経済カフェテラス

2008.7/vol.11-No.4


社員に食欲と意欲を引き出す地元産食材の活用

経済カフェテラス

 会社勤めをしながらのダイエットというのは難しい。昼は社員食堂、あるいは連れだって会社の近くの食堂へ。夜は家で手作りダイエット献立と思っても、残業でおなかが減れば外食、間食の誘惑には勝てない。疲れて帰れば、冷蔵庫の扉をあけて、ついビールという具合である。
 「メタボ」「メタボ」と騒がしくなり、企業も社員の健康管理に本格的に取り組み始めた。先日ある電機メーカーを訪ねたところ、相手は首からぶら下げた最近よくあるIC社員証を示し、「社内の支払いは全部これ一枚。便利です」という。もちろん社員食堂の昼食代金も社員証をかざして決済すればよい。ただし、給料日に明細を見ると、昼食代の引き落とし金額と一緒に、1か月の塩分や脂質摂取量などが表示されるという。「もっとバランスの良い食事を」という会社からの警告らしい。
 何事も管理、管理の世の中である。食券や財布のいらない食堂は便利だが、昼ごはんの楽しみまで会社の管理下に入りつつあるようだ。
 私たちは数値による健康管理にもすっかりなじみ、最近はファミレスに入ってメニューを見ても、サンプルの写真より、その下に表示されたカロリー数値につい目が行ってしまう。
 「好きな食べ物をおなかいっぱい食べたい」は、今や育ち盛りの子供の思いではなく、中高年のささやかな願いである。

社員研修所の味噌汁論争

 おいしい食事は仕事のエネルギーである。ある大手自動車メーカーでは、中央研修所に付設された宿泊施設の朝ごはんの味噌汁の味噌を何にするかが大問題だという。味噌蔵と醤油蔵は日本中のいたるところにある。味噌の原材料も味わいもその土地、土地で様々だ。たとえば、八丁味噌と信州味噌では風味がまったく違う。
 最近のインターネットの調査では、味噌汁は「おふくろの味」の首位の座を肉じゃがに奪われてはいるが、朝一杯の味噌汁で目が覚める、活力がわくという人(とくに男性)はまだまだ多い。この企業の悩みもそこにある。
 大企業の中央研修所には全国から職員が集まってくるから、どの地方の味噌で朝の味噌汁をつくるかが問題なのである。「この味噌汁では一日の労働意欲がわかない」と、クレームがつく。言い換えれば、人事部はこんなところにも気配りをしないと研修の成果にも影響が出るということだ。

イラスト

タイトルカット&イラスト・谷山彩子

2兆円市場で様々な工夫

 日本経団連では、5月に「自立した広域経済圏の形成に向けた提言」をとりまとめ、全会員企業約1300社に対し、社員食堂における地元農産物の利用を働きかけた。
 他社に先駆けて、その取り組みを始めている企業もある。聞くところによると、地元農産物を利用すると通常メニューよりも100円程度割高になることもあるらしいが、それでも好評なのは、新鮮でおいしいことと、社員の地元食材への愛着がこれを支持しているのだそうだ。
 東京都大田区下丸子に本社があるC社では、産地、生産者の写真を表示した地元野菜のサラダバーや、「イベントメニュー」と称して、江戸前タコやアサリを使った料理、地元野菜のかき揚げ丼などを社員食堂のメニューに加えている。同社の地方工場の食堂では、地元産の米や緑茶だけでなく、特産物のイチゴのタルトがデザートに出ることもあるそうだ。
 面倒なように思えるが、食堂を経営する側にとってもメニューに工夫が生かせ、やりがいが生まれるという。
 社員食堂などの事業所への給食は2兆円市場と言われる。大きな社員食堂では、仕入れの量も半端ではない。通常は献立に合わせ、数十キロ単位で専門の卸売業者から食材を仕入れている。
 地元農産物の利用と言っても、大ロットにまとまるものは市場を通じて全国へと出荷される。地元に残るのは小ロットのものが中心であるから、農家をまわってこれらをこまめに集荷して納品するというのは手間である。
 また、「地元産」を厳密にとらえてしまうと農産物の供給量に限界があり、この取り組みは成り立たない。C社の場合は、神奈川、千葉、茨城などまで範囲を広げ「地元農産物」としているという。
 それでも1事業所の1食分の野菜を全部地元産で供給するというのは、量的にも、品目数においても困難だ。社員食堂での地元産物の利用はメニュー全体の1〜2割程度というのが実情だ。
 人間の食は1日3食が基本であるから、そのうちの1食というのは、実は比重が非常に大きい。社員食堂が地元の農業に目を向ける、地元農業と社員の胃袋が結びつくことは、古くて新しい注目すべき取り組みである。

“できる企業”の健康管理

 企業を訪問した時、受付で会社の印象を判断するという人は多い。来客一人一人に、立ち上がりお辞儀をしてこれを迎える受付もあれば、最近民営化したばかりの会社の受付嬢はいずれもどっかりと椅子に腰をおろしたまま、来客に応対している。
 そして可能であれば、社員食堂ものぞいてみたい。「おいしい食事」「楽しい昼休み」の陰にそっと「健康管理」が透けて見えるような企業であれば、社員への気配り、心配りは最高だ。

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