CURRENT REPORT

2008.8/vol.11-No.5


需要拡大に高度な技術で対応 環境対策でも先導役に

 国際的に旺盛な鉄鋼需要を背景に、21世紀に入ってから好況を呈している鉄鋼業界だが、日本のエネルギー排出量の約1割は鉄鋼業界から排出されているとも言われ、CO2削減も同時に求められている。
 業界のリーディングカンパニーである、新日本製鐵の総務部広報センター所長丸川裕之氏に、環境対策への取り組みなどについて話を聞いた。

新日本製鐵株式会社 総務部 広報センター所長 丸川裕之氏
――鉄鋼業界は劇的な復活を遂げました

 1990年代には、日・米・欧の経済の減速に伴い、鉄鋼需要は頭打ちではないかと捉えられており、実際、世界各国の鉄鋼メーカーで組織している国際鉄鋼協会(IISI)の90年頃における2010年の需要予測も、7〜8億トンぐらいと、ほぼ横ばいと見積もられていました。
 ところが、2000年ごろからの中国を始めとしたBRICsの国々の経済発展に伴うインフラ整備、自動車、家電などの需要拡大により鉄鋼消費は拡大、昨年、世界の粗鋼生産量は13億トンを突破しました。
 国内需要も自動車、家電、造船、建設機械、産業機械の堅調な需要に支えられ、一時は1億トンを割り込んでいた生産量も、昨年度は約1億2000万トンを上回り、過去最高を記録しています。

――需要が増大する一方で環境対策も求められていますが

 鉄鋼業にとって環境対策は省エネルギー対策でもあり、省エネルギーは製造コスト削減に繋がりますので、既に1970年代から積極的な対策を講じていました。
 製鉄の工程は物理的にも時間的にも非常に長いのですが、まずは、そのプロセスを極力連続化し短縮することでエネルギー利用の効率化を図りました。また、製造過程で発生する熱を回収して製鉄所内の発電所で電力に変換しています。
 一例を挙げると、コークス乾式消火設備(CDQ)というシステムがあります。製鉄プロセスにおいてコークスを冷却する際に従来は水を使っていたのですが、窒素ガスを使用することで熱エネルギーの回収が可能となったんですね。これによって製鉄所での消費電力はほぼ自前でまかなえるようになっています。
 こうした取り組みによって、90年には既に20%を超える大幅な省エネルギーを達成しており、世界レベルで見ても最高水準のエネルギー効率を実現しています。
 ただ、鉄鋼業界では京都議定書に基づき、90年度比でエネルギー消費量の10%削減を旨とする自主行動計画を策定しましたが、近年の鋼材需要の拡大により、この計画を達成するために4400万トンに相当するCO2排出権を海外から1000億円で購入しているという現状があります。
 一方で、先ほどのCDQなどの省エネ設備を世界の製鉄所に導入すれば、3億トンものCO2削減が可能との試算もあります。
 京都議定書の第一約束期間の目標数値を守ることは当然ですが、日本の鉄鋼業界は環境技術を世界の鉄鋼業に提供しても構わないというオープンな考えですので、産業分野別に他国の非効率な生産設備への技術支援を通じてCO2削減を図る、いわゆるセクトラルアプローチを提唱していきます。

――身近な例では

 2000年からは廃プラスチックの有効活用にも取り組んでいます。全国5か所の製鉄所で、家庭から出るプラスチックごみをコークス炉で石炭とともに蒸し焼きにすることで、軽油、燃料ガス、コークスなどに100%再利用しているのです。
 今年の5月に当社の累計処理量が100万トンに達したのですが、これはCO2に換算すると320万トン削減にあたります。
 また、広畑製鉄所では廃タイヤを100%再資源化する技術も確立されており、日本の廃タイヤの約1割を処理しています。
 製鉄の工程は固体、液体、気体のすべてを大量に扱い、高温下で酸化も還元も行うので非常に高度な設備を要します。それゆえこうした面でも環境に貢献できるのですね。

――今後の見通しについてお聞かせ下さい

 IISIは2015年の鉄鋼需要が16億トンを超えると予測しています。中近東やアフリカも伸びてくると考えられます。
 国民生活の向上に社会のインフラである鉄は不可欠です。他の素材との競合はありますが、鉄は地球重量の3割を占めるといわれていますし、鉄の素材特性自体もまた、3割ぐらいしか解明されていないといいますから、まだまだ多くの可能性を秘めた素材であると言えます。現在、自動車のボディーに使われているハイテン材は、強さとしなやかさを併せ持った鋼板ですが、私が入社した30年前には考えられなかったほどの製品ですから。
 これからもユーザーと協調しながら価値のある素材を研究、開発して、新日鉄としては当面、生産量を現在の3600万トンから4000万トン台へと引き上げることが目標です。
 鉄鋼業界は規模の経済が働く産業だけに、アルセロール・ミッタルのような超拡大路線もひとつのビジネスモデルだとは思いますが、私たちの強みは技術力にありますので、単に規模の拡大を求めるのではなく、製品の質を高め、高級鋼材を主体に生産量を拡大していきます。
 日本の鉄鋼業界は、不況の90年代にも技術の研究開発は粛々と続けてきました。それが今日の技術優位につながっているんですね。

6月3日 朝刊

(梅木)

取材メモ

 幕末の1858年、南部藩士・大島高任が現在の岩手県釜石市にて、我が国で初めて近代的な洋式高炉による鉄の製造に成功。我が国の近代製鉄の幕開けを告げる出来事だった。
 近代製鉄発祥150周年にあたる今年、日本鉄鋼連盟では、各種記念事業を展開している。7月26、27日には、本事業の広報大使でもある、アーティストの石井竜也氏やサイエンスプロデューサーの米村でんじろう氏をゲストに招いて「鉄の星フェスティバル」を開催。知られざる鉄の素材特性を紹介し、子どもから大人まで好奇心を大いに刺激した。
 「『ものづくり』の大切さ、鉄鋼業が社会で果たしていく役割を業界全体で訴えていくことが目的です」と丸川氏。
 新日鉄を始め、連盟加盟各社の製鉄所、関連施設でもPR活動を行っている。

近代製鉄発祥150周年スペシャルサイト
http://www.steel150.jp/index.html

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