インテグレーテッド・コミュニケーションの時代

2008.8/vol.11-No.5


メディアが提供する価値の変化と二極化

 広告コミュニケーションにかかわる大きなトレンドが二つある。
(1)送り手主導から消費者(受け手)主導のコミュニケーションの時代へ
(2)広告枠のフォーマット内で表現する「広告クリエイティブ」からブランドのオリジナルコンテンツ開発「ブランデッドコンテンツ」の時代へ
 このトレンドを受けて、メディアやメディアプランニングする側に起こる現象は、従来のように既存の広告枠を売るスタンスだけでは収益をあげにくくなり、提供を求められる価値も変化し、かつ左記のように二極化すると思われる。
(1)「スペース提供」から「コンテンツ提供」へ
(2)「掲載面提供」から「広告投下対象者データベース提供」へ
 メディアのデジタル化とアドテクノロジーの登場で、メディアの広告ビジネスは、従来の概念の広告スペースを提供するだけではなくなる。その前兆はネット広告での「行動ターゲティング」に見ることができる。

行動ターゲティングの仕組み

 「行動ターゲティング」においてメディアは二つのポイントで価値を提供している。ひとつは従来どおり掲載面を提供することだが、もうひとつは、広告を配信する対象ブラウザを特定するためのユーザー情報を提供することだ。
 ネット広告では、行動ターゲティングの出現で、「どこに掲載するか」から「誰に配信するか」に大きく動き出すことになる。「誰」とは言っても匿名のブラウザ情報で特定するものだが、検索連動型広告が「アテンション」ではなく「インタレスト」を買う仕組みとなっているのと同様、関心を示すアクションを起こしたユーザーに広告を配信する仕組みである。デジタル化とアドテクノロジーの恩恵で得られるものは、単にセグメントの精度が上がるのではなく、関心が顕在化したユーザーにカウンターで広告を送り込むという従来にはなかった全く新しい価値を生み出している。

 メディアプランニングする側のスキルも、変革を求められる。
 メディアプランニングは従来、クライアントの対象ブランドにとって最も適したメディア、ビークルを選択する作業なので、一見広告主サイドに立っているようではあるが、実のところは、対象ブランドと広告メニューのマッチング作業といえるので、選ぶ権利はあるが、基本的にはバイイングサイドの論理でカスタマイズされるものではない。
 しかし「誰に配信するか」をプランニングする作業は、完全にバイイングサイドに立ったものでないとできない。
 どんな商品ブランドにもターゲットプロフィルが設定されている。自動車などに至っては緻密なマーケティング調査を積み上げて、時間と労力をかけて「ターゲットプロフィル」を設定している。そしてこのプロフィルは単にデモグラフィックで想定できるものではない。ライフスタイル、志向性など、サイコグラフィカルな切り取り方がされる。こうしたプロフィルから配信対象者を特定する作業には、新たなスキルが必要である。
 「行動ターゲティング」でブラウザを特定するキーは「○○というキーワードで検索したブラウザ」とか「○○の掲載記事を閲覧したブラウザ」になる(さらに企業Webサイトの訪問履歴のあるブラウザを対象にするなど、メディア側にかかわらない配信対象設定すらでてくる)。
 この時、このターゲットプロフィルが対象となるのであれば、検索ワードは何で、どんなコンテンツを閲覧したブラウザなのか、またそのブラウザに対してどんなタイミングで、どんなキーワードやメッセージを含んだ広告配信をするかを設計することになる。
 この作業は、ターゲットプロフィルとそこへのコミュニケーションコンセプトに十分精通していないとできない。
 またクライアント側の送り手の論理だけでなく、受け手である消費者側の琴線に、どんなキーフレーズやイメージが触れるかを理解している必要がある(検索連動広告でキーワードを提案するスキルはこれに近い)。
 ネットではこうしたマーケティング活用可能なレスポンスデータがふんだんにあり、スキルのあるマーケターによって読み取られる「インサイト」がある。

 さて、メディアが提供する価値のもうひとつは、やはり「コンテンツ」である。広告コミュニケーション開発が「広告クリエイティブ」だけでなく、「ブランデッドコンテンツ」開発にも拡大すると、メディアのコンテンツ開発力が必要になる。おそらくブランデッドコンテンツ開発は広告会社だけではできない作業で、メディア会社が広告スペース提供だけでは広告ビジネスの収益性を担保できなくなった場合、最も有力なビジネスモデルであることは間違いない。
 またクライアント企業のコンテンツ開発を担う役割が広告会社だけのものではなくなるということは、逆に言うと、メディア会社にも広告会社的な機能が求められる。かつ提供先が企業のWebサイトになるケースが多くなると、紙媒体のコンテンツ開発文化で育っていてもムービー制作やゲーム開発をプロデュースできないといけない。
 Webの世界はメディアビジネスのコンテンツ開発が収益に結びつきにくい。広告は大量なPVがないといけないし、有料コンテンツで成功したケースは稀だ。従来のメディア側のコンテンツ開発者のトランスメディア化が広告ビジネスでの新しい価値を生む鍵になるだろう。

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