特集

2008.8/vol.11-No.5


特集1 対談 広告とアートディレクションの今

企業の差別化に個性を活用

 副田 今年、ADCグランプリを受賞した井上嗣也さんもアート系のグラフィックデザイナーですね。コム デ ギャルソンでもパルコでも、井上嗣也色が出ていて、だから、僕らは尊敬している。
中島2  中島 コム デ ギャルソン、パルコということで言えば、さっきも言ったように、非常に特徴を持っている企業や商品の広告のアートディレクションは基本的に匿名だけど、企業が差別性を持っていない場合は、アートディレクターの個性がその企業の個性になる場合がありますね。
 例えば、パルコの店作りや品ぞろえには特徴があるけど、パルコ自体は一体どういうものなのかは実はあいまいです。ところが、例えば井上嗣也さんが広告を作ると、井上さんの個性がパルコの個性になる。ラフォーレの広告を野田凪さんが作れば、それがラフォーレの個性になる。ラフォーレにとっては、パルコや109と違う必要があるわけです。クライアントもアートディレクターの個性が差別化になることがわかっているから、それをまた要求する。だから、同じ広告でも、企業の場合はその人の個性が出てこないと生きないものがあるということですね。
 この場合は、それが匿名なのかどうかということだけど、話題になる広告がいくつか続くと、メディアはそれを誰が作っているか知りたくなる。そうするとその人の名前が世の中に知られる。でも、それが話題になるのは業界の中だけで、一般大衆に対してはそれでも匿名なんですね。
 副田 僕らは広告制作者として、“有名性”を利用する時もありますね。コピーライターでもアートディレクターでも、その人が世の中で有名であれば、「コピー・バイ・○○」「デザイン・バイ・○○」という広告も成立する。でも、それは広告の匿名性とは別なんですね。
 社会なんて調子のいいものだから、「時代の寵児」とか言っておだてるだけおだてて、時が過ぎれば忘れてしまう。僕らの仕事はもっと地に足の着いたもの、基本的に匿名のものだということですね。

紙面

08年度ADCグランプリを獲得した井上嗣也氏のリトルモアのブック&エディトリアル「INOUE TSUGUYA GRAPHIC WORKS」

ADC賞と新聞広告

――今年のADC賞は新聞広告が3作品入賞していますね。

中島3  副田 久々の快挙ですよ。ADC賞は、新聞広告やテレビCMなど、まずそれぞれのジャンルで賞候補を選んで、最後は全部まとめて票を入れて、上から10作品を選んでいく。そうすると、ポスターなど見た目で面白いものが上位に来てしまいがちなんです。新聞はキャンペーンの軸として、その要素をすべて盛り込むから、どうしてもコピーが多くなる。だから、きっちりした新聞広告ほど上位10作品に入らないことが多いんです。そういう意味でも、今年は快挙なんですね。
 中島 旭化成の企業広告と東海旅客鉄道の「スムース」は、写真もきちんとしている。新聞広告は企画で勝負するものが多いのですが、この二つは、写真のクオリティーにも非常に気を使っています。特に、旭化成の広告はグラフィカルなものが根本になっていて、テレビCMより新聞広告の方がビジュアルが生きている感じがしましたね。
 副田 旭化成の30段プラス15段は、ポスターのようにきれいだし、45段の新聞広告を多用したキャンペーンは、今までなかったと思うんです。
 ポスターを2連張りするより、30段で目をとめさせて、次のページに答えがあるという仕組みの方が効果がある。新聞広告の使い方としても新しいし、納得がいく。
 中島 「問題」の30段と「答え」 の15段は、同時に見せるビジュアルではないんですね。ページを分けて掲載したところに良さがある。これを同じ30段の中でやると違和感が出る。
 副田 よくクライアントがOKしたと思うんですね。こういう提案をすると、「新聞を後ろから見る人もいるでしょう」「最初に答えのほうから見た人には、この広告は成立しないんじゃないですか」という人が必ず出てくる。この広告は、そういうことを乗り越えて掲載に至っているし、しかもそれが成功している。そういう意味でも新聞広告の新しい使い方と言っていいと思うんです。
 中島 やはり、クライアントの許容力でしょうね。例えば、この広告を後ろから見ても、次のページをめくると「問題」とあるわけだから、人はそこで納得するわけです。そういう人がいてもいいという許容力がこの広告を成立させているわけで、これをよしとしたクライアントを評価すべきだと思いますね。
 副田 東海旅客鉄道の「スムース」の広告は新幹線N700系の大増発を告知する広告ですが、写真のすばらしさと、「スムース」というタイポグラフィがいい。
 写真は上田義彦さんですが、この撮影は車体への背景の映り込みを防ぐために新幹線のバックに暗幕を張って撮ったらしいですね。そういう写真のクオリティーが評価されたADC賞らしい作品ですね。

