from America

2008.9/vol.11-No.6


ゲイ市場は新たなフロンティア

 米国の大都市では、ゲイのカップルはもはや珍しいものではない。マンハッタンでも、チェルシーやソーホーといった地区に行けば、男性・女性同士が手をつないで歩き、熱い抱擁に出くわすこともある。6月最終日曜日は、そんなゲイたちの自己主張の日「ゲイ・プライドデー」。NYでもゲイ・パレードが開催された。私も見物したのだが、五番街を練り歩くそのオープンさに目が眩むと同時に、多くの大企業がスポンサーになっていることに驚かされた。
 山車やオープンカーに大きくロゴを掲出していたのは、グーグル、バドワイザー、デルタ航空、バンクオブアメリカなどの著名企業。NYタイムズまで名を連ねる。各スポンサーは沿道の観客にサンプル品やノベルティーグッズを大量に配布しており、まさにお祭り騒ぎの様相を呈していた。パレードの詳細は、http://www.nycpride.orgで見ることができる。
 日本でも幾つかの都市でゲイ・パレードは行われているが、ここまでオープンで大規模なスポンサー活動はまだ難しいと思う。NYでは39年目という歴史からもわかる通り、市民に受け入れられていること、「ゲイはマーケット」と企業が判断していることなど、日本とは全く異なる環境だと再認識させられる。
 ジョージア大学セリグ経済成長研究センターの資料では、米国内には約1650万人の同性愛者がおり、年間購買力は4500億ドル(48.2兆円)にも及ぶと試算されている。これは、アジア人市場の2290億ドル、ヒスパニック市場の3830億ドルをはるかに凌ぎ、黒人市場の5350億ドルにも迫る勢いである。さらに1人当たりの年間購買力で比較すると、ゲイ市場2万7300ドル(292万円)、アジア人市場2万1000ドル、黒人市場1万7800ドル、ヒスパニック市場1万2400ドルとなり、単純比較はできないにしてもダントツだ。ゲイには、お金に余裕のある人が多いのである。
 しかし、彼らは非常にセンシティブな集団でもある。意図せずとも、広告内容が「ゲイを差別している」と批判されるというリスクがあるのだ。
 広告アナリストとしてNYタイムズやUSAトゥデー、CBSネットワークなどで活躍するボブ・ガーフィールド氏は、7月にアドエイジ誌上で「BBDOやTBWAがゲイを差別したCMを制作した」として、親会社であるオムニコムグループのCEOあてに即時出稿を中止するよう求める公開レターを掲載している。槍玉に挙がったCMのひとつは、競歩選手が(腰を振りつつ)トレーニングしていると、マッチョな男性が「男らしくない!」とマシンガンでチョコレートバーを彼に撃ち込むという、たわいのないものである。しかし、このコラムを掲載したオンライン版では、賛否合わせて90件ものコメントが寄せられ、反響の高さがうかがえる(なお、ガーフィールド氏自身がゲイなのかどうかは不明である)。
 このようにリスクもあるが、うまく味方にすると48兆円規模の巨大な市場を手にすることができる。ラルフ・ローレン、マーク・ジェイコブスなどの各直営ストアでも、ゲイ・パレードを支援する「レインボーカラー」の店頭ディスプレーが多く見られた。日本ではまず考えられない、米国マーケティングの底知れない可能性を垣間見た週末であった。

ラルフ・ローレンの店頭ディスプレー
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