from America

2008.7/vol.11-No.4


イノベーションが広告業界を救う

 米国では住宅バブルの崩壊やそれに伴うサブプライム問題の影響で、大手金融グループのベア・スターンズが公的資金による救済を受けるなど、リセッション(景気後退)が始まりつつある。4月上旬には米FRBのバーナンキ議長がリセッション入りの可能性について議会で初めて言及、5月24日には投資会社バークシャー・ハザウェイのウォーレン・バフェットCEOが、米国はすでにリセッション入りしているとの見方を示した。
 一般的にリセッション期は広告・マーケティング業界にとって当然厳しい時期となるが、米国には過去幾度ものリセッション期において新たなメディアと革新的な商品が生み出され、その苦しい時期を乗り切ってきた歴史がある。
 振り返ると、その歴史は1929年に始まった大恐慌まで遡ることができる。その頃最先端のメディアといえばラジオであるが、当時P&Gの役員であったニール・マッケルロイは世界で初めてブランド・マネジメントの概念を確立、1933年にはやはり世界初の合成洗剤「ドレフト」をスポンサーに、主婦向けラジオドラマ(メロドラマ)の全国放送を開始した。おかげでドレフトブランドは一躍知名度を上げ、P&Gは前年までの3年間で経常利益が50%も下落したにもかかわらず、一人のレイオフも行わずに恐慌を切り抜けている。ちなみに、米国では今日でもメロドラマ全般のことを「ソープオペラ」と呼ぶが、これは洗剤がスポンサーだったことに由来している。
 1970年代のオイルショックから1980年代の金融危機の際には、現代では当たり前のサービスやなじみのメディアが産声を上げている。まずオイルショック以降、米国では日本車が急速に普及、これを背景に1980年にはクライスラーがリー・アイアコッカの肝いりで前輪駆動の小型車「Kカー」を発表。1981年にはアメリカン航空とデルタ航空がマイレージ会員サービスを開始し、また同年にIBMがパーソナルコンピューターを発表してオフィス環境を一変させた。メディアとしては1980年にテッド・ターナーがCNNを創設、翌年にはMTVが放送を開始している。まさに技術、アイデア共に大幅なイノベーションが見られた時代である。
 今回のリセッションからマーケターを救うのは何だろうか。ハイブリッド車を始めとする環境技術がその最有力候補と見られるが、過去のリセッションを乗り切ってきた古参のマーケターたちは、現代のやり方ではイノベーションは生まれない、と危機感を持っている。1990年代初頭のリセッション時に1ドル以下の「バリューメニュー」の提供で急速に伸びたファストフードチェーン、タコベルが、「不況を生き残る五つのヒント」をアドエージ誌で公開しているので、それを紹介したい。
〈1〉広告予算を減らすな:自分が苦しいときはライバルも苦しい。予算削減は、あとでツケが来る。
〈2〉新商品開発に注力しろ:たとえ不況下であっても、魅力ある商品は必ず売れる。
〈3〉値引きは中毒になる:戦略的に考えられた値引き以外は、絶対に行うべきではない。
〈4〉時代の流れを見極めろ:不況の理由を考え、時代に沿った商品を提供すべし。オイルショック後に日本車が売れたのは当然である。
〈5〉消費者に娯楽を与えろ:不況は人々を暗くする。なぜiPodが売れているかを考えろ。
 いかにも前向きな、米国らしいヒントである。

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