旭化成「企業広告」
紙面2
紙面3

企画性も評価される時代に

――キリンビバレッジの「世界のKitchenから」は、二つの広告とは趣が違いますね。

 副田 アートディレクションの領域が広がっている話を先ほどしましたが、これは、そういう意味の企画性も評価されたものです。「世界のKitchenから」は、アートディレクターが商品開発からパッケージデザイン、広告まですべてかかわっているんですね。
 僕は、こういうものが評価されるというのは、ADCが成長してきている証拠だと思っているんです。それが、この広告がADC賞10作品の中に入った意義だと思いますね。
 今のコンビニは新しい商品が出ても、POSシステムでしっかり管理されていますから、売り上げが悪ければ短期間で棚から消えていってしまうことが多い。僕自身も体験したことがあるけど、そうするといくら新製品で新キャンペーンをやってもムダになるんですね。
 それで、「世界のKitchenから」は商品開発から仕掛けたんです。しかも、「世界のKitchenから」という大きなコンセプトで一棚を作って、新製品を次々と作っていく。そうすると、一つの商品が売れなくても、このコンセプトの商品がちゃんと棚に生き残っていくという発想で作られている。
 僕も商品企画から参加してくれと言われることはありますが、製品の仕様はほぼ決まっていることが多く、ネーミングやパッケージデザインに絡むことがほとんどなんです。そういうことも含めて、僕はこの広告を評価したんですね。
 中島 僕も、実は大分前に商品企画に携わったことがあります。サントリーの「エルク」というウイスキーにかかわったのが86年です。この時は、森を想起させるイメージを込めたボトルデザインから広告展開まで行いました。それから、JR東日本のVIEWカードの発行にカードコンセプトの段階からかかわったのが92年です。
 副田 でも当時は、変わったことしてるなあという周囲の反応だったんじゃないですか。
 中島 そう。そのころのアートディレクターには、「デザイナーがそこまでやることはない」という反応が多かったですね。僕自身にとっては、仕事として当然のことだったのですが、アートディレクションに対する考え方が、今とはかなり違っていました。でも、最近は、そこにアートディレクターがかかわることが大事になっているんです。

東海旅客鉄道「スムース」
紙面3
キリンビバレッジ「世界のKitchenから」
紙面4
紙面5
副田3

Soeda Takayuki
1950年福岡県生まれ。68年東京都立工芸高校デザイン科卒。スタンダード通信社、サン・アド、仲畑広告制作所を経て、現在、副田デザイン制作所主宰。主な受賞は、ADC賞、ADC会員賞、TCC特別賞、読売広告大賞最高賞、朝日広告賞最高賞、毎日広告デザイン賞最高賞、日経広告賞、日経広告賞商品広告賞、日本宣伝賞山名賞など。トヨタ「ECOPROJECT」、サントリー「ウイスキー飲もう気分」、ANA「LIVE/中国/ANA」、シャープ「アクオス」などの広告を手掛ける。


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