を見ていただくとわかるのですが、「生活時及び生産時のCO2排出量削減」「生態系ネットワークの復活」「資源循環」と全方位の環境対策が入っています。住宅をつくる時だけではなくて、製造工程からリサイクルまであらゆる項目がエコ・ファーストなんです。
 温暖化防止研究所というとCO2削減の研究ばかりしていると思うかもしれませんが、企業の研究者に必要なのは、少しでも環境にいい住宅を普及させることだと思っています。それが先ほど言ったように、社会全体のCO2削減につながるからです。奇をてらったエコ住宅ではなく、快適な暮らしができる環境にいい普通の家をつくること、それがわたしたちの目標です。

3月22日 朝刊

(注)環境省が創設したエコ・ファースト制度の認定企業のこと。エコ・ファースト制度は、業界のトップランナー企業の環境保全に関する行動を更に促進していくため、企業が環境大臣に対し、京都議定書の目標達成に向けた地球温暖化防止対策など、自らの環境保全に関する取り組みを約束する制度。


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