Creativeが生まれる場所

2008.8/vol.11-No.5


受け手の労力を減らす情報整理に「フレーム」活用

寄藤 文平氏

1973年長野県生まれ。2000年、有限会社「文平銀座」を設立。イラストレーションとグラフィックデザインを中心に、アートディレクション、企業や番組のロゴ開発、書籍の装丁、アニメーション制作などを手掛ける。代表作はサントリー「ザ・カクテルバー」、JT「大人たばこ養成講座」など。JT「マナーの気づき」広告でADC賞、日本タイポグラフィ年鑑大賞受賞。

 6月14日、和光市〜渋谷間の20.2キロを結ぶ東京メトロ副都心線が開通し、その当日、全15段の新聞広告が掲載された。副都心線の路線記号 F (○囲み) と!を組み合わせたマークが目に飛び込んでくるとともに、情報内容がストレートに伝わるシンプルなビジュアルは、今年2月から東京メトロの各駅で展開されたポスターと共通のものだ。
 このキャンペーンのグラフィック広告のアートディレクションを担当したのが、フリーペーパーR25の表紙やJT「大人たばこ養成講座」のイラストレーターとして、さらには本の装丁家としても活躍するアートディレクターの寄藤文平氏だ。

──まず、今回のキャンペーンの目的ですが。

 副都心線が開業するというインフォメーションをわかりやすく伝えることです。東京メトロにとって6月14日の副都心線開通は、03年の半蔵門線の水天宮前〜押上間開通、新線としては91年の南北線開通以来の大事業なんです。それを、きちんと告知することが目的でした。

3段階で動的に見せる

1弾
3弾
2弾
──キャンペーンは、2月の駅張りポスターからのスタートでしたね。

 まず考えたのは、ポスターの展開期間は開業までに3か月以上あり、東京メトロの各駅にある広大なポスターのスペースを使えるという前提があったので、副都心線の内容を段階的に少しずつ話していこうということでした。今年の2月から3期に分けて、第1期の「開通します」という大きな話からスタートして、第2期は「直通何分」「急行何分」など少し具体的な話をし、第3期では具体的な駅の紹介など話の内容を次第に深めていきました。
 3段階に分けた理由は、情報を動的に見せたかったからです。僕は、情報は常に動いているように見せないといけないと考えているんですね。

──情報を動的に見せるというのは、どういうことですか。

 例えば相撲で言えば、「朝青龍が強い」というのは今は情報ではないですね。しかし、「旭天鵬が強い」というのは新しい話だし、情報だと思うんです(笑)。
 時間が経過して、僕たちの中で馴染んでしまったものを僕は「スタンダード平面」と呼んでいるんですが、最初は突出した情報もいつかはスタンダード平面になってしまうんですね。そうすると、受け手にとってそれは情報でなくなるんです。だから、常にスタンダード平面を意識して、目の前の情報が常に動いているように見せることが広告にとって大事だと思っています。別の言い方をすると、今の時代、認知から具体的な話まで1枚の平面の中でやろうとしても、なかなか伝わらない。それなら、それを少しずつ動いた情報として見せようということなんです。

──新聞広告の考え方は、ポスターとは違うような気がしますね。

 ポスターはゴシック体、新聞は明朝体を使っています。ゴシック体には拡声機でみんなに知らせるというニュアンスが、明朝体には誠実に肉声で語りかけるというニュアンスがあると思うんですね。東京メトロのポスターを中心に展開していた告知のピリオドとして6月14日の開業当日に掲載した新聞広告は、ふだん東京メトロに乗っていない人も含めた世の中に対するご挨拶です。そのため、少しかしこまったフォーマルなスタイルが新聞広告にはふさわしいと考えたんです。

──このキャンペーンでは F(○囲み)!が重要な要素になっているように思いますが。

 まず副都心線そのものを表すF(○囲み)をニュースとして伝えていこうと考えました。そこで作ったポスターのフレームがF(○囲み)!と「副都心線、開業。」です。

──フレームというのは?

 F(○囲み)!と「副都心線、開業。」の間に、さまざまな情報を入れられる、同時にそれがデザインのフォーマットにもなっているということです。副都心線開通は、東京メトロにとって大事業ですから、伝えたいこともたくさんある。 F(○囲み)!と「副都心線、開業。」というフレームさえしっかりしていれば、どのような情報でも盛り込むことができると考えたんですね。

──今回のキャンペーンに限らず、寄藤さんのデザインはフレームのしっかりしたものが多いような気がしますが。

 今の時代は忙しすぎるし、文字にしろ映像にしろ情報が氾濫している。みんな広告をゆっくり見てくれるほど暇じゃない。少なくとも広告では「行間を読んでもらうこと」は期待しない方がいいと、僕は思っているんです。広告を好意的に見てもらうことだけでも大変なのに、それを理解してもらうのはもっと大変なことです。ですから、情報を受け取る労力を少しでも減らすことが大事で、その手助けをするのが表現のフレームです。アートディレクションにもいろいろなレベルがあると思いますが、情報の整理も大事な技術だと思っているんです。

広告主とお互いハッピーに

──広告だけでなく、本の装丁からイラストまで幅広く仕事をされていますね。

 イラストとデザインには共通する部分もあるし、違う部分もあります。共通する部分を挙げるとすれば、両者とも受け手に対して何らかの機能を果たすということです。だから、デザインは当然そうですが、イラストも目的がないと描くことができないんです。
 ですから僕は、仕事の依頼がきた時に、クライアントに「何を期待しているか」をまず聞きます。それを明確にすることで、クライアントの考えていることを共有することができるし、それに応じた提案ができると考えています。

──例えば、クライアントから文字を大きくしてくれとか、デザイン修正の要望があった場合はどうするのですか。

 確かに、完成したデザインを部分的に修正したらデザイン全体が壊れます。しかし、「この文字を大きく」とクライアントが言う場合は、そのデザイン自体を気に入っていないという無言のサインであることが多いんです。そういう時は、僕はデザインのフォーマット自体を根本から変えることを考えますね。

──しかし、中にはこういう表現でなければターゲットには伝わらない、というものもあると思うのですが。

 もちろん、クリエイターの個性で作る広告に圧倒的な力があることも知っていますが、僕はクライアント vs.クリエイターのような構図のなかで仕事をするのが本当に苦手なんです(笑)。 
 クライアントが広告に関していろいろなことを言うのは、当然だし、クリエイターはそういうクライアントの考えを先読みして、それを表現として提示するのが仕事だと思っています。広告が受け手に伝わるもので、それが本当にいいものならクライアントが「ノー」と言うわけがないというのが、僕の信念なんです。それが、クライアントにとっても、クリエイターにとってもハッピーな関係であり、これからもそういう関係性のなかで仕事をしていきたいと思っています。

6月14日 朝刊
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