マーケティングの新レシピ

2008.9/vol.11-No.6


日本の文化は誇りですか?

 猛暑の夏もようやく去ろうとしている。今年は原油高の影響もあり、休みの過ごし方も地味だったというが、そうなると手軽で涼しげなイベントは人気になる。
 代表格は花火大会だろう。誰が見ても楽しめるし、全国各地でおこなわれる。世代を超えて人が集まってくる。
 そして、目立つのが若い人の浴衣姿だ。この現象はここ数年のことである。あちこちで記事にもなっているので、見たことのある人もいるだろう。
 浴衣に代表される、若い人たちの「日本回帰」は、いろいろなところで話題になる。日本画の展覧会などにも若い人が増えているし、映画の世界でも邦画が元気だ。
 これは果たして一過性のものなのか、それとも大きな潮流なのだろうか。
 もっともわかりやすいデータとして、映画の興行収入を見てみよう。これは2000年以降の「洋画対邦画」のシェア動向である。【図1】
 ずっと洋画優勢だったのが2005年くらいから揺らぎ、06年には邦画が洋画を逆転した。これは21年ぶりのことだったので、かなりの話題となった。
 その後、07年には洋画が再逆転するのだが、60〜70%だった頃の勢いはない。
 そして、今年の前期は全体に低調だったが、洋画の減少幅が著しく大きかった。一方、邦画では夏に公開された宮崎駿監督の「崖の上のポニョ」などのヒットもあり、勢いがあるようだ。
 大きな流れで見る限り「邦高洋低」の潮流があると考えていいだろう。これは単にヒット作の有無だけの問題なのだろうか?

図1

ハリウッドは憧れか

 私が学生の頃を思い返すと、若い人の行く映画というのは「洋画が基本」だった。
 そもそも若者が映画館に行くというのは、手軽なデートコースの一つということが多い。カップルで見て楽しめて、ハレの気分に浸れるのはハリウッドのスターが出演するラブストーリーやサスペンスなどが定番だった。
 ところが、最近はそういうわけでもない。少なくとも邦画が「イケていない」という感覚はいまの若者には薄いようだ。
 その理由は幾つか挙げられる。
 世界レベルのアニメーションの隆盛。若手監督のユニークな才能。さらには、テレビ局や広告代理店などが一体となった製作体制とキャンペーン。
 こうしたこともたしかに重要だが、根底にある潮流は若者の意識変化だと思う。戦後脈々と流れてきた、ハリウッドへの憧れが薄くなってきていると思うのだ。

若い人ほど日本文化を誇りに

 日本人は自国のどんなことを「誇り」に思っているのか? このことを定点的に調べているデータがある。
 内閣府の「社会意識に関する世論調査」だ。「誇りに思うこと」を幾つかの選択肢から、複数回答してもらう調査であるが、近年伸びが著しいのが「すぐれた文化や芸術」である。
 今年2月の調査では第1位の「長い歴史や伝統(48.1%)」、第2位の「美しい自然(46.6%)」についで僅差の第3位(44.9%)である。
 そして、その年代別の数値が大変に興味深いのである。【図2】
 まず、もっとも率が高いのは20代だ。この高さは他の年代と比べてもアタマ一つ抜けている感じである。一方で、この質問に反応しないのが70歳以上。60代の反応も低い。
 つまり、年をとっている人ほど、日本の文化や芸術をあまり評価していないということがうかがえる。

図1

 これは考えてみると不思議なことではあるが、次のような推論が成り立つ。
 一般的に言って、若者は新たな文化を求め、既成の権威を嫌う。その場合、既成の権威というのは往々にして自国の歴史や伝統に根ざしたものである。
 ところが日本は逆である。ということは、今の若者にとっての既成の権威は戦後流入した西洋文化なのではないか?
 一方で、いまの60代から70代というのは、戦後教育の第一世代である。欧米の民主主義を手本とする新しい価値観の中で、日本の伝統的文化を懐疑的に捉えてきたのだろう。
 そう考えると、このデータにも得心がいく。若者の「日本回帰」というよりも、日本人として、ごくごく普通の感覚になってきているというわけである。
 この背景はいろいろ考えられるが、日本人のアーティストやスポーツ選手が海外で活躍したり、アニメーションなどが評価されたりすることとも関係するだろう。
 一方で環境問題がクローズアップされる中で日本人の知恵が見直されている。江戸時代を循環型社会と捉えたり、農業のあり方を見直す動きもある。
 ただし、ことさらに日本文化の優位を唱えることは、あまりいいこととは思えない。日本はさまざまな文化を輸入しながら、自国の伝統とブレンドして、独自の価値を生み出してきた。
 若い人が視野を狭くすることなく、日本の文化や芸術を誇りにしつつ、開放的なマインドを持つことで、新しい機会が広がってくると思う。

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